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君は愛しのメランコリア  作者: 桔梗


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厄介な訪問者

やがて、客間の前でグレイが足を止めた。


「ユリウス様、奥様」


静かな声で一礼する。


「レベッカ・ローゼン侯爵令譲をお通ししております」


ユリウスが短く頷くと、グレイがそっと扉を開けた。


扉が開くとすぐに、レベッカはユリウスを見た。

その瞳が一瞬だけ明るくなり、次いでセレナへ移る。

歓迎していないことが、嫌というほど伝わってくる。


「突然の訪問をお許しくださいませ、ユリウス様」


レベッカは優雅に一礼した。


「ご結婚のお祝いを、一刻も早くお伝えしたくて」


「わざわざありがとう」


ユリウスの返答は礼儀正しく、だが淡白だった。


セレナはその横顔を見た。


「それから――」


レベッカが、いよいよセレナの方へ体を向ける。


「エヴァレット嬢……あ、失礼。アーデルハイト侯爵夫人ですわよね、ご結婚おめでとうございます」


完璧な笑顔だった。

セレナもまた、同じだけ整った微笑を返した。


「セレナでいいですよ。ありがとうございます、ローゼン嬢」


お互いに見えないところで火花を散らしているような感じだ。


「ユリウス様が、こんなにも早くお相手を決められるなんて思ってもみませんでしたの」


柔らかな口調。

だが、言葉の先には棘がある。


つまりそれは、セレナの存在が予想外で、歓迎できないという宣言に等しかった。

セレナは穏やかなまま答える。


「私も驚いたわ。人生には何が起こるか分からないものね」


レベッカの目が、わずかに細くなる。


(あなたにはこの言葉の本当の意味が分からないわよね)


何度人生を繰り返しても、なお分からないことばかりだ。

だからこそ、目の前の令嬢の敵意など、なんでもない。


「ユリウス様は昔から、あまり女性に興味を示されない方でしたもの」


レベッカはそう言って、わずかに視線を伏せた。


「ですから、社交界では皆、驚いておりますのよ」


「ローゼン嬢」


ユリウスが静かに名を呼んだ。


その一言だけで、客間の空気がぴんと張る。

レベッカはすぐに顔を上げ、微笑みを崩さなかった。


「失礼いたしました。ですが、本当のことですもの」


声音は穏やかだった。


彼女は小さく息を整え、それから従者に目配せした。

箱が一つ、ユリウスとセレナの前へ運ばれる。


「お祝いの品をお持ちしましたの。ささやかではございますが、お受け取りくださいませ」


深い紺色の箱には、銀のリボンがかけられている。

見ただけで高価な品だと分かる。


「ありがたく頂戴いたしますわ」


セレナが礼を言って、受け取る。


「セレナ様」


「なにかしら?」


「侯爵夫人になられたばかりで、きっと大変なことも多いでしょう?」


その言い方が、妙に優しかった。

優しげであるほどに、その内側の悪意が透ける。


「アーデルハイト家は名門ですし、ユリウス様は帝国中の期待を背負っておられますもの」


つまり、アーデルハイト侯爵家の夫人が務まるのか――そう言いたいのだ。

セレナは一瞬だけ目を伏せ、次いで静かに微笑んだ。


「ええ。だからこそ、学ぶことがたくさんあって嬉しいわ」


レベッカの笑顔が、今度こそほんのわずかに固まる。


セレナは続けた。


「それに、ユリウスが支えてくれるから心配していないの。夫婦は互いに支え合わないとね?ユリウス」


ユリウスが驚いたようにセレナを見つめ、セレナの手の上にそっと自分の手を添えた。


「あぁ。その通りだ」


ユリウスの穏やかな表情を見て、レベッカは驚いたようだった。


「……そうですの……」


その声は、先ほどより少し低かった。


「本日はお邪魔いたしました。長居するつもりはありませんでしたの」


彼女は再びユリウスへ向き直る。


「どうかお幸せに、ユリウス様」


それが祝福ではないことは、誰の耳にも明らかだった。

レベッカが去っていくと、客間には静寂だけが残った。


扉が閉じる音がやけに大きく響く。


「……思っていたより早かったわね」


「何がだ」


「新しい生活を歓迎しない人が現れるのが」


セレナが淡々と言うと、ユリウスは彼女を見た。

その視線は静かで、だがどこか探るようでもある。


「気にするな」


「気にしていないわ」


そう答えながら、セレナは自分でも気づいていた。


少しだけ、疲れている。

レベッカの敵意そのものよりも、あれを“いつものこと”として受け流せる自分に、少しだけ疲れていた。


「そうか。ドレスを仕立てるのは別の日にしようか?」


(そうだった……)


「いいえ、せっかく来てくれてるんだもの。いきましょう」


ユリウスはセレナに手を伸ばした。

セレナが彼の手をとり、立ち上がると、ユリウスはセレナをさっと抱き抱えた。

いわゆる、お姫様抱っこである。


「疲れてるだろう」


「……ちょっと!恥ずかしいからやめてよ!」


セレナが慌てていると、グレイは少し微笑んでから、そっと目を逸らした。


「奥様、誰も見ておりませんので、ご安心くださいませ」


「そういう問題じゃなくて……」


セレナが「もういいわ……」と言うと、

ユリウスは「君のそんな表情が見れて満足だ」とまるで子供のように微笑んだ。


初めて見る表情に、セレナはドキッとしたのだった。

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