第7話 真実は
「あの、真司?」
「ごめん、少し混乱してしまって」
何度考えても分からない。
かりんは俺に全く好意がないんじゃなかったのか?
俺は唯華からそう聞いていた。
唯華から俺を奪うために告白して付き合ったって。
だけど、かりんは俺を愛している人だと言った。
これが本当なのだとしたら、唯華は何故俺に噓を伝えたのだろう。
「唯華からどういう風に聞いてた?」
「唯華が恋愛相談したらその次の日にかりんが俺を奪うために俺に告白して付き合ったって……」
「それ、本当?」
「うん」
「確かに唯華からしたら私は好きな人を奪った存在かもしれない。でも、私が唯華も真司のことを好きだって知ったのは真司と付き合った後なの」
「えっ……!?」
つまり、かりんは唯華への嫌がらせで俺と付き合ったわけではないってこと、か。
そうなると、やっぱり唯華が俺に嘘をついた理由がわからない。何のために嘘をついたんだ。
というか、かりんは恋愛相談を受けていないってことになる。
「私もなんで唯華が真司くんに嘘をついたのかは分からないけど、もしかしたら、自分の好きな人と付き合った私が相当憎かったのかもしれない」
「そんな……。かりんは本当のことを言っているんだよな?」
「うん、私は嘘をついてない」
かりんが本当のことを言っているのだとしたら何故浮気をしてしまったのかが気になった俺は聞いてみることにした。
「それじゃあ、かりんは俺のことが好きなのにどうして浮気なんてしたの?」
「言っても信じてくれないかも……」
「言ってみて」
「私と一緒にいた男子生徒覚えてるでしょ?」
「ああ、あのイケメンな」
「その人にあの日、告白されたの」
「うん。それで承諾したの?」
「してないよ! 私は真司と付き合ってるから付き合うことはできないって断ったよ!」
かりんはあのイケメン男子生徒からの告白を断ったのならどうして恋人繋ぎをしていたんだろう。
付き合ってもいない男女が恋人繋ぎなんてあり得ないからな。
「断ったならどうして恋人繋ぎをしていたんだ?」
「あれは違うの! あの人が無理やり繋いできたの! あの時私たちの周りに同じ学校の人たちも多くいたからあの人が周りに見せつけて嫌がらせをしたの!」
「本当に?」
「信じてもらえないかも知れないけど、あれは私の意思じゃないし、すぐに手を振り払ったよ!」
「俺が偶然そのタイミングで見てしまったってこと?」
「そうなの!」
そんな偶然あるのか。
でも、たしかに俺はあの姿を見てすぐにその場を去ったから手を振りほどいた瞬間だけ見逃したという可能性もある。
「それじゃあ、なんで弟だって嘘をついたの?」
「あの時は気が動転していたし、真司に嫌われたくなかった。あの場で本当のことを言っても信じてもらえないと思って咄嗟に弟って嘘をついてしまった。それに、あの教室の生徒の中にも手を繋いでいるところを見ている人たちが多かったから信じてもらえないと思った」
「そうだったのか」
「……信じてくれるの?」
「今の時点で完全に信じることは難しいけど、それでもかりんが嘘を言っているようにも見えなかった」
これは、唯華が嘘をついていたのかどうか確認する必要がありそうだ。
ストレートに聞いても真実は分からないだろうから探りを入れたりすることになるだろう。
だけど、これは俺だけではどうしても難しい。唯華が本当に嘘をついていた場合は素直に答えてくれないかもしれないからな。
「どうするべきかな」
「何を悩んでいるの?」
「いや、かりんが言ったことが本当だったなら唯華の発言の真偽も確かめないといけないなと思って」
「確かにそうだよね」
「俺だけじゃ難しいような気がするんだよね」
かりんは頬を手でさすりながら数秒考えるような動きをしてから提案する。
「私が手伝ってもいいかな?」
「え、それってどういうこと?」
「私が唯華と会ってこのことについて色々話をする。録音しながらね」
「確かにそれならいいかもしれない。でも……」
「私が録音内容を後から作り変えてから送るかもしれないって思うなら、私と通話を繋いだままにして真司に聞こえるようにするっていう方法もあるよ」
通話しながら唯華とかりんの話しているところを聞く、か。
これならかりんは噓の内容を話すことはできないだろうし、お願いするか。
「わかった。その方法ならかりんも噓の内容は話せないから二人のどちらが正しいか知ることもできる。かりん、頼んでもいいか?」
「うん、もちろん。自分の真実を証明するためにも頑張るよ」
「ありがとう。今日はもう暗くなっちゃうからここまでにしようか」
「そうだね。そろそろ真司に家族も帰ってきちゃうかもしれないからね」
外が暗くなってくる時間に差し掛かっていたので俺はかりんを帰すことにした。
「今日は色々教えてくれてありがとうな」
「ううん、謝りたかっただけだから。自分の意志じゃないとしても手を繋いでしまったのは事実だから。私の危機管理が甘かっただけだから……」
「そうか。あ、ちょっと待って」
「……?」
俺はキッチンへ向かい、冷蔵庫からあるものを取り出してから再びかりんのところに戻る。
「はい、これ」
「これって」
「ココアだよ。好きだったでしょ?」
「うん、ありがとう」
「それじゃ、帰り道気を付けてな」
「う、うんっ。本当に……真司は優しいね……」
「何だって?」
「いや、なんでもない。今日は話を聞いてくれてありがとう」
かりんを見送り、家の中に戻った。