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クズの恋愛相談

作者: 咲月なな

 深夜0時。まさに寝ようとしていた矢先、スマホの通知が鳴った。

 画面には『白石』と表示されていた。

 野暮用だったら遠慮なくシカトさせていただこうとアイコンをタップすると、『今ちょっといいですか』と内容の見えないメッセージだった。

 どうした、とだけ送るとすぐに既読がついた。

 数秒でまたメッセージが送られてきた。

 『実は彼女にフラれたんです』

 それほど、驚くことでもなかった。

 昨年の秋、中学3年生の学校祭で白石に彼女ができた。

 白石には失礼だが、彼女は、白石には釣り合わないほどの可愛くて優しい子で、どうして白石が、と学年中の誰もが思ったことだろう。 

 だが、蓋を開けてみれば、彼女は白石に告白され、断ったら執着してくるタイプだと知っていたために断れず付き合ったのだという、なんとも不憫な話だった。

 高校は別々の学校になったと言うので自然消滅したかと思われていたが、どうやらひっそりと続いていたらしい。

 そして遂に、白石は玉砕した。

 『それはご愁傷さまで』

 なんて、私が返信してしまえば、白石の豆腐でできたメンタルは一瞬で崩壊、次の日から学校を休んでしまうに違いない。いや、このまま放置しても、私が慰めの言葉をかけても、どちらにせよ学校を休みそうだ。何しろ、中学時代に男子クラスメイトと喧嘩し、3日間学校を欠席した過去があるのだ。

 『それは大変だったね』

 ここは当たり障りないように……と考えて送信したが、かえって冷たく見えるような気がしてきた。

 『もう心折れそう』とまたすぐに返信が来た。『ちょっと通話できたりしない?』

 失恋してすぐに女に連絡してくる男と、深夜に通話。

 怪しい素材が揃いすぎている。

 迷わずメッセージを打つ。

 『眠いので寝ます』

 『待って待って待って』

 画面越しでも焦りが伝わってきた。 

 『ほんとに少しだけなんで』

 『ほんとに眠いんで』

 『お願いします』

 『眠いです』

 『もう明日から学校行けない』

 それを言われると流石に可哀想に思えてくる。

 『聞いてくれるだけでいいんで』

 仕方がないので、聞くだけ、と言って了承した。

 通話をつなぐと、『ありがとう』と泣き出しそうな声だった。

 『もうほんとに悲しくて、現実受け止められない。ほんとにさっきなんだ。急にメッセージ来て、別れたいって……俺、まだ好きだったのに。』

 白石は喋り通してから、急に止まった。

 『長嶋?起きてる?』とうろたえているようだ。『何か言ってよ』

 「聞いてくれるだけでいい、って白石が言ったんだよ」

 私は眠い。

 『すみませんでした。ちょっとでも話してくれると心の支えになるんですが』

 「はい」

 『ありがとうございます。それでさ、もう何度も連絡してみたんだけど、無理、の一点張りで』

 「そうですか」

 『ねえ、つめたい』

 「失恋ソング送ってあげるから元気出して 

 『それ逆効果じゃないの』

 「傷の舐め合いするようなものでしょ」

 いくつか曲のリンクをメッセージで送信するとまもなくうめき声が聞こえてきた。

 『う……これ、結構刺さるね……歌詞が俺。えぐられる』

 「ああ、この『まだ好きなんて言えない〜』ってところ?」

 『あ、的確に傷口をえぐらないで』

 「ごめんごめん」

 白石から話を聞いてみると、一方的にフラれてからメッセージを送っても、返信はしてくれるものの、「無理」や「話したくない」と、ほとんど逃げるような内容ばかりらしい。 

 『もう立ち直れない……夏祭りとかどうすれば良いんだ』

 夏祭り?夏祭りがどうかしたのだろうか。

 『一緒に回る女子がいなくなっちゃった。誰と回ろう』

 「友達と回ったら良いじゃない」

 『女子と回りたい』

 私は白石の言いたいことに薄々勘づき始めた。

 最初に感じた、「怪しい素材」が組み合わさって形をなそうとしている。

 頭の中に一つの仮説が立った。

 白石は、彼女がいることをステータスだと思っていて、彼女がいる自分、彼女と祭りを練り歩く自分が好きなのではないか。

 要は、彼女を、自分を引き立てる要素の一部だと思っているように感じた。

 早々に通話を終わらせることにする。

 「女の子口説けるように頑張ってね。それじゃあ私はこれで」

 「あ、今、DM送ってみようかな、良いと思う?」

 話の飲み込みが早すぎて通話を切ることに失敗した。

 内心、舌打ちしながらも、少し気になったので一応聞いてみる。

 「誰に?」

 「同じクラスの、花音って子。超可愛い」

 花音は私も知っている。同じ部活で、最近話すようになった子で、可愛いと学年で密かに注目を集めている。よりによって、その花音に狙いを定めるとは。あんな優しい子が白石のような利己的な男に口説かれるなんてあって良いことではない。

