表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

寝言の続きを。

作者: 速水静香

 深夜三時。


「しめ縄…。」


 妻の方から声が聞こえた。

 私は半ば眠りの中。

 その声によって、意識が現実か夢かの境界線から覚まされていく。


 デジタル時計の青白い光に導かれるように目を開けると、見慣れた寝室の天井が広がっていた。

 その言葉を口にした、彼女の目は閉じられており、未だに眠っているようだった。


 ああ、寝言か。


 妻の寝息は穏やかだったが、何かが違和感があった。


 私の手のひらに、不思議な感触がある。

 まるで大切な何かを、これまで丁寧に扱っていたような余韻が確かにそこにあった。


 翌朝、休日の柔らかな日差しの中で朝食をとりながら、私は妻に尋ねた。


「昨夜、『しめ縄』って寝言を言っていたよ。」


 妻は箸を止め、首を傾げた。


「私が?」


 そう言った妻の表情が、一瞬だけ深い懐かしさに沈んだ。


「なんだか懐かしい気がするわ…。」


 妻のその言葉に、私の中で何かが共鳴した。

 それは、私の手のひらに残る不思議な感触と、確かに繋がっていた。


「今日ね、手が何かを覚えているんだ。何かを大切に、優しく扱うような…。」


 私たちは黙って見つめ合った。

 説明のできない共通の感覚が、私と妻との間に確かに存在していた。

 夢のような、記憶のような、懐かしくも新しい何か。


 その夜、早めに床についた私たち。

 室内灯を消す前に、妻が囁くように言った。


「続きが見られそうな気がするの。」


 私は静かにうなずいた。

 二人で共有する記憶か夢か。

 その確かな続きが待っているような予感とともに、私たちは深まりゆく闇の中で目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
私も何度か誰かと同じ夢を見たことがあります。 夫婦の絆って良いですよね! しめなわが、最初は「閉めねば」あたりの方言か何かかなと思ってしまった私を許してください。 毎日夢が楽しみです。 寝言を言っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