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18.今度は必ず守ってみせる※ニール視点

本日4回目の更新です。

 ――それからどのくらい経ったのだろうか。


 降り続ける大雨に、俺自身も身体の感覚がなくなってきていた。

 それでも冷たくなっているアデリナ様を抱きしめていたら、遠くから「いたぞ!」という声が聞こえた。


「ニール様……! アデリナ様……!?」

「……王女を、早く……」


 そのときにはもう、彼女の心臓が止まっているのはわかっていた。

 それでも俺は、諦めきれなかった。

 聖女がなんとかしてくれないだろうか。

 国一番の魔導師ならば……いや、闇の魔術だって構わない。

 どうか、どうかアデリナ様を助けてくれ……。


 ……俺は守れなかったのだ。


 この腕の中で、王女を死なせてしまったのだ……俺のせいで。


「ニール様……!」


 止めどなく流れる涙は、雨で誤魔化した。


 もし願いが叶うなら、この命と交換してほしい――。


 皆に誤解されたまま、寂しく死んでいった王女様に、もう一度やり直すチャンスを――。



 そう願いながら意識を手放した俺が次に目を覚ましたのは、王宮内にある、俺が使っている部屋のベッドの上だった。


 俺は両足や背骨を数カ所骨折していたが、命は助かったのだ。


 アデリナ様のおかげだ。


 あのまま川にいたら、間違いなく体温が低下して死んでいた。

 俺を放っておけばアデリナ様は助かっていただろうに……。


「……っ」


 なぜ俺を助けたのだ……!!


 やり場のない怒りを拳に託し、思い切りベッドにたたき落とした。




 それからすぐに陛下や三人の王子たちが俺のもとに面会に来た。

 王女の護衛でありながら、その身をお守りすることができなかった責任を取るため、俺はいかなる罰も受ける覚悟でいた。


 陛下も王子たちも、悲しみに暮れていた。


 しかし、俺に対する罰はなかった。


 陛下は、アデリナ様の最期を聞くと、「ゆっくり傷を癒やせ」とだけ言ったのだ。


「しかし! 俺はアデリナ様をお守りできませんでした……!! いや、俺のせいでアデリナ様は最後の力を振り絞って……!」

「ニールよ、この手紙をお前に」

「……」


 涙を堪えた声で、陛下は俺に一通の手紙を渡した。

 川の横で見つかったアデリナ様の荷物から出てきたらしい。

 そこには、見慣れたアデリナ様の文字で言葉が綴られていた。


〝もし私に何かあっても、それはニールのせいではないわ。彼はいつも私を完璧に守ってくれていたから。彼以上に私を守ってくれる人はいない。だからもし私に何かあっても、彼を罰したりしないでね〟


「――……!」


 他にも、自分の侍女に対する感謝の想いや、父や兄たちへの愛の言葉が綴られていた。


 文末に記された日付は、国外へ移動中の、あの事故が起きる一日前のものだった。


 この国でただ一人の王女は、何かと危険な目に遭うことが多い。


 だからアデリナ様は移動中、もしくは国外に着いた途端、自分の身に危険が及ぶかもしれないと覚悟して、このようならしくない(・・・・・)手紙を用意していたのだろうか。


 本当に……あの王女様は勝手だ……。


「く……っ、ふ……っ」

「ニール……」


 俺は手紙を握りしめて、陛下の前だということも忘れ涙を溢れさせた。


 アデリナ様は、素直でまっすぐな方だった。

 悪いと思ったことははっきり口にされるから、我儘だと誤解されてしまうこともあったが違う。


 俺たち家臣や友人たちのことを思いやれる、優しい方だったのだ。


 アデリナ様が〝ニール!〟と笑って俺を呼ぶ顔を思い出す。

 王女として堂々とされているその佇まいはとても立派で、美しかった。


 そんな彼女は、皆に誤解されたまま俺を助けるために死んだのだ。


 ああ……なぜ今まで気がつかなかったのだ。いや、違う。気づいてはいけないと、あえて心を殺していたのだ。



 俺はアデリナ様がとても愛おしかった。



 命をかけても守りたい存在だった。だがこの気持ちが叶うことはないと知っていたから、俺はすべてを諦めていたのだ。


 俺は本当に愚かだった。


 アデリナ様……。俺は、もしやり直すことができたなら、貴女を絶対に守ってみせる。幸せにしてみせる。


 あんなに悲しい最期にはさせない。


 俺が、必ずこの手で――。


 そう誓った瞬間、奇跡が起きた。


 ぱぁっと辺りが光に包まれたと思ったら、俺はまるで今起きていたことが夢だったかのように、王宮内の一角に普通に立っていたのだ。


 何が起きたのかわからず、しばらく混乱していたが、行き交う人々も、あんな痛ましい事故などなかったかのように笑いながら、明日王宮で開かれるパーティーの話をしていた。


 そう、俺はあのパーティーの前日に戻ってきたのだ。


 それを理解した俺は、なぜ巻き戻ったのかなど考えるのはやめて、とにかく急いでアデリナ様の無実が証明できる証言を集めて回ることにした。


 あのとき、ヘクターが持ってきた書類に署名されていた者たちの名前は、しっかりと覚えていた。


 彼らのほとんどは聖女や神殿に信仰の厚い者だった。


 そのため、彼らからアデリナ様の無実を証明する証言を聞き出すのは難しかったが、時間がない。


 ならば――。


 イルゼとよく一緒にいる令嬢。彼女たちが本当の友人でないことは知っている。

 だから彼女たちにすぐ話を聞きにいった。


 俺が問うと、彼女たちはなんとも簡単に口を開いた。

 俺に話しかけられたというだけで嬉しそうに甘い声を出し、友人を売る。


 呆れたくなるが、今はそんなことどうでもいい。

 とにかく証言をもらうことだ。


 聖女イルゼに脅されていると語った者もいた。

 やはり本当の友人ではなかったようだ。


 急ぎ証言をまとめ、署名ももらった。

 翌日も、時間ギリギリまで走り回っていた俺は、パーティーに参加しているアデリナ様から離れてしまっていたが、前回と違うことが悪い方向に起きていなければいいと願いながら、会場へと走った。


 これだけ証言が揃えば……対抗はできるはずだ。


 あとは、うまくあの場にいる者たちの口から直接真実を吐かせることができれば……!!


 もしこれがうまくいったら、俺はアデリナ様に求婚しよう。


 突然俺の態度が変われば、アデリナ様は動揺するだろうが……。それでも構わない。


 この気持ちを伝え続けていれば、いつか想いは届くだろう。


 俺はアデリナ様を愛している。


 彼女が俺の人生を生まれ変わらせてくれたのだ。


 だから俺は、一生アデリナ様をお守りすると……幸せにしてみせると、強く誓った。





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