19.全部を受け止めたい
本日5回目の更新です。
二人でベンチに並んで座り、ニールから真実を聞いた。
私が死んだ後、彼に起きたことを話し終えたニールは静かに目を伏せた。
そのときのことを思い出しているからか、ニールの表情はとても辛そうに見える。
でもまさか、ニールも時間が戻っていたなんて。だから彼は私が断罪されることを知っていたのね。
だから彼は、私の存在を確かめるように手を握り、身体を抱きしめ、目を見つめて名前を呼んでくれたのね。
私を守ると、何度も誓ってくれたのね……。
それも、彼は私よりもっと早い一日前に戻って、私の無実を証明するために尽力してくれたなんて。
私があの日に巻き戻ったとき、どうせなら一年前に戻ってほしかったと思ったことを、ふと思い出す。
でも、私はいつ戻ろうと関係なかったということか。
断罪を回避できたのは、すべてニールが頑張ってくれたおかげなのだから。それもたった一日で。
ニールが私のために、寝ずに頑張ってくれたのだ――。
「ニール……」
それを思うと、胸がきつくきつく締めつけられる。
「ねぇ、ニール……こっちを向いて」
「……」
最期のときを思い出して、今にも涙が込み上げてきそうだった。けれど、それはなんとか我慢した。
「ありがとう、ニール……あなたのおかげで、私は生きているわ」
「アデリナ様……」
こちらを向いてくれたニールに手を伸ばし、私の体温が伝わるように強く彼を抱きしめる。
もちろん最期のできごとは私も覚えている。
やり直すことは今からでも可能だと、ニールは言ってくれた。
最後まで私の身体を抱きしめて、何度も何度も名前を呼んでくれた。
意識が薄れていく中で、最後に聞いたのが彼の声だった。
あのとき私の名前を呼んでいたニールの声には、既に彼の気持ちが表れていたと思う。
「好きよ、ニール」
「…………え」
「好き……私も、貴方のことが大好き……」
「アデリナ様……!」
こんなに私のために一生懸命になってくれて、守ってくれて、側にいてくれる人を……。愛おしいと想わないはずがないでしょう?
「貴方に救われた命だもの。今度の人生は貴方のために……貴方と一緒に生きたい」
ねぇ、お願い。だからもう、貴方一人で苦しまないで。
私は助かった。貴方のおかげで助かった。
私は貴方に愛されて、とても幸せ。
今度は私が貴方にこの気持ちを返したい。伝えたい。
そっと顔を上げてニールの唇に自分の唇を寄せると、たちまち彼の頰が赤くなっていくのがわかった。
「……私は、貴方のおかげでとても幸せなの」
「俺もです……。俺は、貴女に救われました。命もそうですが……貴女に、心を救われた。俺は、貴女のおかげで生まれ変われたような気分です。俺に、こんなに大切に想える存在を与えてくれたのも、貴女です」
なんて深い愛の言葉なのかしら。
一度目のニールからは想像もできない言葉だ。
彼はとてもクールで他人に興味を示さない騎士だった。
本当に、彼は生まれ変わったみたい。
「でも本当に私でいいの? 私は我儘で傲慢な王女よ? 貴方ならもっとおしとやかで美人なご令嬢とだって結婚できるのに」
「俺は貴女がいいのです。貴女ほど美しい人を俺は知らない。アデリナ様こそ、本当に俺でいいですか? 俺は初めて人を好きになった。俺の初めては、結構重いですよ?」
冗談なのか本気なのかわからない口調でそう言ったニールに、私は思わず笑ってしまう。
「知ってる。でも大丈夫。受け止めるわ。貴方のすべてを」
「……アデリナ様!」
そしたら、たまらないというようにニールに強く抱きしめられた。
「まぁ、嫌だと言ってももう離さないですけどね」
「……それも、知ってるわ」
ニールの私に対する愛は、疑いようのないほどに大きい。
それは護衛騎士が王女に対しての忠義とは違うと、わかってる。
「よかった。それではもう、我慢はしなくていいですよね?」
「え――?」
頭の上でそんな言葉が聞こえて、私は彼の顔を伺おうと顔を上げた。
その瞬間、彼の唇が私に重ねられたと思ったら、油断して力が抜けていた私に、深く深く、ニールが落ちてきた。
「ん……っ! んん……!!」
「…………ふぅ。まだ足りないですが、ここでは駄目ですね」
「…………!!!」
驚いて彼の胸を押してみたり、バンバン叩いてみたけど全然駄目。
ちっとも離れることなく執拗に重ねられていた唇がようやく離れると、ニールはぺろりと自分の唇を舐めてキリッと表情を引き締めた。
なんか格好つけてるようだけど……今、とんでもないことを…………!!
「場所を移動しましょうか。俺の部屋でいいですか?」
「……は? いや…………は?」
あまりの急展開に気持ちが追いつかない私がちゃんと答えられずにいると、ニールは可愛く小首を傾げて口を開く。
「俺の初めては重いと言ったでしょう? これから、もっと……もっと、俺の愛を受け止めてもらいますよ」
「ええと……その、少しずつでもいいかしら?」
「大丈夫です。俺にすべて任せてください」
「なにが大丈夫なの? それ、答えになってる?」
すっかりやる気に満ち溢れた表情で、ニールははきはきと答えるけど、会話が噛み合わない。
「大丈夫。俺は貴女を傷つけたりしない。必ず幸せにしてみせますよ」
「……それは嬉しいわ。私も、貴方を幸せにする」
「……アデリナ様!」
優しく頭を撫でながらそう言われたから、ついそう言葉を返してしまった。
そしたらニールは私がなにかを許可したとでも思ったのか、とても嬉しそうに笑って、すっくと立ち上がると私の身体をひょいと持ち上げた。
「では参りましょう! 俺に掴まっていてください!」
「ちょ……! お、下ろして……!!」
言いながらも、つい彼の首に腕を回してぎゅっと掴まれば、スタスタと歩き出してしまうニールはもう止まらない。
「貴女のことは俺が守ります。これからも、ずっと」
「……」
けれど優しくそう囁いたニールの顔があまりにも幸せそうだったから、私はもうなにも抵抗できずに彼に身を預けることにした。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
騎士×姫の、愛が重いお話。
書籍化作業の息抜きに書かせていただきました(^^)
王女を守りたい護衛騎士。書いていて楽しかったです!
面白かったよ!お疲れ様!おめでとう!
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もしかしたら番外編も書くかもしれません!
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!




