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13.兄からの贈り物

「とても素晴らしかったわね」

「はい」


 それから予定通り、国一の大ホールで音楽鑑賞をし終えた私たちは、カフェに入って休憩がてらお茶をすることにした。


 本当に素晴らしい演奏の余韻が、まだ耳に残っている。


「来てよかったわ。今日は付き合ってくれてありがとう、ニール」

「いいえ、またいつでも付き合います。貴女とデートができて、俺はとても楽しかったですから」


 ……デートか。

 まぁ確かにこれはデートなのかもしれないけど……そんなにはっきり言葉にされると、なんだか照れくさい気持ちになる。


 それを誤魔化すように紅茶を飲んでちらりと彼に視線を向けたら、じっと熱い視線を私に向け続けているニールがいた。


「……なに?」

「はしゃいでいるアデリナ様が可愛いと思いまして」

「……」


 私、はしゃいでた?


 街に来たのは久しぶりだし、本当にいい時間を過ごせて楽しかったけど……。


 はしゃいでた?


「ごめんなさい、子供っぽかったかしら」

「いいえ。とても可愛らしいです!!」

「……」


 こちらが照れてしまうようなことをさらりと口にするニールのほうは、今日も完璧な佇まいだ。


 騎士服でもカチッとした正装でもないけれど、隠しきれないオーラが出ている。


 この長身は隠せるものではないし、相変わらず顔もいいし。


 はっきり言って、目立つのよね。


「……そろそろ行きましょうか。ティルマン兄様に頼まれたものを受け取りに行かなければならないし」

「そうですね」


 先ほどから、店内にいる女性客の視線がニールに向いている。

 本当はもう少しゆっくりしたかったけれど目立ちすぎて私が王女だとばれるのも面倒なので、そろそろ移動することにした私たちはティルマン兄様からもらった紙に書かれているお店に向かった。




「――お待ちしておりました」


 店主に紙を見せると、すぐに裏から箱を持ってきてくれた。


「こちらはティルマン様から、お二人に」

「……え?」

「ご婚約おめでとうございます」


 にこりと上品に微笑んだ店主に、私とニールは顔を見合わせる。


 ティルマン兄様がよくお忍びで街に出ているのは知っていたけれど、わざわざこんなふうにお祝いを買ってくれていたなんて。


 王族なのだから、直接街に買いに来る必要はないのだ。

 けれど、こういうサプライズはティルマン兄様らしいといえば、らしい。



「中身はなにかしら?」


 少し大きめのその箱は、ニールが持ってくれた。


 王宮へ帰るため馬車に乗り込んでから、箱の中身が気になった私は開けてみないかと、彼に提案する。


 隣に座っているニールの膝の上で開封されていく箱の中身をわくわくした思いで覗き込んでいると、淡い青色と濃い紫色の布が見えた。


「……これは?」


 ドレスかしら?


 初めはそう思ったけれど、それにしてはなんだか生地が薄い気がする。


「……これは!!」


 紫色の……まるでニールの瞳の色を連想させる布を持ち上げて広げると、彼は高い声を上げた。


「なによ、これ……!!」


 それは、かなりセクシーなデザインの寝間着(ベビードール)だった。

 丈は短く、これではおしりも隠れないのでは? と思ってしまうくらいの長さで、胸元は大きく空いている。


 これでは色々丸見えだ。


「……!」


 ピンときて青い布のほうも広げてみると、それは男性用のナイトガウン。

 色と形は違うけど、刺繍されている花の模様やデザインは同じ。

 それにとても肌触りがよく、高級なものであることは間違いないと思う。


 けれど……どうしてこんなものを……!!


「……っう!」

「え? ニール、どうしたの?」


 ベビードールをじっと見つめて固まっていたニールが、突然手のひらを口元に当てて苦しそうな声を出した。


「すみません……これをアデリナ様が着てくださるのかと思うと……!」

「着ないわよ!!」


 どうしたのかと、心配した私の気持ちを返してほしい。


 もう、なにを想像したのやら。


「これはティルマン兄様のシャレ(・・・)よ! 真に受けちゃ駄目!!」

「……そうなのですか?」


 ニールからベビードールを奪うようにして二つとも箱に戻し、私ははぁ、と短く息を吐いた。


 ニールはなんだか残念そうにしているけれど……。


 まったく、ティルマン兄様ったら。しかも直接私たちに受け取らせるなんて。


 悪ふざけがすぎるわ! ティルマン兄様が楽しそうに笑っている顔が目に浮かぶようだ。


 帰ったらどういうつもりか、問いただしてやらないと!



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