寝言の続きを。
深夜三時。
「しめ縄…。」
妻の方から声が聞こえた。
私は半ば眠りの中。
その声によって、意識が現実か夢かの境界線から覚まされていく。
デジタル時計の青白い光に導かれるように目を開けると、見慣れた寝室の天井が広がっていた。
その言葉を口にした、彼女の目は閉じられており、未だに眠っているようだった。
ああ、寝言か。
妻の寝息は穏やかだったが、何かが違和感があった。
私の手のひらに、不思議な感触がある。
まるで大切な何かを、これまで丁寧に扱っていたような余韻が確かにそこにあった。
翌朝、休日の柔らかな日差しの中で朝食をとりながら、私は妻に尋ねた。
「昨夜、『しめ縄』って寝言を言っていたよ。」
妻は箸を止め、首を傾げた。
「私が?」
そう言った妻の表情が、一瞬だけ深い懐かしさに沈んだ。
「なんだか懐かしい気がするわ…。」
妻のその言葉に、私の中で何かが共鳴した。
それは、私の手のひらに残る不思議な感触と、確かに繋がっていた。
「今日ね、手が何かを覚えているんだ。何かを大切に、優しく扱うような…。」
私たちは黙って見つめ合った。
説明のできない共通の感覚が、私と妻との間に確かに存在していた。
夢のような、記憶のような、懐かしくも新しい何か。
その夜、早めに床についた私たち。
室内灯を消す前に、妻が囁くように言った。
「続きが見られそうな気がするの。」
私は静かにうなずいた。
二人で共有する記憶か夢か。
その確かな続きが待っているような予感とともに、私たちは深まりゆく闇の中で目を閉じた。