第11話 今カノと元カノの会話
翌日の朝、俺はマサに今日すべてがわかるということを伝えた。
「マサ、俺は今日、真実を知ることになりそうだ」
「今日、かりんさんが実行するってことだな」
「ああ、そういうことだ」
「それで緊張しているんだな。ずっと緊張していても疲れるだけだぞ? 少し肩の力を抜けよ」
「それもそうだな」
「まあ、緊張するのも無理はないよな」
マサはずっと俺のことを気にかけてくれていた。
自分には関係のない話題なはずなのに、毎回、話を遮ったりせずに最後まで話を聞いてくれる。本当に良いやつだ。
俺はマサと友達になれて本当に良かったといつも思っている。
*****
「それじゃ、真司。今日は頑張れよ」
「ああ。まあ、頑張るのは俺じゃねえけどな。俺は会話を聞くだけだから」
「それでもだよ。精神的に頑張ることになるだろ。どっちが真実だったとしても」
「そうだな、ありがとう」
学校を終えた俺はどこにも寄り道をせずに急いで家へと直行した。
いつかりんから通話が掛かってきても良いように自室で待機する。
スマホの画面を見つめること約五分。
かりんから通話が掛かってくる。
「もう家に着いてる?」
「うん。そっちは今、近くに唯華がいるんじゃないのか?」
「いや、まだ大丈夫。でも、もうすぐ来ると思うから通話は繋いだままで話だけ聞いててね」
「……わかった」
ここから先、自分の声が入ってしまわないように自分のスマホのマイク機能をオフにする。
唯華に俺が二人の会話を通話越しに聞いているとバレてしまったら今回の作戦がすべて台無しになってしまうからな。
そんなことを考えているとかりんの家のインターホンが鳴った音が通話越しに聞こえてくる。
恐らく、唯華が来たのだろう。
心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
ついにこの時が来たんだ。真実を知る時が。
かりんと唯華。
どちらが嘘をついていて、どちらが本当のことを言っていたのか。
それを知ることができる。
通話越しに二人の声が聞こえてくる。
「それで、話したいことって何」
唯華が最初に話し始める。
声のトーンがいつもより低いように感じた。俺と一緒にいるときは基本的にテンションが高く明るい女の子というイメージだが、今、通話越しに聞こえてきた唯華はそんないつもの彼女とは真逆のような気がする。
「真司のことなんだけど」
「やっぱりそのことだよね。この間、真司くんの家にかりんが来たって聞いてたからそのこと以外ないだろうなとは思ってたよ」
「そうなんだ」
「で、真司くんに関して私に何が言いたいの?」
通話越しでも二人のいる空間に緊張感が走っているのを感じる。
かりんが本題について話し始める。
「真司から聞いたの」
「何を」
「唯華から私がわざと真司を奪ったって聞いたって」
「そのことね。だって、事実じゃん。私が真司くんのことを好きだったのに先に告白して付き合ったんだから」
「私は唯華が真司のことを好きだったなんて知らなかった! もし、知っていたら勝手に告白するなんてことは絶対にしなかった。親友だったんだから」
「でも、奪ったことに変わりはないじゃん」
「奪ったわけじゃない!」
二人の会話を聞いている限り、かりんは嘘をついていなかったように感じる。
だが、まだ確定的な情報を聞けたわけじゃない。そう思い、俺はただ二人の会話を聞き続ける。
「親友だったなら知ってたでしょ。私が真司くんのこと好きなことくらい。察してよ」
「そんな無茶苦茶な。それに、なんで真司に私に恋愛相談したのに次の日、私が勝手に告白したって嘘ついたの?」
「そんなの決まってるじゃない。私が真司くんと付き合いたかったからに決まってるじゃん。かりんの信頼を落として私が寄り添えば私の方に気持ちが傾いてくれるでしょ?」
「酷い……」
「私から真司くんを奪うのが悪いのよ」
これが真実……。
俺は聞かなかったことにしたかった。だが、ここで真実に向き合わなくてはならない。
夢じゃないんだ。
この事実は覆ることはなさそうだ。
唯華自身が認めているような発言をしたのだから。
俺は一人でため息をついていると、スマホにメッセージが届いた。
こんな時に誰からだと思いながらも確認すると、そのメッセージはかりんからだった。
唯華に隠れて送ってきたのか?!
そのメッセージを確認すると、そこには住所が記されていた。
恐らくこれはかりんの家の住所だ。
真実が分かったんだから今すぐ来てくれという合図だろう。
かりんは俺にずっと真実を話してくれていたんだな。
それでも、俺はすぐに信じることはできていなかった。でも、今の俺はかりんを完全に信じることができるだろう。
俺は立ち上がり、家を出ることにした。
「嘘をついていたのは唯華……か」
悲しい気持ちに襲われながらも俺は家を出て、かりんが送ってくれた住所の場所へと向かっていく。
俺は今の自分の気持ちやこれからのことをかりんと唯華の二人の前で話さないといけない。話すべきだろう。
今にも泣きそうなくらいだったが、涙を堪えて二人のもとへと行く。




