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短編まとめ

ある平民生徒のお話

作者: よもぎ

あ、彼女ほんとに死んじゃったんですね。そう、ですか。

しょうがないと思ってます。だって、今までが今まででしたから。


同じ平民でしたけど、彼女、あまりに無神経でしたから。

生きて卒業するのは難しいかもって皆で言ってたんです。

言い寄られてる令息の方々には気に入られていたかもしれませんけど、その婚約者の方々からは絶対嫌われてましたよね。

それだけでも厳しいのに、他の貴族の生徒の皆様もあれはちょっとって思われてるって噂も聞きました。


え?平民ならああいうのが普通じゃないのか……って、そんなことありません。

むしろ、親からは決して貴族を怒らせるな、馴れ馴れしくするな、丁寧に接しろって教わります。だって私たちは平民ですから。

それに、婚約者……恋人がいる人にベタベタするなんて、絶対しません。

横取りなんてしたら相手だけじゃなくて親にぶたれるくらいは普通にしますし、場合によっては村とか町とか、そこで生きていくのが難しくなりますから。



だから、あの子が異常だったんです。



平民にしてはちょっと強い治癒の魔法が使えるからって調子に乗ったのかもしれませんね。私だって彼女よりは治癒の魔法使えるんですけど、でもこの学園には神殿に入る前の下準備として入れてもらった立場です。

大きな顔できませんし、しようとも思いません。

商家の子とか、管財人の子とか、平民だけどこの学園で学んで家業を継ぐ立場の人や、強い魔力を持って生まれた平民の子でクラスは構成されてましたけど、本当に彼女ひとりだけ浮いてて。

なんて言えばいいのか分かりませんけど、私たちとは全然おしゃべりもしないし、クラス単位での課題も参加してくれないし。

授業は受けてましたけど、でも休み時間はご存じの通り貴族の男性に言い寄りにいってばっかりで……。



最初は仲良くしようと皆で声かけてたんです。でも、邪魔しないでって振り切られて。

そういうのが何度も続いて、近寄るだけで嫌な顔するようになったから、もう話しかけるのはやめようって皆で決めました。

えっと、はい。男子も女子もです。

だから、あの子が言ってた、皆から避けられてるっていうの、自業自得だったんです。

私たちは歩み寄ろうとしたけど、あの子が嫌がって逃げたから。

だから孤立しちゃったのであって、悪意があってそうしてたんじゃなくて……難しい、ですね。



それで、辺境伯のご令嬢が無礼打ちなさったんですよね。ご自分の婚約者にあんまり付きまとうからって。

学園の中だけじゃなくて、外でもそうだったって聞いた時は本当とんでもないことだと思いました。

だって、学園の中では学ぶ機会は平等って聞いてます。でも、学園の外では平民と貴族で、絶対交じり合わないじゃないですか。

なのに彼女、狙いすましたみたいに追っかけてる方々の外出先に現れてたって。婚約者の方も一緒のところに突撃して、そういうの何度もしてたら……はい。しょうがないです。

特に、あのご令嬢の婚約者って、公爵家の方でしたし。街中で急に飛びついてこようとしたら、護衛騎士に斬られてもしょうがないです。

だって、彼女がナイフとか持ってたらケガするのはご令嬢か、令息か、ですよね。なら斬り捨てられてもしょうがないです。

そのあともそこに捨てていったんじゃなくて、病院には連れていかれたんですよね?じゃあなおさらです。むしろ優しい人だなって思います。

それで助からなかったのは結局のところ、あの子の天命だったんだと思います。



令息方も嫌がってたんですか?

……なるほど、感覚的には分かります。

一度パンくずをあげた小鳥が毎朝おねだりに来るような感じ、ですよね?でも彼女は人間だし、野心が見え隠れしてました。そういうのを感じ取って距離を取ろうとしても、あっちから更に踏み込んで……え、ほとんどの方がそう?ええー……。


あ、でも、何人かは彼女のこと気に入っておられたんですか?

え、お妾さん?…それ、彼女、納得したかなあ…。

だって、本妻狙いみたいでした。

話しかけるのは嫌がられてましたけど、自慢話はよくされてたんです。席が隣だったので。

「あたしはいずれ貴族の奥さんになるの、神殿で一生働くあんたと違っていい暮らしをするのよ」ってすごく嫌な顔で言ってました。だから、お妾さんは考えてもなかったんじゃないでしょうか。


だから彼女、死んで良かったのかもしれませんね。

望んだように貴族の奥さんになることなんて出来ずに、ただ貴族の方に顰蹙を買って卒業するなんて、敵が多すぎてこの国では生きていくの難しいです。

お妾さんになるのを承諾しても、本妻の方には絶対いいように扱ってもらえませんよね?子供が出来ないように処置されて、一時期可愛がるだけのペットみたいになるの、目に見えてます。


だから、恋に恋して沢山の男の人と仲良くできてると思い込んだまま死ねたのは、まあ良かったんじゃないかなって。



たぶん、他の平民の生徒もそう思うんじゃないでしょうか。

それにこれからは平民ってああいう感じなんだって目で見られること減る、と、思うんですけど……そういう意味でも、助かるなって。

ちゃんと行儀よくしてるのに、一人突出して異常なのがいると、十把一絡げに扱われて、私たちもつらかったので。学園の図書館とかでも露骨に距離取られて、だから一番端っこの奥の方しか私たち座れなかったんです。

はい。学食もそうです。

貴族の皆様に嫌な思いさせて、顔を覚えられたくないな、って、クラスで話し合って隅っこに集合してました。

お弁当の子は教室で食べればいいですけど、そうじゃない人もいましたから。


……付き纏われてた人たちは、今は安心して過ごせてますか?

私、それだけが心配です。

もしまた勘違いした平民が来るんじゃないかって思ってる方がいたら言って差し上げて欲しいんです、私たちは違いますからって。

平民用の学校よりもレベルの高い授業を受けに来てるのであって、遊びに来てるんじゃないです。皆、将来のためにやることがいっぱいあるから、彼女みたいに好き勝手してる時間なんてないです。

私も貴族の方に接するときのマナーをちゃんと学んでこないと神殿には入れないって、神官長に言われてます。

治癒の魔法を求めてくる方は大抵貴族の方だから、怒らせないようにしないといけないと教えられました。…今は、どうでしょう?不愉快じゃありませんか?大丈夫?ありがとうございます。




私たちは彼女みたいにならないようにって反面教師にして、規律を守って正しく生きていきます。

だって、死にたくありません。この国の片隅ででも、慎ましくとも、平穏に暮らしていきたいんです。

だから殿下、皆様に言って差し上げてください。

平民クラスの生徒はきちんと身の程を知っているものだけが残っているから、安心して過ごして大丈夫ですと。


これからも私たちは弁えて過ごしますし、後輩が入学してもきちんとそのあたりを指導します。

それで、後輩たちに彼女の顛末を伝えて、それ以降にも伝えていってもらいます。

そうすればきっとお互いに干渉しないように過ごしていけると思うんです。

もちろん貴族の方がこちらに干渉する分には私たちは礼節をもって接します。けど、私たちからは近寄っちゃいけない、って、ちゃんと教えるつもりです。



だって、私たちはたくさんいる平民で、力なきものです。

そして貴族の方たちは力をお持ちです。

決して超えられない壁が私たちの間にはあるということ、忘れないようにしないと。

そうじゃないと、あの子みたいに死んじゃいますから。



本文中明記してませんけど死んだ女の子は乙女ゲームの世界に転生したと思って突っ走ったヒロインちゃん()です。

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