表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/19

14.感謝の気持ち

「ティルマン兄様!」

「ああ、愛しのアディ。おかえり」


 お城に帰った私たちは、まっすぐティルマン兄様のもとへ向かった。


 広間のソファで本を読みながら優雅にお茶をしていたティルマン兄様は、胡散臭いほどの笑顔で私たちを迎えてくれる。


 ……というか、とても暇そうだ。 


「一体これはどういうことですか!?」

「ああ、よかった。受け取ってくれたんだね。気に入ってくれた?」

「そうじゃなくて……!」


 例のものが入っている箱を兄の前に置いて問いただすも、とぼけた顔で再び笑顔を浮べるティルマン兄様。


「なんだ、照れてるのか? 若者の間で流行っているんだぞ、恋人の瞳の色のお揃いの寝衣。可愛いだろう。しっかりデザインを見たか?」

「見たから言ってるんです!」


 確かに可愛かったけど、大胆すぎる。可愛い妹になんてものを着せる気なのだろうか。


「可愛いアディに似合うと思ったんだけどな。二人で着てほしいと思って考えた、俺からの最高のプレゼントなんだけど」

「はい。確かに最高です」

「そうだろ? っていうかお前、本当にキャラ変わったな! ニールの手が遅いと思って用意したのに、その様子なら必要なさそうだな」


 カラカラと軽く笑っているティルマン兄様と、至って真面目な表情のニール。


 本当に、なんの話をしているのだろうか。この王子()は……!!


「なにをもらったか、チャール兄様たちに見せますよ」

「おいおい、それはやめてくれよ。また怒られるだろ?」

「じゃあ、これはお返ししますからね」

「わかったわかった」


 こんなふうに、王子であるのになにかとふざけているティルマン兄様の言動を、チャール兄様がよく注意している。


 今回も私がチャール兄様に言いつけたら、ティルマン兄様は「あまりからかうな」と注意されるだろう。


 やれやれ、と眉を上げておどけた顔をしたティルマン兄様だけど、その後ちらりとニールを見て片目を閉じ、なにやら合図を送った気がした。


 まさか、後でこっそりニールに渡したりしないわよね?


「せっかくサプライズで用意したのに、残念だよ」

「あ……」


 そうだわ。どんなものだったにしろ、兄様がせっかくくれたのに、少し言い過ぎてしまったかもしれない。


 残念そうな顔をしたティルマン兄様を見て、反省する。


 高級なものであるのは間違いないし、これでは以前の、我儘な私のままじゃない。


「気持ちは嬉しかったです。ありがとうございます」

「おお……、そうか」


 けれどやっぱり、元々受け取ってもらえるとは思っていなかったのか、ティルマン兄様は素直にお礼を言った私に意外そうに一瞬目を見開いて言葉を詰まらせた。


「なんか二人とも、あれから変わったよな。アディもニールも、素直になったというか……。まぁ、いいか。とにかくおめでとう! こんなものがなくても仲がよさそうで、安心したよ」


 じゃあな、と軽く言ってひらひらと手を振ると、ティルマン兄様は箱を抱えてその場をあとにした。




「はぁ……」

「お疲れですか?」


 私も部屋に戻ってソファに座り深く息を吐き出すと、ちゃっかりついてきたニールが私の前に屈んで言った。


「マッサージをしましょうか」

「いいわよ。ニールがすることじゃないでしょう?」

「俺はアデリナ様のためならなんでもいたします」

「……大丈夫よ。それよりニール、後で受け取ったりしないでよ? ティルマン兄様から」

「!! ……はい」


 やっぱり目で合図を送り合っていたのだろうか。

 私の言葉に、ニールはわかりやすくがっかりして見せた。


「しかし、あれもティルマン様のご厚意ですよ」

「……まぁね」


 少しずれているけど、私たちのために用意してくれたことにはやっぱりちゃんと感謝しなければ。


 ……半分くらいは兄様が楽しんでいるような気がするけれど。


「それより、そんなところにいないで座ったら?」

「ありがとうございます。では、失礼して……」

「……」


 いつまでも私の前に跪いているニールに声をかけると、彼は当然のように私の隣に座った。


 相変わらず距離が近いけど、それにもだいぶ慣れてきた。

 

 どうしてもドキドキしてしまうけど、ニールとのデート……は、本当に楽しかったし、彼と一緒にいる時間は好き。


「あれを着たアデリナ様はとても魅力的でしょうが、俺はあんなものなどなくても、どんな姿のアデリナ様でも……ただ元気にしてくださっていれば、それだけで満足です」

「……」


 一見ふざけているようにも感じる言葉だけど、これは真剣な瞳を私に向けているニールの本心だ。

 彼は大真面目に、私が元気ならそれでいいと思っているのだろう。


 たとえ私が王女ではなくなったとしても、元気ならそれでいいと言い出しそうだ。


 そういう真面目なところは、本当にニールらしい。


「……ありがとう」


 だから私も真面目に応える。



 私は一度死んだ身。


 無実の罪で断罪されたけど、一度目の人生では誰も私を助けてくれなかった。


 私がそういう生き方をしてきてしまったからなのだけど、今世ではニールが助けてくれた。


 彼だけが、私のために行動してくれたのだ。


 どうして彼がこんなに変わってしまったのかはわからないけれど、その事実は忘れない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