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君は愛しのメランコリア  作者: 桔梗


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呪い

――目を覚ますと、また見慣れた天井があった。


淡い刺繍。薄青のカーテン。春の匂い。

だが、何かが違う。


胸に走る違和感。

手を見下ろす。


細い。小さい。


(……嘘でしょう)


鏡に映った自分は、十四歳の姿だった。


(ありえない……)


息が荒くなる。


ルシアンの血の温もりが、まだ指先に残っている。

全てがあまりに鮮明で、この現実を受け入れられない。


(また、この体で……また、この人生を……?)


喉の奥から、笑いにも嗚咽にもならない音が漏れた。

神は、残酷だ。


二度目の人生で、彼女は確かに幸福を掴んだ。

帝国も、皇后の座も捨てて、ただ一人の女として愛された。

あの二年間は、確かに生きていると実感できた。


「……また繰り返すの……?」


やがて、静かに決意が固まる。


(もう二度と、愛を求めない)


あの幸福があるから、今が地獄になる。

ならば最初から、何も持たなければいい。


(誰も愛さない。誰も信じない)


それが、自分の心を守る唯一の方法だと、彼女は理解した。


***


セレナは社交界から姿を消した。

体調不良を理由に舞踏会を欠席し、茶会も断り、屋敷の一室に閉じこもった。


だが、逃げ場などない。


アレクは頻繁に屋敷を訪れるし、レオンも優しい頃のままだ。

何が一番辛いかといえば、二回目の人生での、美しく幸せだったあの頃を忘れられないことだ。


アレクの赤い瞳を見るたび、どうしようもない怒りが込み上げてくる。

レオンは相変わらず優しい。それが苦しい。


粗末な食卓。

暖炉の前。

ルシアンの穏やかな声。


彼の言葉で、彼の愛でーーどれほど救われたか。

だが今、その記憶は救いではない。


眠るたび、夢を見る。

何度も、何度も、ルシアンの死が繰り返される。

もう限界という概念すら、通り越していた。


誰にも理解されないし、説明することもできない。

愛した人を“美しい思い出”として保存することさえできない。

それが、何より苦しかった。


ある夜ーー。


衝動的に、机の引き出しを開け、護身用の短剣を取り出した。

冷たい刃を握る。


(そうだ。また終わらせればいい)


恐怖はなかった。

二度目で、死は優しいものだと知ったから。


十六歳の誕生日を迎える前に、彼女は静かに自ら命をたった。

これまでの人生で一番静かな死に方だった。


死ぬことなんて怖くなかった。

ただ、この永遠のように感じる日々が終わることだけを願った。


(これで、やっと終わる)


だが、彼女はやっと確信した。

自分は神に呪われているのだとーー。



***


再び目を覚ましたとき、身体はさらに幼くなっていた。


十一歳。あるいは十二歳くらいだろうか。

絶望が、言葉を失わせる。


(……私は死ぬことすら許されないの?)


死ぬことさえ許されないなんてそんな残酷なことがあるのだろうか。

セレナは再び護身用の短剣を手に取り、命を絶った。

それを二度繰り返したとき、彼女はもう死ぬことを諦めた。


なぜなら、次に目覚めたとき――さらに幼くなっていたからだった。

おそらく、今度は十歳と言ったところだろうか。


その瞬間、理解する。

死ぬほどに、時間の巻き戻しの力は強くなるのだと。


これ以上死んでも、きっとまた今よりも幼い頃の自分に戻るに違いない。

そうすれば、またこの絶望的な人生を、余計に長く生きなくてはいけないのだ。


また同じ絶望を、より長くーー。

それだけは、耐えられない。


だから彼女は、初めて死を諦めた。

そうして――絶望と諦観の中で、六回目の人生が始まった。

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