第5話 二人の時間
学校を終えた俺が教室を出ると、廊下で唯華が待っていた。
「ごめん、少し遅くなった」
「大丈夫だよ。みんなから質問攻めにあっていたんでしょ?」
「うん、そうなんだよね」
そう。俺は今日一日中、授業の時間を除いたほとんどの時間でクラスメイトたちから質問攻めにあっていた。
そのせいで正直いつも以上に疲れた気がする。
でも、そのおかげで普段関わりのない人たちとも仲良くなれたりしたので良かった。
「実は私も今日はずっと質問攻めにあってたよ」
「そうなの?」
「うん。私と真司くんが付き合ったことに興味がある人が多いみたい」
「まあ、そりゃそうなるか。唯華は可愛いもんな」
「かっ、か、かわいい?!」
「え、うん」
「そ、そっかぁ」
唯華は顔を真っ赤にしながら照れている。
可愛いと言われただけでここまで照れるのか。かなりピュアだな。
こんなことを考えているが、俺も唯華にかっこいいと言われたら顔が真っ赤になる自信がある。
「それじゃ、帰ろっか」
「うんっ」
「ねえ、真司くん……」
「ん? どうかした?」
「もし、真司くんが良いならだけど手を繋いでもいい……かな……?」
「う、うん、もちろん」
俺は唯華と手を繋いだ。
まだ俺たちは付き合い始めたばかりだが、分かったことが一つある。
唯華は恋人に甘えるタイプだ。
本当にこんなに可愛くて甘えてくれる人が俺の彼女になってくれたのか。
かりんの浮気を知ってしまった時の俺は、なんでこんなに不幸なんだと思っていたが、今はその真逆だ。俺は、なんて幸せ者なのだろう。
「真司くんは今日この後予定あったりするの?」
突然、俺の今日の予定について聞いてきた。
今日は何も予定はなかったはずだ。
「今日は何もないよ」
「それなら、私の家に寄っていかない?」
「えっ!?」
付き合い始めて二日目にして彼女の家だって?!
本当に良いのだろうか。
心臓の鼓動が早くなっていくのが分かる。
「真司くんは来たくない?」
「いやっ、そんなことはないよ。ただ……」
「ただ?」
「付き合ったばかりなのにいいのかな? と思ってさ」
「なんだそんなことで悩んでるの? 私がいいって言ってるんだからいいんだよ」
「それじゃあ、行こうかな」
「やった!」
俺は唯華の家に寄ることになった。
あれ、唯華の家に行けるのは嬉しいのだが、もし唯華の家族の人たちがいたらどうしよう。
そんなことを考え始めてしまったせいで、さらに緊張してしまう。
*****
「ようこそ我が家へ!」
「お、お邪魔します」
唯華の家の玄関に足を踏み入れる。
そのまま唯華に連れられてリビングに入る。
そこには誰もいないみたいだった。
「どうしたの真司くん」
「いや、唯華の家族の人たちは今いない感じ?」
「ああ! それでさっきから緊張してたんだ!」
「まあ、うん」
「私は一人暮らしだよ!」
「そうだったの?!」
唯華は一人暮らしをしているのか。
それを知った俺は少しだけ緊張が和らいだような気がする。
「私すぐ着替えてくるからソファで寛いでて」
「わかった」
唯華に言われた通りにソファに座るが落ち着けない。
彼女の家にいるのだ。落ち着けるわけがない。
そわそわして落ち着けないので何か動画でも見ようかと思い、スマホを取り出した。
スマホの電源を起動させて画面を見ると、そこにはもの凄い数の通知が来ていた。驚きすぎてスマホを落としそうになってしまった。
その大量の通知はすべてかりんからだった。
内容を確認しようかとも思ったが、もうかりんに構う必要はないので無視することにした。
本当はブロックすべきなのかもしれないが、さすがにそれはしなかった。
「ごめん! 着替え遅くなっちゃった!」
唯華が着替えから帰ってきた。
唯華は水色のルームワンピースに着替えていた。
無地のシンプルなものだったが、スタイルの良い唯華が着ているからかおしゃれに見える。
「全然待ってないから大丈夫だよ」
「それなら良かった。真司くんこれどうかな?」
「水色が唯華に合ってて似合っているよ」
「それなら良かった!」
唯華はソファに座らずにキッチンの方へ行き、何かを取ってから戻ってきた。
「何か取ってきたの?」
「うん。これあげるよ」
「いいの?」
「うんっ、一緒に食べよ!」
唯華が持ってきたのはミニカップのアイスだった。
このアイスって、俺の記憶が正しければ少し高価なアイスだったはずだ。
俺が受け取ったのはチョコ味のものだった。
スプーンですくい、口へと運ぶ。
「ん! 甘くて美味しい」
「それなら良かった!」
「唯華は何味にしたの?」
「私のはね、ストロベリー! 少し食べる? はい、あーん」
「!?」
唯華が自分のアイスをすくって俺に顔の前に持ってくる。
これはあーんしないと駄目なやつだったりする?
恥ずかしいけど仕方ない。
目の前に差し出されたストロベリー味のアイスを食べた。
アイスの甘さがいつも以上に甘く感じた。
「どう? 美味しい?」
「うん、美味しいよ。でも、ちょっとだけ恥ずかしいかも」
「付き合ってるんだからいいでしょ?」
「まあ、俺もうれしかったから」
「それなら良かった」
「じゃあ、俺もやるよ。はい、あーん」
「えっ!?!?!?」
唯華はまさか自分もされると思っていなかったようで恥ずかしがっていたが、ちゃんと食べてくれた。
「美味しい?」
「……うん。いつもより甘い」
唯華の感想は俺と同じものだった。