源内光子の幸せ
光子は私を出迎えるなり両手を取った。
ソファーの隣に私を座らせた光子。
手を握ったまま輝くような笑顔で私に言うのだ。
「私とっても幸せなの。本当なのよ」
私が光子と出逢った頃、彼女は母ひとり子ひとりの家庭だった。
私たちが中学卒業間際に、彼女は源内桐雄という義父を得る。
苗字が変わり源内光子となったのだ。
ハンサムで仕事が出来、誰にでも愛される紳士の桐雄。
光子はすぐに彼を恋慕った。
「私が成長するにつれて、義父も私を愛すようになったの」
大人になりつつある彼女は私にこう続けた。
「でもね、私たちは世間的には結ばれないでしょう」
だからだろう。
彼女が選ぶ恋人は、かなり年上の男性ばかり。
光子はいつも違う恋人を私に紹介した後、必ずこう言った。
「あなたは私の親友でしょう。だから彼と会ってもらっているのよ」
自分が本当の恋愛をしていると正当化するために私を利用したのだ。
「私が愛人?
そんな下らないものと一緒にしないで。私たちは愛し合っているんだから」
そんな風に嘯く光子がある日出逢ったのが、やはり年上の男性の紫雨。
紫雨は少し桐雄に似ていた。
「紫雨はね、義父の甥にあたるんですって」
二人はすぐに恋に落ちたという。
晴れてプロポーズされたから、わざわざ私は光子の家に呼びつけてられた。
本日のご報告のためにだ。
いつも「親友」と言って、私を母だか姉妹代わりにしている光子。
紫雨も桐雄の代わりだろう。
自分の幸せのために他人を利用する。
彼女の「幸せ」には反吐が出る。