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15.強い想い

「さぁアデリナ様、できましたよ!」

「ありがとう、メル」

「うふふ、楽しんでいらしてくださいね!」


 今夜は数年に一度訪れると言われている、星がとても綺麗に見える夜。

 そのロマンチックな夜をともに過ごす恋人は多い。


 私もニールと一緒に見る約束をしているので、もう遅い時間だけど髪の毛だけでも可愛くしようと、メルに簡単なセットをしてもらった。


「お待たせ、ニール」

「ああ……アデリナ様、とても可愛いです」

「ありがとう」


 仕事を終えたばかりのニールはいつもの黒い騎士服だけど、私は彼のこの姿が結構好きだったりする。


 私を助けてくれたときのニールが、本当に格好よく見えたから――。


 私の部屋まで来てくれたニールを中に招き入れ、二人でバルコニーへ出る。


 メルが部屋の明かりを消して部屋を出ていくと、空一面に満天の星空が広がった。


「わぁ……なんて美しいのかしら」

「ええ、本当に」


 今夜は街の明かりも消されていて、いつもより暗くなっている。

 そのおかげで星がよく見えるのだ。


 予め用意していた長椅子に座り、手を繋いだまま腰を下ろす。


「素晴らしいわ……いつまでだって見ていられそう」

「そうですね。ずっとこうしていたい」


 静かに呟かれたニールの言葉に、彼をそっと見上げる。


 本当は死んでしまうはずだった私がこうして生きて、こんなに素晴らしい星空を眺めることができるのは、ニールのおかげだ。


 ニールはいつも私と一緒にいてくれて、私を守ってくれていた。


 確かに時間が戻ってからは特に大切にしてくれているけれど、その前から彼はずっと私と一緒にいてくれたのだ。


 大きな危険に巻き込まれたことはなかったけれど、私が無事に今日まで生きてこられたのは、間違いなくニールのおかげだ。


 我儘を言ったこともあったし、私は面倒な王女であったと思う。


 けれどニールが私に嫌な顔を見せたことは一度もなかった。

 いつもクールで無表情ではあったけど、私の要望にスマートに応えてくれていた。


 そして、あの事件(・・・・)からは、本当に彼からの気持ちが伝わってくる。


 私のことが大切で、愛しいと……。痛いくらいに伝わってくる。


 それを思うと、ニールへの感謝の気持ちが溢れてくる。


 愛が、溢れてくる。


「……! アデリナ様」

「いつもありがとう、ニール。私は貴方のおかげでこうしていられるのよ」


 そんなことを考えていたら、もっとニールとの距離を縮めたくなった。だから彼の肩に頭を預けて、私は小さく呟いた。


「……いいえ。俺は貴女を守ると誓ったので」


 するとすぐ応えるように、私の手を優しく握っていたニールの手に力が込められた。

 手の熱から、彼の想いが伝わってくる。


〝貴女を守る〟


 ニールから発せられるその言葉が、軽い言葉ではないということは手に取るようにわかる。


 とても強い意志を感じるのだ。


「もう十分守ってもらっているわ」


 本当に。ニールがいなかったら今の私はないのだから。


 でも、どうして急にこんなにも私のことを想ってくれるようになったのか、いつから私のことを想ってくれていたのかは、やっぱり気になる。


「ねぇ、ニール」


 そのことを聞いてみようと、頭を上げて彼を見つめた。


「!! アデリナ様……!」

「え……?」


 私と目を合わせたニールが、一瞬視線を落としたと思ったら、かっと頰を赤く染めて口元を手のひらで覆った。


「寝衣が乱れております……!」


 ニールの言葉に私も視線を落とすと、寝衣の上に羽織っていた薄手のガウンが肩からずれ落ちていた。

 今日の寝衣は胸元が少し緩めのものだったけど……そんなに慌てるようなことかしら?


 この間のパーティーで着たドレスは、もっとデコルテが大きく開いたデザインだったのだけど。


「……ごめんなさい、直したわよ」

「破壊力が……!」

「え?」

「ちゃんと着てください……! 魅力的すぎます。俺を殺す気ですか!? それに今は二人きりなのですよ!?」


 大袈裟なことを言う彼に思わず笑ってしまいそうになったけど、どうやら本気のようだからそれは我慢した。


 こんなに完璧な外見をして、本当にウブな人。


「貴方に死なれては困るわ」

「……大丈夫です、貴女を置いて死んだりしませんので」

「そう、それならよかった」


 すぐにきりっと表情を引きしめて見せるニールに、私はとうとうくすりと笑ってしまう。


「……可愛い」

「……!」


 そしてもう一度、ニールの肩に頭を預けて空を仰ぐ。


 普段はクールで怖いくらい鋭い顔つきなのに、二人きりのときはとても可愛い。


 そんなニールに、私の心は確実に惹かれていた。


 けれどまた、聞けなかったわね。彼がいつから私のことを好きなのか……どうして好きになってくれたのかを――。



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