01.2度目の断罪
新連載始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
「――よって、アデリナ王女には国外追放を望みます!!」
「……え?」
元婚約者、ヘクター・ザクセンが私にびしっと人差し指を向けながら叫んだ声が耳に響いた。
……どういうこと?
「何をぼんやりしているのですか、アデリナ王女。聖女である姉上を殺そうとしたのですから、これは当然の罰ですよ」
「……ヘクター様……?」
「どうしましたか。絶望して気が触れてしまわれたか」
間違いない。目の前にはよくいる茶髪と茶目、平均的な身長と体格の男、ヘクター・ザクセン伯爵令息。
周りには、たくさんの人。
ここは、王宮内の大ホール。
ヘクターの後ろには扇で口元を隠している、ストレートの黒髪とルビーのような赤い瞳が美しい、ヘクターの姉、イルゼ伯爵令嬢。
彼女は私と同い年の十七歳で、神殿に聖女と認定されている。
周囲の貴族たちは皆煌びやかに着飾っていて、ヘクターの発言にざわつきながらこちらに視線を向けていた。
そして玉座には父である国王と、一番上の兄、チャール王太子。会場内には二番目と三番目の兄と神殿長もいて、皆がヘクターの突然の言動に動揺の色を浮べている。
この状況は、間違いない……。
「ヘクター様は今、私に婚約破棄を言い渡し、更に私がイルゼ嬢に嫌がらせの数々を行い、階段から突き落として殺害しようとしたとおっしゃいました?」
「そうです」
「我儘で傲慢な私には、聖女であるイルゼ嬢を殺害しようとした罪で、国外追放を希望すると?」
「……っそうだと言っているでしょう!」
「今までごめんなさい!!!」
「……は?」
未だ混乱する頭で、このおかしな状況を理解して、私はすかさず頭を下げた。
この国でただ一人の王女である私が謝罪を口にしたことに、周囲はどよめく。
「確かに私は今まで我儘を言っていたかもしれません……! ですがヘクター様がおっしゃった罪のすべてが事実ではないのです! それにイルゼ嬢を殺そうだなんて……! さすがにそんなことしません!!」
確かに末っ子で父や兄たちに甘やかされて育ってきた私には、少し我儘なところがあるかもしれない。
けれどヘクターが言った、私がイルゼにした嫌がらせとは、彼女のものを奪ったり壊したり、ドレスや髪型を真似して自分のほうが似合っていると彼女を笑ったり、わざと恥をかかせようと皆の前で彼女の意見を否定したり……ということだけど、そのほとんどは誤解だ。
私は、元々イルゼが他のご令嬢から強引に奪ったものを取り返したり、彼女が間違っていると思うようなことを言ったから自分の意見を述べたりしただけ。
それに真似をしたとかいう、流行りのドレスや髪型を最初に取り入れたのは王女である私だ。流行のほとんどは、王族から始まるものなのだ。それを周りが「お似合いです」と褒めてくれたから笑顔で応えただけで、イルゼを笑ってなんかいない。被害妄想も大概にしてほしい。
それから、ものを壊したというのは、私がイルゼにプレゼントしたカップを手渡そうとしたときに、手を滑らせて落としてしまったことを言っているのだろうか。あれは決してわざとではない。
というかよく考えたら、あのとき一度受け取ったのに手を離したのは、彼女のほうだったと思う。それに後日新しいものを贈り直したのだけど……。
「見苦しいですね。姉上を階段から突き落としたでしょう!? たくさんの者が見ているのですよ!!」
「だから、それは誤解で……!」
階段から突き落とした。
そんなこと、するはずがない。する理由がない。
確かに彼女が私と一緒に階段にいるとき、派手に落ちたことがあった。
たまたま階段の下にいた私の護衛騎士が咄嗟に彼女の身体を支えたおかげで、大怪我には至らなかったのだけど。
でも私は突き落としてなどいない。
あれはイルゼが足を滑らせたのでしょう?
「貴女は僕が姉上と仲良くしているのが気に食わなかったのですね。姉上は美人で性格もいいから嫉妬していたのでしょう。ああ、なんて惨めな王女だ……!!」
「だから、違うって」
悪いけど、私は欲しいものの大半は手に入る。
それに、母譲りであるブルーグレーの髪も蒼い瞳もこの顔も、気に入っている。
確かに私の婚約者であるヘクターは、こういうパーティーのときいつも「婚約者のいない姉上がかわいそうだ」と言い、イルゼをエスコートしていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
勝手に決められた婚約者に気持ちはなかったし、私には見目麗しい兄が三人もいる。エスコートの相手には困らない。
そういうわけで、イルゼに嫉妬したことは一度もない。
「とにかく、証人がこれだけいるのです! いくら王女であっても、聖女に対してこれだけの横暴を行い、殺害しようとしたのだ! ただで済むはずがない! そうでしょう、国王陛下!」
どこから集めてきたのか、どんっと署名の書かれた紙を前に突き出し、堂々と言い張るヘクター。
ああ……同じだ。前回とまったく同じ。このままじゃまずい。
伯爵家の嫡男である彼が国王に対してこれだけ強気でものが言えるのは、彼の姉イルゼが聖女だからだ。
聖女が私に殺されかけた……。事実なら、とんでもない話だ。事実なら、ね。
さすがの父も、突然のことに動揺を隠せずにいる様子。
神殿はこの国にとって国王と同じくらいの権力があり、民からの信頼も厚い。
父は神殿ともいい関係を築いてきただけに、ここで揉めたくはないだろう。
場合によっては、国内戦争に発展する可能性だってあるのだ。
だから、その神殿が認定した聖女を殺そうとしたとなれば、さすがに王女でもまずい。国王も庇いきれないのだ。
ああ、どうしましょう。なんとかしないと……!
私は自分がこの後どうなるか知っている。
だってこの状況は既に一度経験しているのだから。
そう、私は断罪されて一度死んだ。
国外追放されても死刑になるわけではないと、やむなく父も一度はそれを受け入れたのだ。
けれどその移動中――
大雨の中走らせていた馬車が事故に遭い、崖から転落した。
私はそのまま死んだのだ。
もし人生をやり直せるなら、今度は我儘を言ったりせず、大人しく生きていこうと思った。
そして気がついたら、この断罪中のパーティー会場へと時間が巻き戻っていたのだ。
本当に不思議だけど、これが夢ではないのなら、私はこのチャンスをなんとか活かしたい。
でも……どうせ戻るなら十年前とか五年前とか……せめて一年前に戻ってくれたらよかったと思う。
一体今からどうすればいいのだろうか。前回だって、私は自分の無実を主張したし、必死で抵抗した。
……まぁ、謝罪は口にしなかったけどね。
ともかく、このままではまた国外追放されて、移動中の馬車が事故に遭って死んでしまう!
せっかく反省したのに。せっかくチャンスを与えられたのに……私は結局死んでしまうのかしら……。
「お待ちください」
どうすればいいのかと頭を悩ませていたときだった。
一度目の人生では聞かなかった、静かで落ち着いた言葉が後ろから聞こえて、私はその人物を振り返った。
新連載始めました!
Twitterで以前アンケートを取らせていただき、読みたい話1位だった「護衛騎士×姫の愛が重い話」です!
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