第2話 彼女の親友に告られる
「一人で何してるの?」
公園のベンチに一人で座りながら俯いていると、背後から声を掛けられた。
後ろを振り向くと、そこには意外な人物の姿があった。
それは、かりんの親友で俺とも中学からの友達の綺麗な黒髪の少女――如月唯華だった。
正直に言うと、今会いたくない人物だ。
唯華はかりんの親友だから今日あった出来事を話せば悲しんでしまうだろう。それに、もしかりんが言い訳などした場合はかりんの意見を信じてしまうかもしれない。
「唯華こそ、こんなところでどうしたの?」
「いや、コンビニでお菓子買ってきた帰りだよ」
「そうなんだ」
「本当にどうしたの? そんな思いつめた顔しちゃってさ」
「いや、別に大したことじゃないよ」
「それじゃあ、なんで泣いてるの?」
「えっ……?」
俺は気づかないうちに感情が溢れてしまっていたようで涙を流していた。
急いで涙を拭う。
どうやって言い訳しようかと考えていたが、唯華は俺が泣いている理由を察していた。
「もしかして、かりんと何かあった?」
「いや、別にそんなことは……」
「そんなことはないって言えないってことは何かあったんだね」
「……うん」
「教えてもらってもいい?」
「わかった」
真剣な眼差しで見てきたので、俺は唯華に今日あったことを話すことにした。
唯花は俺の涙が収まるまで何も言わずにただ静かに待ってくれた。
涙が収まってから俺は話し始める。
「この一か月間くらいかりんが俺のことを避けているような気がしてたんだ」
「うん」
「それをマサに言ったら、尾行して確かめることになったんだ。それで、尾行したらかりんが他の男子生徒と恋人繋ぎしている姿を見てしまったんだよ」
「そんなことがあったんだね」
「うん、でもきっと俺がかりんに釣り合わなかっただけなんだ」
俺が消極的な発言をすると、唯華は頭を横に振った。
「そんなわけないよ。どう考えても悪いのはかりんの方じゃん!」
俺は少し驚いた。
唯華はかりんの親友だからてっきりかりんの肩を持つものかと思っていた。だが、唯華は真剣に俺の話を聞き、俺の言葉を信じてくれて、更に俺ではなくかりんが悪いとはっきりと口にした。
でも、どうしてここまではっきりとかりんが悪いと言えたのだろうか。
もしかすると、前からこうなってしまう気がしていたのだろうか。
俺は唯華に聞くことにした。
「なあ、唯華。一つ聞いてもいい?」
「うん、いいよ」
「どうして俺の言葉を信じてくれたの?」
「あー、そう言えば真司くんは知らないのか」
「知らないって何を?」
俺が知らない?
一体何のことなのだろう。もしかすると、かりんが唯華に何か言っていたのかもしれない。
そんなことを予想していると、唯華が答え始める。
「真司くんがかりんと付き合い始めたのって中学の卒業式の日だよね?」
「うん」
「なんでかりんが真司くんと付き合ったか知ってる?」
「え、好きになってくれたからじゃないの……?」
「今から言うことは真司くんのことを傷つけちゃうかもしれないけど、私は知っておくべきだと思う。どうする? 聞く?」
困惑していた。
かりんは俺を好きになって告白してくれたんじゃないのか? というか、それ以外に告白する理由なんてあるのか?
困惑しながらも俺は続きを聞くことにした。
「俺が傷つくとしても知っておきたい。教えてほしい」
「分かった。それじゃあ、言うね」
「……うん」
「実はね、中学の時から私は真司くんのことが好きだったの」
「えっ?!」
「それで、一度だけかりんに恋愛相談をしたの」
「う、うん」
「それが中学の卒業式の前日だった。私はかりんに背中を押してもらって卒業式の日に告白するつもりだった」
「え、それって……」
「そう、卒業式の日に告白したのは私じゃない。何故かかりんが真司くんに告白したんだよ。私から好きな人を奪いたかったのかな」
唯華が俺のことを好きだったことには驚いた。
だけど、それ以上にかりんの行動の酷さに驚かされた。
もし、俺に対して全くの好意がなく告白したのなら、異常としか言いようがない。
「かりんは俺に対する好意は全くなかったの?」
「私もかりんが真司くんと付き合ってすぐ本当は真司くんのことが好きだったのか聞いたよ。そしたら、なんて言ったと思う?」
「…………」
「別に、ただ悔しがる顔が見たかっただけってさ」
「!?」
「私と真司くんは別のクラスだから気づいてなかったみたいだけど、私とかりんはあの日から一言も喋ってないんだよね。だから、今はもう親友じゃない」
「そんなことがあったんだ。酷い……」
何度考えてもかりんの行動は酷過ぎる。
まさかかりんがこんなに性格が悪いなんて思ってもみなかった。
こんな話を聞かされると、俺の中にあったかりんへの気持ちが少しずつ冷めていくのを感じる。
なんでかりんを好きなってしまったのだろうとさえ思う。
「それで提案があるんだけど!」
唯華が突然、笑顔を見せながらそう言った。
「提案って?」
「もう、別れたんだよね?」
「うん、一応お別れのメッセージは送ったよ」
「それなら、こんな時言うのは少し卑怯な気もするけど、私と付き合ってくれないかな?」
「えっ!?」
「かりんは私たちの不幸を願ってそうだから、私たちが幸せそうだったら悔しがると思うの」
「それが理由?」
「まあ、それもあるんだけど、本当の理由は単純に今も真司くんのことが大好きだから……」
唯華は顔を真っ赤にして照れているようだった。
さすがに別れた日にほかの人と付き合うのはどうかと思ったが、かりんの行動に比べれば大丈夫だろうと思った。どう考えてもかりんのやってきたことの方が異常だからな。
唯華は俺がかりんと付き合った後も俺のことを好きでい続けてくれた。俺はその気持ちにこたえたいと思った。
「わかった。これからよろしく」
「本当に!?」
「うん、これからは恋人としてよろしくね」
「うんっ! よろしくね!」
俺と唯華はこうして恋人になった。
だが、俺は気づかなかった。
とある人物からメッセージが返ってきていることに。