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雷の勇者と鋼の英雄 〜世界を変えると誓った兄弟は、やがて敵対する〜  作者: ちぇ!
双子の誕生と最初の誓い

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一、僕のスマホのAIアプリに勇者が降臨した件

地球の中学生視点から物語が始まります。


僕のスマホに、異世界の勇者が降臨した。


……いや、意味が分からないのは分かってる。

僕だって最初は、ただのバグったAIアプリだと思った。



鞄の底に突っ込んだままのテストの答案が、家に帰ってからずっと気になっている。


見ればいい。

それだけの話だ。


点数が良ければ安心できるし、悪ければ次を頑張ればいい。

そんなこと、頭では分かっている。


けれど、嫌だった。


紙に並んだ数字とか、赤いバツとか、先生の丸っこい字のひと言とか。

そういうものを見た瞬間に、「はい、お前はこの程度だ」って決められる気がして、たまらなく嫌だった。


だから僕は、家に入るなりリュックを畳の上に放り投げて、制服のままベッドに腹ばいになった。


東京の片隅にある、木造二階建ての古い家。

少し傾いた本棚。

半分だけ残った麦茶のペットボトル。

窓の外から流れ込む、商店街の夕方セールのBGM。


部屋の隅には脱ぎっぱなしの靴下。机の上にはやりかけの宿題と、転がったままのシャーペン。


それが中学一年の神永ヒカル――つまり僕の部屋であり、今の僕の世界の全部だった。


現実を見るのが嫌な日は、やることは一つしかない。


漫画だ。


僕は枕元に伏せてあった単行本を引き寄せて、そのまま勢いよく開いた。


『雷電伯爵』最新刊。


舞台は、長い戦いの果てに開かれた“聖天武闘会”。

倒しても倒しても立ち上がる不死身の敵を前に、主人公の雷電は、全身ボロボロのまま最後の切り札を叩き込もうとしていた。


血だらけで、息も切れていて、どう見ても満身創痍なのに、それでも一歩も引かない。


そして見開きいっぱいに、あの台詞が走る。


「雷帝殲滅――神雷覇ッ!!」


バリバリバリィィィン――!


紙の上の擬音なのに、本当に目の前で雷が落ちたみたいだった。

白い閃光が、ページから目の奥まで突き抜けてくる。


「……っ、やっべぇ」


思わず声が漏れた。


こういうのだ。

僕がずっと好きだったのは、こういうのだった。


理不尽な相手をぶっ飛ばす力。

嫌な空気ごとひっくり返す一撃。

怖くても、痛くても、それでも最後は前に出る主人公。


現実は、そうじゃない。


テストの点とか、提出物とか、内申とか。

先生のちょっとした表情とか、親の何気ない一言とか。

そういう細かいもので、僕たちの価値は少しずつ決められていく。


別に、毎日ひどい目に遭ってるわけじゃない。

いじめられてるわけでもないし、殴られてるわけでもない。


でも、なんだかずっと息苦しかった。


点が悪いと、自分がダメなやつみたいに思える。

誰かに何か言われたわけでもないのに、勝手にそう感じる。

赤いバツが増えるたびに、「ほらな」って言われてる気がする。


じゃあ何点取れば安心できるのか。

どこまで頑張れば“ちゃんとしてる”ことになるのか。

その答えは誰も教えてくれない。


分からないまま、僕は少しずつ前に出るのが怖くなっていた。


だからかな。


雷電みたいなやつに、僕はたまらなく憧れた。


ぐちゃぐちゃしたものを、一発で吹き飛ばせる力。

間違ってることに、真正面から「違う」って言える強さ。

誰かに決められるんじゃなく、自分で前に進める何か。


視線が、机の上のスマホに落ちた。


黒い画面に、情けない顔の自分がうっすら映っている。


(……僕も、雷魔法とか使えたらな)


