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ロストボーイズ/三芳野高校文化祭実行委員会警備班  作者: 木下森人
第1話 小江戸より愛をこめて
8/33

 ――翌日。合同部活動見学2日目。今日マユリたちのクラスは文科部を見てまわる日だった。マユリはサボるコトなく、予定通り参加した。

 文芸部、演劇部、弦楽部、化学部、物理部、生物部、地学部、料理部、古典ギター部、写真部、書道部、郷土部、応援部、囲碁部、将棋部、チェス部、放送部、英語部、映画研究会、合唱部、軽音部、美術部、漫画研究会、そして――

「本日は、われわれ吹奏楽部に来てくれてありがとう。さっそくだが演奏を聴いてくれ。三高吹部の十八番! リズ・オルトラーニ作曲、映画『怒りの荒野』のテーマ!」

 マユリは開いた口がふさがらなかった。

 吹奏楽部が演奏し始めたその曲は、まさしく例のあの曲だった。

 しかし、彼女がそれ以上におどろいていたのは、吹奏楽部の楽器編成だ。トランペットやフルートなどの管楽器に交じって、なんとエレキギターとベースを弾いているメンバーがいたのだ。

 演奏が終わり、「えー、何やら怪訝な顔をしているひとがチラホラ見られますが、吹奏楽部はべつに吹くだけが能じゃアありません。ほら、そこのティンパニだって打楽器でしょ? だからギターを弾いちゃいけない理由はないんだ。といっても、あくまでジャズとかやるとき限定だけどさ。てなワケでギタリスト募集中! 大勢でクラシックギター弾くのも、軽音バンドで存在感をアピールするのも悪くないけどさ、たくさんのいろんな楽器とセッションするのも、なかなか楽しいんだぜ?」

 謎が解けてしまえば、あとはトントン拍子でコトは運んだ。吹奏楽部のギタリストのなかから万引き犯を特定。当初はシラを切っていたが、ツインズの厳しい尋問――自分が何者か見失いかけるほどの――によって、あえなく犯行を自供した。あとは駄菓子屋へ連行しておばあさんに謝罪と弁償をさせ、本人を心の底から反省したし、チャント許してもらえて一件落着。

 明くる土曜日。マユリたちは成田山川越別院で待ち合わした。池で甲羅干しするミドリガメことミシシッピアカミミガメ(外来種)のなかに、1匹だけスッポンが交ざっている。

「ああ、確かに負けたらうなぎをおごるとは言ったぜ。男に二言はねえ。けどなァ――なんで関係ねえ連中まで雁首そろえてやがる!」

 ピーターは人を食ったような笑みを浮かべ、「のけ者とはヒドイじゃないかニブズ。僕たちは警備班の仲間だろう?」

「そうだそうだー」「オレたちにもうなぎ食わせろー」「ニブズんちは金持ちなんだから、そのくらいへっちゃらだろ」「ちゃらへっちゃら!」

「まったく、どこで聞きつけてきやがったんだ……」

「おれが教えたよー」

「トゥートルズてめえ憶えてろよ。けどあいにくだが、店の予約は3人分しか取ってねえんだ。飛び入りは不可」

「それなら問題ない」とスライトリー。「キミが予約を入れた直後に、ボクがリボンタイ型変声機を使って、キミの声で人数変更しておいたから。チャント7人分に」

「あきらめたまえニブズ。これはいたいけなルーキーに対して、大人げない小細工をした天罰だと思うんだね」

「ピーター! それを言うなら、そもそもトゥートルズが――」

「確かに、トゥートルズが悪辣だったのは認めよう。だが、それはキミと彼が対等の立場であればこそだ。対してキミはどうだね? カーリーを女子だからとあなどっていたが、だからこそ紳士としてエスコートすべきだろう。だが実際はどうだ? 弱者をいたぶるような真似をして。誇り高き三高生ならば恥を知りたまえ」

 ピーターの叱責に、ニブズはぐうの音も出ないようだった。

「……まァ、あらためて思い返してみれば、ちょいとばかし意固地になってたかもしれないっスね。ダセえコトしちまった」

 ニブズはマユリに向き直る。「その……悪かったな。べつに許せとは言わねえし、俺様もおまえを認めるワケじゃねえ。……だがとりあえず今日のところは、うなぎでも食って機嫌よくしてくれや」

「――ハイ。実はすごく楽しみにしてたんですよ。イイ店でチャントしたうなぎ食べるのって初めてで」

「スーパーで売ってるような安物とは全然違うぜ? 何といっても脂がな。あまりの美味さにショック死するなよ?」

 ふたりは固く握手を交わした。手のひらを汗だくにして、顔を赤らめているニブズの姿に、高校生なんてまだまだ子供だ――とマユリはあらためて思った。小さいころはものすごく大人に見えていたハズなのに。それが何だかおかしくて、彼女は花が咲くように顔をほころばせた。

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