 そんなだから彼女にフラれるんだと言いたいところをぐっと堪え、「花音可愛いよね」と同意をした。

 「よし、送ろうっと」

 画面越しにはずんだ声が聞こえた。

 「え、まじで」

 「……え、送っちゃった」

 これは、近い内に花音に注意喚起をした方が良いのかな、と申し訳なく思いつつ、今度こそ、「もう遅いから、おやすみ」と通話を切った。


 後日、部活動の昼休憩中、花音、律斗、久世と弁当箱を広げていたときのことだ。

 私は、先日白石と花音との間でなにかあったのか、何も聞いていない。そして、どう切り出してよいのかわからず、花音に白石の話をすることができずにいた。

 夏休みが近く、祭は誰と回るんだとか、そういう話から、今気になる人はいないのか、という方面の話になった。

 花音に話を振ってみると、驚く返答が返ってきた。

 「最近、白石といい感じなんだよ」

 可愛らしい顔にニコニコと笑顔を浮かべて、花音は言った。

 「「「え」」」綺麗な三重奏だった。

 DMでよく話すし、席近いから学校でも話すし、あと、白石優しいよね……と惚気顔で話す花音。

 誰も何も言わない空気に違和感を覚えたように、ん?と首をかしげる仕草はやはり可愛らしかった。

 白石や花音と仲が良く、何も知らないはずがない律斗は素知らぬ顔でタコさんウインナーをつついていた。

 ちらりと横目で隣を見ると、卵焼きを口に運んでいた久世と目があった。

 久世は黙って顎を花音の方へしゃくった。

 「教えてやれ」と彼の目は言っている。

 人を顎で使うなと言いたいところだが、今はそれどころじゃない。

 「花音」私は覚悟を決めた。

 「白石はやめといたほうが良いと思うよ」

 疑惑の色が花音の顔に浮かび上がってくる。

 困惑気味に笑顔で尋ねてきた。

 「……えぇ、どうして?理由って、聞いても良い?」

 「理由……」

 先日通話で聞いたことを洗いざらい話してしまっても良いのだろうか、と迷いが生じた。

 私と白石と中学からの付き合いで、白石の腹黒さを知る久世に視線で助けを求める。

 「俺も、白石はやめといた方が良いと思うな」

 久世が苦笑いでそういった。

 「俺目線の感想なんだけど、ちょっと自己中心的っていうか、他人のこと考えてない様に見える」

 「……僕もそれわかるかも」

 と律斗は言いにくそうにもじもじした。

 それを聞いた花音は綺麗な眉を寄せた。

 「白石くん、すごく優しいよ?」

 「花音の前だからな気がする……」この際、素直に感想を伝える。

 「うん、多分それは、猫被ってる。200匹くらい」久世も乗っかる。

 律斗は、友達の悪口を言うことに抵抗があるようでやはり言いにくそうだった。

 それを見て、花音は思案顔で口を開いた。

 「二人がそんなに言うなら、やめといた方がいいのかなあ」

 「私たち、意見合うことほぼ無いから。珍しいよ、こんなに意見合うの。信用していいと思う」

 私と久世はとにかく意見が合わない。価値観とか人格とか、そういう次元から異なっている。

 「それはそう」久世は苦笑して言った。

 「……うーん、さっきまでDMで話してたんだけど……。わかった、今度からちょっと気をつけてみる」

 花音は、あまり納得言ってなさそうだったが、そう言って頷いた。

 私達は、ほっと安堵の息をついた。


 その数週間後、花音が白石に花火大会に誘われたと私達に相談を持ちかけてくることになるのだが、それはまた別のお話。

読んでくださりありがとうございます。

そのうち、「花音」や「律斗」、「久世」の登場シーンが多い話を書きたいです。構想はなんとなく練っているのですが、部活関連のストーリーになると思います。

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