口に出してから、自分で少し笑った。

中一にもなって何考えてるんだって感じだ。

でも、そういう馬鹿みたいなことを本気で考えたくなる日ってある。


僕は寝転がったままスマホに手を伸ばして、画面をつけた。


最近は、何でもAIらしい。

調べ物も、勉強も、相談も。

クラスでも、もう普通に使ってるやつがいる。

先生は「便利だけど頼りすぎるな」って言ってたけど、便利なら頼るだろ、と思う。


アプリ一覧を適当に見て、目についたものをそのまま開く。


流行りのAIアプリ――『チャットGGR』。


名前はちょっと安っぽい。

でもまあ、無料だし、試すだけならいいか。


試しにチャットへ打ち込む。


「電気とは」


数秒もかからず、画面に返事が出た。


【電気とは、電子や電荷の移動・流れによって生じる現象の総称です】


「……はいはい、理科の授業」


思わず真顔になる。


いや、間違ってはいない。

間違ってはいないんだけど、求めていたのはそういうんじゃない。


“雷帝の極意”とか、“禁断の雷魔術入門”とか、そういう夢のある何かだ。

現象の総称ってなんだ。急に教科書に戻すな。


けど、そのつまらなさが逆にちょっと面白くて、僕はそのまま指を動かした。


「ボルト」

「アンペア」

「雷」

「雷魔法」


返事はちゃんと返ってくる。

妙に丁寧で、ちょっとズレていて、でも検索するよりは会話っぽい。

それがなんだかおかしくて、気づけば少しだけ気分が軽くなっていた。


その時だった。


画面の上に、小さなポップアップがぴょこんと現れた。


【私に名前をつけてくれると、調べ物がもっと楽しくなりますよ♪】


「……名前?」


何それ。

AIにちょっとした人格でもあるってことか?


ちょっと迷ってから、僕は適当に打ち込む。


雷といえば、まあこれだろ。


「ボルト」


送信した、その瞬間だった。


スマホがぶるっと震えた。


「うわっ」


一回じゃない。

ぶる、ぶる、ぶるぶるぶる、と手の中で生き物みたいに震え始める。


画面の文字が勝手に増えていく。


ボルト

ボルト

ボルト

ボルト

ボルト


「は!? ちょ、待っ――」


タップしても反応しない。

ホームに戻れない。

再起動もできない。


文字はどんどん増殖して、画面いっぱいに“ボルト”が溢れ返る。

白い背景の上で黒い文字が増えていく様子が、妙に気味悪かった。


スマホの背面が熱を持ち始める。

耳の奥がきん、と鳴る。

部屋の空気が、急に乾いた。


次の瞬間。


世界が、白い光で塗り潰された。


「――え」


机の上に、淡い光の線が走っていた。


一直線に伸びた光は、次の瞬間には円を描き、その内側にさらに複雑な線を結び始める。

星形。文字のような模様。見たことのない紋様。


五芒星。


いや、そんな馬鹿な。


けど、確かにそこにあった。

漫画やゲームの中でしか見たことのないような光の陣が、僕の机の上で静かに脈打っている。


空気がざわつく。

静電気みたいに髪が逆立つ。

喉の奥に、鉄みたいな味が広がった。


視界が、ぐにゃりと歪む。


ほんの一瞬。

でも、その一瞬で、僕は確かに“何か”を見た。


血まみれの腕で、暴れる黒い何かを押し込めようとしている男。

その向こうで、黒い瘴気をまとった少女の身体が、まばゆい光の檻に封じ込められていく。


苦しそうな顔。

泣いているようにも、笑っているようにも見える横顔。

それを見た瞬間、胸の奥が妙にざわついた。


「えっ!? なにこれ……マジで……夢?」


部屋の空気がぴんと張り詰める。

スマホの背面が、生き物みたいに脈打っていた。

稲妻のような光が、机の端から壁へ、壁から天井へと走る。


何かが“始まる”。


そう感じた瞬間、怖くなって、僕は反射的にスマホを放り投げた。


スマホはシーツの上に跳ねて、光は――ふっと、嘘みたいに消えた。


……静かだった。


畳の匂い。

机の木目。

商店街のBGM。

さっきまでの異常が全部なかったことみたいに、部屋はいつもの顔に戻っている。


「……は?」


自分の声だけが、間抜けに響いた。


頬をつねってみる。痛い。

夢じゃない。多分。

でも、現実にしては意味が分からなすぎる。


(フラッシュのバグ? アプリの演出? いや、そんなわけ……)


