12.可愛い婚約者
ニールとパーティーに参加して以来、彼との距離が縮まったような気がする。
「本当に美しいですね!」
「ええ」
ニールからもらった婚約指輪は私の一番のお気に入りアクセサリーになった。
まるでニールの瞳のように美しい宝石は、いつまでも見ていられる。
「そういえばペンダントとも色が似ていますね」
「そうね」
「とてもお似合いです!」
「ありがとう」
私がいつも身につけているペンダントは、父がくれたもの。宝石ではなく魔石でできており、魔力が付与された特別なものだ。
「アデリナ様とニール様はこの国の貴族令嬢たちの憧れです!」
まるで自分のことのように、嬉しそうにそう口にするメルに私も笑顔で応える。
本当に、私は幸せだと思う。
ニールはとてもモテるけど、紳士的。
手を握ったり、抱きしめたりはしてくるけれど、それ以上のことは少しも望まない。
だから当然、まだキスもしていない――。
いつものようにメルに支度を手伝ってもらうと、部屋の前で待っていたニールとともに朝食へ向かう。
「おはようございます、チャール兄様、ティルマン兄様、トビアス兄様」
「おはよう。アディ、ニール」
三人の兄たちとニール、私の五人で食事をとるのが習慣になってきている。
思えば今まで私は、ニールがなにかを食べているところを見たことがなかった。
彼はその見た目同様、とても美しい所作で食事をする。
三人の王子たちと並んでも、まったく引けを取らない。
本当に少しも隙がない、完璧な人だと改めて思う。
「アディとニールは今日、街に出かけるんだったか?」
「ええ」
第二王子のティルマン兄様からの質問に、私が頷く。
ティルマン兄様と王太子のチャール兄様は双子だ。
チャール兄様は金髪で、ティルマン兄様は銀髪。顔はよく似ているけれど、髪の色同様、性格はあまり似ていない。
「それじゃあ、おつかいを頼んでもいいかな?」
「いいですよ、なにかしら?」
「この店に頼んであるものを引き取ってきてほしいんだ。もう支払いは済んでいるから、受け取ってくれるだけでいいんだけど」
そう言って、ティルマン兄様は胸の内ポケットからお店の名前が書いてある紙を取り出して私に手渡した。
「わかりました」
「よかった。ニールも頼んだぞ」
「承知いたしました」
ニールはティルマン兄様とも同い年だけど、それほど仲がいいわけではない。
もちろん不仲なわけではないけれど、ティルマン兄様は結構自由な性格をしている。
王太子は双子の兄に決まっているし、未だ婚約者も決めていない。
三人の兄たちは皆モテるけど、ティルマン兄様はまだ自由でいたいのだと思う。
「ところで何を買ったのですか?」
「それは行けばわかるよ」
「……ふぅん」
教えてくれてもいいと思うけど、他の兄たちの前では言いたくないようなものなのだろうか。
ティルマン兄様はナイフとフォークを置くと、「ごちそうさま」と言って早々に席を立ってしまった。
今日はニールと街に出かける約束をしている。
この国で有名な音楽家がコンサートを開くので、それを鑑賞しに行くのだ。
王女が外出するときは護衛がたくさん付いて少し大がかりになるのだけど、そんなに大人数で行っては迷惑がかかるから、今回は身分を隠して行く予定。
優秀なニールが一緒にいてくれれば、なにも問題はないと思う。
*
「俺から離れないでくださいね、片時も」
「……ええ」
街に着いて馬車を降りると、ニールはとても真剣な表情で大袈裟なことを言った。
「俺たちは恋人同士……いや、今日は夫婦という設定にしましょう。設定ではなく、ほとんど事実ですが」
「……ええ、わかったわ」
ぽっとほんのり頰を赤らめて私の手を握ったニールに、苦笑いで応える。
本当に、この人は黙っていたらとてもクールで格好いいのに……。
というか元々そういう性格をしていたはずなのに。どうしてこんなふうになってしまったのだろう? 別にいいけど。
でも〝硬派で格好いいニール〟が好きな彼のファンが見たら、なんて言うかしら?
がっかりする?
いえ、「可愛い!」ってそのギャップに余計やられるのかしら……。
とても嬉しそうにしているニールをちらりと見上げて、私は彼にばれないように小さく笑った。
今までの彼とのギャップには未だに困惑してしまうけど、私はこんな彼のことが嫌いじゃない。
……ううん、私も「可愛い」と思ってしまっている。
だって私と一緒にいられてそんなに嬉しそうにされたら、やっぱり私だって嬉しいもの。




