03.2回目の人生
「どうか……俺と結婚してください」
「…………」
とても熱い眼差しを向けながら私の手を握っているニールに、私は戸惑いを隠せない。
ニールはとても格好いい。蠱惑的な雰囲気と、少しミステリアスなオーラをまとっている、優秀な騎士。
その身体は私より頭二つ分は大きくて、騎士としてしっかりと鍛えられているため、たくましいのも知っている。
彼の美しい紫色の瞳からも、握られた手からも、その熱意が伝わってくる。
ニールは冗談でこんなことを言うような男ではない。
でも突然……どうして?
「待ってください! 護衛騎士が護衛対象の王女と結婚するなんて――!」
ニールのことを好きらしいイルゼが、それを見てはっとして声を張る。
「俺は侯爵家の嫡男だ。そこの男より俺が劣るか? まぁ、うちの家系に嘘をつく聖女はいないがな」
「……っ」
イルゼの言葉に冷たく言い返したニールは、やはり彼女のことをまったく見ていない。
「うむ……驚いたが、ザクセン伯爵の子息からは婚約破棄を申しつけられたところなのだ。ニールにその気持ちがあるのなら、私としてはとても喜ばしい」
「お父様……!?」
この場を見守っていた国王は、ニールの行動に感心したと言わんばかりに頷いている。
「聖女イルゼよ、王女を陥れようとした罪は重いぞ。しかしそなたは聖女。国外追放と言いたいところだが、魔物がはびこる辺境の地で聖女として働き続けることを命ずる」
「な……!? 辺境の地で!?」
「王族を陥れようとしたのだ。命を奪われてもおかしくはないのだぞ。聖女であってよかったな、イルゼ」
「…………っ」
静かで重みのある国王の言葉に、イルゼは慌てて口を開くと助けを求めるように神殿長を見た。けれど、神殿長は彼女の行動に呆れたように首を横に振るだけだった。
「……そんな……そんな……」
ヘクターはがくりと床に膝を着き、イルゼもその場にわっと泣き崩れた。
「アデリナ様、返事を聞かせていただけますか?」
「え……っと」
そんなやり取りを見届けた後、ニールが再び口を開く。
ニールは侯爵家の嫡男で優秀な護衛騎士ということを抜きにしても、その見た目や軽くない性格から、女性たちにとても人気がある。
二十二歳になった今でも婚約者すら決めていないけど、その座を狙っているご令嬢は多いのだ。
だから今の発言に、会場内にいる貴族令嬢たちが小さく悲鳴を上げていた。
「……ありがたく、お受けいたします」
「アデリナ様……!」
きっと婚約破棄された私の気持ちを考えてプロポーズしてくれたんだと思う。
それにしてもこんなに完璧な人を拒める女性なんて、いるのだろうか? この国にそんな人はきっといない。私だって――。
私の返事に、ニールは嬉しそうに顔をほころばせると我慢できないというように立ち上がって、私を強く抱きしめた。
それを見ていた父や兄、貴族たちが小さく沸く。
「ニール、離れて……!」
「……失礼いたしました。嬉しくて、つい……」
いや、っていうか貴方誰!?
彼らしくない言動に、私の胸はドキドキしっぱなし。
今のはさすがに少し恥ずかしかったとはいえ、私を救ってくれたのはニールだ。
ニールには感謝してもしきれない。
なぜ彼が前回と違う行動に出たのかはわからないけれど、なぜか私が断罪されることを知っていて、私のために無実となる証言を集めてくれたようだ。
ニールがいなかったら、私は今回の人生でも死んでいたかもしれない。
けれど、本当にどうしてだろう……?
他の者たちの反応は、前回と変わらないのに。
ニールだけが、違った。……というか、違いすぎる。
彼は優秀な護衛騎士ではあったけど、私に特別な感情を抱いていると感じたことは一度もなかった。
それなのに、彼は私を愛していると言ったのだ。
まるで、ニールだけ人が変わってしまったようだ。
……けれど今は、とにかくやり直すことができたこの二回目の人生を無駄にしないよう、改心して大人しく生きていこうと思う。
ニールからの突然の求婚とハグには驚いたけど、彼は本来クールで大人しい騎士。
だからきっと平穏に過ごしていけるはず。
これまで私は、確かに少し我儘がすぎたところがあったのだから。
それを反省して、今世では我儘王女は改心してみせましょう!!
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