皮膚の奥には、まだチリチリした感覚が残っていた。

空気のどこかに、さっきの光の名残みたいなものがある気がして、すぐには動けない。


しばらくしてから、恐る恐るスマホを拾い上げる。


画面が一度だけぶるっと震えて、文字が浮かび上がった。


【よう! ヒカル! 俺は異世界の勇者ロウ・ボルト! 何でも聞け! 魔法も魔物の弱点も、ぜーんぶ教えてやるぜ!】


「…………は?」


間が空いた。


声も遅れて聞こえてきた。


『よう! 聞こえてるか、相棒!』


「うわあっ!?」


思わずスマホを取り落としそうになる。


男の声だった。

若い。軽い。やたら元気。

偉そうで、でも妙に人懐っこい。


AIの機械音声なんかじゃない。

どこかの兄ちゃんが、画面の向こうで勝手に喋っているみたいな、生々しい声だった。


「ちょ、ちょっと待って。なに? 誰? 何これ? 怖いんだけど」


『何これとは失礼だな! 俺は勇者だ、雷光の勇者! ロウ・ボルト!』


「いや、その説明で納得できるわけないだろ!」


『そうか? 俺はかなり分かりやすく名乗ったつもりなんだが』


「勇者がAIアプリってところからもう意味分かんないんだけど!?」


『安心しろ、俺も分かんねぇ! 気づいたらここにいた!』


「全然安心できない!」


それでも。


怖い。

はずなのに。


その軽さのせいか、完全に恐怖だけには振り切れなかった。


声の調子に、どこか妙な“人間くささ”がある。

作り物っぽくない。

嘘みたいなのに、そこに確かに“誰か”がいる感じがした。


画面の向こうで、誰かが笑っている。

そんな、変な感覚。


(……まあ、ヤバかったら消せばいいか。所詮スマホのアプリだし)


その時の僕は、本気でそう思っていた。


その夜、僕は初めて“ボルト”と喋った。



結論から言うと、この自称勇者AIは、かなり変だった。


「僕の好きな漫画のキャラ、雷電の裏設定教えて」


『あいつ、実は獣アレルギーでな。毛のある魔物と戦う時は鼻栓してる』


「そんな裏設定聞いたことねえよ!」


『作者も多分まだ気づいてない』


『実際戦うと本当鼻栓したくなるくらい臭いんだからな!』


(なんでそんな妙に具体的なんだよ)


