06.早く貴女に会いたい※ニール視点
「おめでとう、ニール」
「ありがとうございます、チャール殿下」
「そう堅くならず、楽にしろ」
「ああ……。しかし本当に、よかった」
「俺も嬉しいよ。アディがニールと結婚できるなら」
アデリナ様と俺の婚約の手続きを終えた後、俺は王太子チャール殿下の部屋で安堵の息を吐き出した。
アデリナ様と婚約した。
アデリナ様が俺の妻になる。
アデリナ様とずっと一緒にいられる。
アデリナ様をこの手でずっと守っていける――。
ああ……神よ。俺にもたらしてくれた奇跡に感謝します。
正式に婚約が成立したときには既に深夜を回っていたが、特例で急ぎ手続きを行ってもらってきたのだ。
明日になってアデリナ様の気持ちが変わっては困るからな。
だが無事、アデリナ様との婚約が結ばれた。
これで安心できる。
王宮で開かれたパーティーに参加していたアデリナ様が、ヘクター・ザクセンに婚約を破棄され、無実の罪で国外追放を言い渡された。
大勢の者が見ている中でそれを宣告するとは、本当に常識のない男だ。
あの男のアデリナ様に対する態度には、以前から不満があった。
陛下が決めた相手だから仕方ないとも思っていたが、あの男と結婚してアデリナ様が幸せになれるとはとても思えなかった。
「しかしニールがアディを好きだったとは驚いたな。そんな態度はまったく見せていなかったし、俺も聞いたことがなかった」
「ああ……」
友人でもあるチャールとは、仕事以外の話もすることが多いのだが、俺は今まで恋だの愛だのを彼に語ったことはない。
単純に、これまで誰かを本気で好きになったことがなかったからだ。
王女の護衛である俺が王女に特別な感情を抱くことは、本来あまりいいことではない。
しかしチャールは陛下同様に、大切な妹が俺と婚約したことを喜んでくれている。
彼らの母、王妃は既に亡くなっている。
美しかった王妃に似たアデリナ様を、陛下も三人の兄たちもとても大切に想い、可愛がってきたということは皆が知っている。
そのせいで確かにアデリナ様はまっすぐで正直な、多少我儘を言う王女に育った。
だが、それくらいなんだというのだ。
彼女が本当はとても心優しい王女様であるということを、俺はよく知っているのだ。
だから、彼らの期待を裏切ることのないよう、俺がアデリナ様を幸せにしてみせる。
俺はこの先も一生彼女を守ると誓ったのだから――。
「それにしても、アディはニールの突然の求婚に本当に驚いていたな」
チャールの言葉に、俺は「ああ……」と小さく頷き、あのときの彼女の顔を思い出した。
本当はあの場で求婚するつもりなどなかったのだ。
先に陛下の許可を得て、きちんと準備をして、この想いを伝えるに相応しい場で後日改めて求婚するつもりだった。
しかし、アデリナ様の顔を見たらこの気持ちを抑えておくことなど、無理だった。
冷静ではいられなかったのだ。
本当はすぐにでもその身体を抱きしめて、アデリナ様を全身で感じたかった。
それでもまずは罪を晴らすのが先であったから、そこだけは褒めてほしい。
彼女を混乱させてしまったが、その表情もとても愛おしく感じた。
俺の求婚に頷いてくれたときは、もう我慢できずに、その身体をこの腕で抱きしめてしまったのだ。
いきなり失礼なことをしてしまったとは思うが、あたたかいアデリナ様の鼓動をこの胸に感じることができて、俺はとても幸せだった。
二度と彼女を離さない。
改めてそう誓うことができた。
「アデリナ様とはこれからゆっくり、婚約者として関係を築いていくつもりだ」
「そうしてくれ。ニールに限ってないとは思うが……アディを泣かせるようなことがあれば、許さないからな」
チャールの言葉に、一瞬彼が何を言っているのか理解できなかった。
俺がアデリナ様を泣かせる? あり得ないな。
「必ず幸せにしてみせる。そして、一生大切にし、守ってみせる」
「ああ、アディを頼む」
彼女の兄上にそう誓い、俺は一刻も早く婚約が成立したことを伝えたくて、彼女の部屋の前で夜を明かした。




