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08.貴方と初めてのパーティー

 ニールと婚約して、二週間。

 今日はチャール兄様の婚約者であるエリー公爵令嬢の家で、パーティーが開かれる。


 王女として私も顔だけは出すつもりだったけど、あんなことがあった後、初めてのパーティーだからとても緊張する。


 先日のパーティーでは大勢の貴族が私とヘクターの話を聞いていたのだ。

 もう国中にあの話は広がっているだろう。


 私の無実は証明されたけど、その後ニールに求婚されたことも、かなり噂になっているはずだ。


 今世では大人しく暮らすと決めた私にとっては、少し気が重い。


 けれどチャール兄様の妹として、今日のパーティーに顔を出さないわけにはいかない。それも、既に出席の連絡を入れているのだから、尚更。


 ニールも、とても楽しみにしていたし……。


「大丈夫ですよ、心配はいりません! アデリナ様は無実だったのですから堂々とされていればいいのです!」

「ありがとう、メル」


 つい溜め息を吐いてしまった私を見て、ヘアメイクを施してくれていたメルが力強く言った。


「アデリナ様には、確かにドレスや装飾品が気に食わないと駄目出しを受けたことが何度かありますけど……それくらい、王女様でしたら当然かと!」

「……ごめんなさいね、今まで」

「アデリナ様が、謝った……!!」


 素直に謝罪の言葉を口にしたら、メルは大袈裟に目を見開いて口を開けた。


「心を入れ替えたのよ。貴女たちは私のためによくやってくれているわ」

「そんな……!! アデリナ様が私たち侍女に高級お菓子を用意してくださっているのを知っています……! それに疲れていたり体調が悪いのを察してお休みをくださったり……! 確かに甘やかされて育ったアデリナ様は多少我儘ではありましたけど、心の優しい王女様です!!」

「……」


 見た目は完璧な侍女だけど、メルは天然なのだ。悪気なく、思ったことを口にしてしまうのだ。そんなメルのことは昔から好きだし、侍女としての仕事ができるのは間違いないので構わないのだけど。


「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいわ」

「私も……アデリナ様がもし国外追放になっていたらと思うと……!」


 そう言って、うるうると今にも泣き出してしまいそうに瞳を潤ませるメル。

 きっとこれも本心だ。


「ニール様には私もとても感謝しています! ニール様なら、アデリナ様を幸せにしてくれると信じています!!」

「……そうね」

「さぁ、続きをいたしましょう! 今日は気合いを入れますよ! なんと言ってもニール様との初めてのパーティーですからね!!」

「ええ」


 再び気合いを入れてヘアセットをしてくれるメルに、私も少しだけ、このパーティーが楽しみになってきた。




 *




 公爵家までは、ニールとともに向かった。


 今日のニールはいつもの騎士服ではない。侯爵家嫡男という肩書きに相応しい、清潔感のある正装した姿で、私を侯爵家の馬車までエスコートしてくれた。


 王宮の馬車で行く三人の兄たちとは別に、わざわざ侯爵家の馬車を用意してくれたのだ。


 王宮にはたくさん馬車があるのだから、それで行けばいいのにとは思うけど……。

 今日は私の婚約者として、彼が色々エスコートしてくれるらしい。


 私は口を挟まず、大人しく従っておくことにする。



「――では、参りましょう、アデリナ様」

「ええ」


 馬車が公爵家に到着すると、先に降りて私に手を差し出してくれたニールを改めて見つめる。


「……」

「? どうかしましたか?」

「いえ、なんでもないわ」


 護衛騎士である彼をこういう目で見たことはなかったけど、客観的に見てもやっぱりニールは格好いい。


『ねぇ、ニール様よ』

『まぁ、今日は騎士の格好ではないのね』

『とても素敵だわ……』


 長身で目立つニールを見つけた令嬢たちが、ひそひそと彼の話をしているのが聞こえてくる。


『見て、アデリナ様をエスコートされているわ』

『そうだわ、お二人は婚約したのでしょう?』

『ええ。わたくし、あの場にいたのですが、ニール様は聖女様の前でアデリナ様の無実を証明してみせた後、求婚したのよ! 本当に格好よかったわぁ……』


 ……やっぱり、既に噂になっている。

 でも、思ったより前向きな言葉が聞こえる。


 もっと、聖女(イルゼ)をいじめたとかヘクターに婚約破棄されたとか、私が悪く言われているかと思っていたけど。


『ニール様はアデリナ様のために前日から寝ずに証言を集めて回っていたのだとか』

『まぁ、そうなの? なんて素敵なのかしら! いいわねぇ……アデリナ様』

『ええ……あんなに素敵な騎士様に守ってもらえて、そのうえご結婚なさるのだから。羨ましいわぁ』


 ニールは私が断罪されることを前日に知ったの……?

 一回目の人生では、そんな様子はなかったけど……。私がやり直したことで、少しだけ変わったことがあるのかしら。


 ……とにかく、話題の中心はニールが私に求婚したことみたいね。


 イルゼがしたように、私を嫉んでまた無実の罪を着せられないといいんだけど……。


「……」

「どうしました? アデリナ様」


 会場内に入った私は、ニールの腕からそっと手を離した。その理由をすかさず聞いてくるニール。


「いえ、もう会場に着いたから……いいかなと思って」

「……」


 そう言ってニールから一歩距離を取った私に、彼は少しだけ表情を曇らせた。



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