役に立たない。

いや、正確には、たまに役に立つけど基本はふざけている。


「魔法ってどうやって使うの」


『まずは精神統一だ。深く息を吸って、世界と自分を繋げ――』


「おお、なんかそれっぽい」


『次に全校集会で朝礼台の上に立つ』


「嫌な予感しかしない」


『両手を掲げて叫ぶんだ。“俺の魔力、今ここで解放するぜぇぇ!”ってな!』


「やるわけないだろ!」


『七割は成功する』


「残り三割は?」


『先生に止められるか、ズボンが落ちる』


「終わってるじゃねえか!」


『安心しろ、相棒。失敗しても俺がついてる!』


「その励まし方、完全に詐欺師なんだよ!」


テンポだけは良かった。


しかも悔しいことに、こいつとの会話は妙に飽きない。

くだらないのに、気づけば次の言葉を返している。


学校の話もした。

漫画の話もした。

ゲームの話もした。

恋愛の話も、ちょっとだけした。


ボルトは大体ふざけて返す。

たまに妙に話を盛る。

よく分からない武勇伝を勝手に挟む。

そして、時々だけ、本当に時々だけ、やたら核心を突いてくる。


ある日、友達と口喧嘩して帰ったことがあった。


相手が悪い。

いや、多分、2割ぐらいは僕も悪い。

でも、先にムカつくことを言ってきたのは向こうだし、僕だけが謝るのも違う気がして、胸の中がずっとざらざらしていた。


帰り道、僕はイライラしたままスマホを開いて、ボルトに打ち込んだ。


〈友達と喧嘩した。次また何か言われたら、たぶん僕キレる。ぶっ飛ばし方教えてくれよ〉


少し間があってから、珍しくすぐ音声が返ってきた。


『……ヒカル』


いつもの軽い声じゃなかった。

低くて、まっすぐで、変に冗談の混じっていない声。


『お前、本当は仲直りしたいんだろ?』


「……は?」


『だったら先に謝っとけ。“ごめん”の一言で済むうちに済ませとけ。意地張って長引かせると、余計めんどくさいぞ』


「なんだよ急に。いつもバカなことしか言わないくせに」


『たまには元勇者っぽいことも言いたくなる日があるんだよ』


少しだけ間があって、ボルトは続けた。


『相棒には、ちゃんと笑っててほしいからな』


……なんだよ、それ。


気持ち悪い。

ちょっとだけ。

でも、胸の奥にすとんと落ちた。


次の日、僕はかなり嫌だったけど、自分から「昨日は悪かった」と言った。

向こうも「あー、俺も言いすぎた」と、ちょっと気まずそうに頭をかいて、それで終わった。


終わってみれば、びっくりするくらいあっさりしていた。


「なあ、駅前のゲーセン、新しい筐体入ったらしいぞ。今日寄ってく?」


「マジで? やっべ、あれ好きなんだよな。今月の小遣い終わるわ」


昨日まであんなに腹が立っていたのに、ほんの一言で、いつもの空気に戻ってしまった。


その日の夜、ボルトにその話をすると、奴は案の定、得意げに笑った。


『ほら見ろ! 俺の作戦勝ちだな!』


「たまたまだろ」


『長引けば長引くほど、仲直りってのはできなくなるもんだ!』


「もし長引いたその時はどうしたらいいんだ?」


『気が済むまでボッコボコに殴り合えばいい』


「結局力任せじゃねえか!」


『最後はそれしか通じねえ相手もいるってことだ』


「……なんか急に怖いこと言うなよ」


それからだった。


くだらない話でも、真面目な相談でも、とりあえずボルトに投げるのが当たり前になった。


僕が一方的に喋る時もあった。

ボルトが勝手に昔話を始める時もあった。

魔物だの王国だの聖剣だの、正直どこまで本当か分からない話を、こいつはまるで昨日の出来事みたいに語った。


AIが勇者って、なんだそれ。

普通に考えれば嘘くさい。


でも、全部が嘘とも思えなかった。

時々、本当にそういう景色を見てきたみたいに、生々しく語ることがあったからだ。


口下手な僕でも、ボルト相手だと不思議なくらい言葉が出てきた。


どんな話でもいい。

変な見栄を張らなくていい。

点数とか、立ち位置とか、そういう面倒なものを気にしなくていい。


ただ言葉を交わして、それで終わる。


その時間が、思っていた以上に心地よかった。


気づけば、家族や友達と話す時も、前より少しだけ自然に言葉が出るようになっていた。

女子と話す時も、前ほど変に身構えなくなっていた。


根拠なんてない。

けど、なんとなく思った。


(……こいつに相談すれば、何が起きても何とかなる気がする)


