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まさに賢者の言でした、「いまは十時である」
とやつははじめました、「こうしてわれわれは
世のなかの移り変わりを知ることができるのだ。
一時間前は九時であった、一時間後は十一時だろう、
かくのごとく時々刻々われわれは熟していく、
しかしてまた時々刻々われわれは腐っていく、
そこにこそ問題がある」
シェイクスピア『お気に召すまま』
桜がかなり散って、青々とした葉が混ざり出した4月中旬――。
「それでは今週の定例会議を始める」三芳野高校文化祭実行委員会長、小林芳阿はおごそかに告げた。「各班、進捗を報告してくれ。まずは総務班から」
「月曜日の決起集会はみんなご苦労サマ。あらためて確認すると、今年実委に入った新1年生は総勢216名だ。学年全体のおよそ6割、例年と比べて負けず劣らずの人数になる。名簿登録料500円の回収も滞りなく進んでいる。以上」
「次。宣伝班」
「ルーキーたちにはさっそく、ビラ配りの極意をミッチリ指導した。まだまだ使い物にはなりそうにないが、夏休みまでには仕上げたい。それからビラとハッピのデザインに取りかかったのと、校内に貼り出す文化祭ポスターデザインの公募ポスターのデザインも始めた」
「ゲート班」
「ゲートのモデル選定に入った。今回の候補は現時点で3つ、フランスのモン・サン・ミッシェルとオーストリアのホーヘンヴェルフェン城、それとロシアの聖ワシリイ大聖堂だ。取材旅行に行きたいというはかない願望を抱いている。あと土曜に1年生が使う工具を購入に、みんなでホームセンターへ行く予定」
「ステージ班」
「ステージに立つ有志の募集を開始。まだ応募数はゼロだが、例年どおりなら夏休み前には続々集まってくるだろ」
「パンフレット班」
「パンフレットの巻末に載せる四コママンガを漫研に、短編小説を文芸部に発注した。それから、各班の新入生1名ずつにインタビューを実施したいので、来週までに手配しておいてほしい」
「設営班」
「各所へ設置するゴミ箱の製作に使うダンボール集めを始めた。各員、家に余っているダンボールを提供してもらえるとありがたい」
会長は各班長の報告を聞き終えると、「では、警備班から報告だ」
文化祭実行委員会――通称「実委」には、全部で7つの班が存在する。そのうち警備班だけは、ほかの班と違って二年生の班長を置かず、3年生の会長直属の組織である。
「諸君にイイ知らせと悪い知らせがある。さて、どっちから聞きたい?」会長はみなを睥睨し、「――じゃア悪い知らせから。選抜テストの結果、合格したのはたった1名のみ。過去最低の人数だ。実に嘆かわしい。一方イイ知らせは、その1名が警備班設立史上初、女子メンバーだというコトだ」
2年生である各班長、および副会長をはじめとした3年生幹部たちが、みな一様にざわめく。
「女子ですって? ホントにダイジョーブなんですか? オンナにチャント仕事が務まるかどうか……」
「それを判断するための、厳しい選抜テストだ。そして彼女は、非常に優秀な成績でクリアした。何も問題はない」
その一言で、小林は懸念や反対意見を押し込めた。
「さて、今年度の実委もいよいよ本格始動だ。文化祭開催まで、すでに半年を切っている。時間はいくらあっても足りないぞ。けっして気を抜かず、精いっぱい準備に取りかかってくれ」