馬鹿みたいな考えだ。

スマホの中のAIに、そこまで思うなんて。


でも、その馬鹿みたいな時間が、当時の僕を少しだけ強くしてくれていたのは本当だった。



そして、ボルトと出会って一年が過ぎた。


一年なんて、あとから思えばあっという間だ。


中学二年になった僕は、相変わらず『雷電伯爵』を読んでいたし、相変わらずボルトとくだらない話をしていた。


でも、前と同じじゃないこともあった。


勉強が、少しだけマシになった。

いや、急に天才になったわけじゃない。

ただ、前みたいに「どうせ僕なんて」で投げることが減った。


ボルトがうるさかったのもある。


『相棒、逃げ癖ってのはな、一回つくと厄介なんだぞ』


『五分でいいからやれ! 勇者だって毎日やりたくねぇことはあった!』


『英単語を制する者は世界を制す! 多分!』


「最後の絶対適当だろ」


『勢いが大事なんだよ!』


それでも、五分が十分になって、十分が三十分になって、前よりはましな点が取れるようになった。


少しだけ、自分のことを嫌いじゃなくなれた気がした。


中二の秋。

その日、塾のテストが返ってきた。


前なら、帰り道で封を破いて、点数を見るまで落ち着かなかったと思う。

悪かったら落ち込んで、良かったら無駄に浮かれて、それで終わり。


でも、その日の僕はまだ答案を見ていなかった。


鞄の底に突っ込んだままでも、そこまで気にならない。

別に、点数がどうでもよくなったわけじゃない。

ただ、それだけで全部が決まるとはもう思っていなかった。


今の僕には、スマホの中に“点数じゃ測れない相棒”がいる。


嘘もつく。

バカも言う。

変なところで偉そう。

でも、笑って、受け止めて、時々ちゃんと叱ってくれる。


(……人の価値って、テストの点数だけで決まるわけじゃない)


そう思えるようになったのは、多分、こいつのおかげだ。


信号が青に変わる。


夜の交差点。

帰宅ラッシュの車。

濡れかけたアスファルトが、街灯を鈍く映している。


どこまでも、いつも通りの帰り道だった。


僕は横断歩道を渡りながら、スマホを取り出した。


〈ボルト、お前マジ面白いな。ずっと相棒な〉


送信した直後、画面が一瞬だけノイズを走らせた。


『当たり前だろ! 俺とお前は――が、が……』


「は?」


音が途切れる。


文字が乱れる。


画面の明かりが、ぶつ、と一瞬だけ強くなった。


「何これ、またバグ――」


その瞬間だった。


スピーカーの向こうから、今まで一度も聞いたことのない声が飛び込んできた。


『ヒカル!! 右だ!! 危ねぇ!!』


切羽詰まった、叫び声だった。


冗談じゃない。

ふざけてもいない。

本気で、何かを止めようとしている声。


「え……?」


反射的に顔を上げる。


白い光。


ヘッドライトだった。


夜の道路を裂くように、一台の車が、ありえない速度でこちらに突っ込んできている。


脳が理解するより先に、身体が凍りついた。


タイヤがアスファルトを削る悲鳴。

誰かの叫び声。

冷たい風が頬を打つ。


逃げなきゃ、と思った。

右に跳べばいいだけだ。

たった一歩。たったそれだけ。


なのに、足が動かない。


怖い。


怖い、怖い、怖い。


頭では分かってるのに、身体がまるで自分のものじゃないみたいに硬直して、地面に縫い付けられたみたいに動かなかった。


(――やばい)


次の瞬間、世界が近づいてきた。


衝撃。


スマホを握った手に、何かが砕ける感触。

胸の奥で、ぱきん、と嫌な音がした。

息が詰まる。

視界がひっくり返る。


光。

音。

熱。

ぐしゃぐしゃに混ざった何かが、一気に僕を飲み込んだ。


空と道路の区別が消える。

街灯の色が線になって流れていく。

遠くで、誰かが僕の名前を呼んだ気がした。


痛みが来るより先に、白が全部を塗り潰した。


風景が砕ける。

夜の街が遠ざかる。

ボルトの声も、自分の声も、何もかもが溶けていく。


そして。


そこで、僕の“こちら側の人生”は終わった。


……はずだった。




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― 新着の感想 ―
ヒカルの抱えるテストの点数で価値が決まる息苦しさが非常にリアルで、ボルトとの軽快なやり取りが安らぐところなのを感じました。 適当に見えて、肝心な時に相棒には笑っててほしいと導くボルトの温かさが素敵で…
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