王子に転生したら悪役令嬢に罵られていますが、気持ちが透けて見えています
※念のためGLタグをつけていますが、片方は「身体は男! 心は女!」の身なので疑似百合カップルです。
ラブコメ・ギャグテイストとして男性向け漫画でよくあるような、女性の身体の一部を果物に例えたり連呼するような表現があります。そう言った表現が苦手な方はブラウザバックをお薦めします。
「もう! はしたない! なんてだらしがないの!」
雷を落とされるとは、まさにこういう状況を指す言葉だろう。
それまでうっとりと目の前の女性を眺めていた私は、彼女の強い叱責に条件反射で背筋をしゃん!と伸ばし、うっかり前世の言葉で謝ってしまった。
「す、すみません! エレーヌ様ッ!」
「!?……はあ、その言葉遣いもどうかしてますわ。まだ熱があるのでしょうか? それとも下々の者と積極的に交流をされた影響かしら? もう少し立場をわきまえて下さいませ!」
エレーヌは私の言葉に呆れと怒りと心配とを同時に募らせたらしい。その結果、先日のデートとその顛末について嫌味をたっ~ぷりと交えて怒る言葉を選んだ。
ゲームの画面なら、背景にどす黒いモヤがとぐろを巻いていそうな冷たい表情で怒っている。
しかし、彼女は怒りの顔ですらそれはそれは美しい。
赤茶の艶やかな巻き毛はその美しい顔や身体を引き立て、まるで絵画を飾る額縁のようだし、同じく赤茶色の睫毛は濃く長く、切れ長の目を縁取っている。
瞳は黒だと皆は言うけれど、私に言わせれば夜の星空だと思う。その夜空色の両目の間には鼻筋の通った形の良い鼻に、やや薄いけれど真っ赤な薔薇と見紛うばかりの唇。
その下に視線を落とせば細く白い首に華奢な肩。そしてそれらには不釣り合いな……まったくもって凄いボリュームの……うん、デカイ。さしずめアンデスメロンだ。重そうだな……何カップだろ?
「ほら! またそんなはしたない顔をなさって! 信じられませんわ! いったいどこをご覧になっているの!?」
エレーヌは元々のつり目をさらにつり上げて私を怒った。すっごい迫力で怖い。
そう、怖いんだけど、そのお胸の辺りにはね……
「きゃあ、怖ぁい。エレーヌ様っていつもそんな風に怒ってばかりですわねぇ。もうちょっと優しくできませんの? クリス様が可哀想ですわっ」
突然割り込んだストレートの金髪を持つ美しい男爵令嬢が、その碧の瞳をうるうるさせてエレーヌを非難しだす。
おまけにさりげなく私にボディタッチ。それに気づいて目を合わせるとまるでわんこが「褒めて? 今良い事言ったでしょ? 褒めて?」って言ってるような顔をして見上げてくる。
流石、この娘やり手だな。こりゃー“攻略対象のクリストフ王子”もコロッと靡いて婚約者を捨てる気になるわけだ。
彼女はヒロイン。エレーヌは悪役令嬢で王子の婚約者。
ここは以前私が夢中になってプレイしていた乙女ゲームの世界だと思う。そしてどうしてかどうやってかサッパリわからないが、私はこの世界に転生したらしい。
何故か攻略対象の王子様として。私の前世は女だというのに。
もうホントに意味がわからない。しかもその前世の記憶が甦ったのは、実はつい一昨日の事なのだ。だからまだ私の頭は混乱している。
一応今までのクリストフ王子の記憶もちゃんと残ってるんだけど、意志はほぼ前世の私として動いている気がするんだよね。それと、どうやら私はあるスキルを授かったらしい。
「ちょっと! 殿下にベタベタとくっつくなんて何を考えているの!? 貴女も立場をわきまえなさい!」
「ヒドい~っ! エレーヌ様って本当に意地悪ね! 私はクリス様を慰めて差し上げているだけなのに~。ねっ?」
言い争う婚約者と男爵令嬢を見ながら、なるほどなぁと感心する。
ゲームの中で王子が「王族としての立場を常に意識しているのに疲れた。君だけが癒しだ……」とヒロインに弱みを見せたのは、キツい口調のエレーヌを男爵令嬢が都度ディスりつつ「私は味方です」というスタンスを崩さなかったからか、と納得したのだ。
そしてゲームの裏側を覗けるようになった私がニマニマと口許が弛むのを抑えきれずにいると、エレーヌがこっちを見てキッとなった。
「殿下! 殿下もそんな風にまただらしない顔をして! ほっ、他の者に示しがつかないではありませんか!!」
「ああ、すまない。ちょっと気が抜けているみたいだ……少しだけ傷がまだ痛むからかな」
「「えっ!」」
今度はちゃんと“王子”の記憶に添ってそれらしい言葉遣いで話してみた。そして二人の反応を探る。
婚約者と男爵令嬢は同時に声をあげたが、その後の選択肢は全く違った。
「医師を呼びます! 殿下、楽になさっていて下さいませ!」
「く、クリス様ぁ……私のせいで……ごめんなさいっ!」
ここは王立学院の中庭だ。エレーヌは素早く辺りを見回して手近なベンチに私を誘導した。そして離れて待機していた従者を呼びに行く。
一方ヒロインは私にぴったりと寄り添い、ベンチに座った私の手を取って見つめ、謝罪の言葉を語りかけてきた。
見事な対比だなぁ。実利を取るか、情緒を取るか。どちらも己が立場を考えれば最善を選んでいると思う。
私が一昨日、転生したと気づいたきっかけは怪我による高熱で数日寝込んでいたからだ。そしてそれは(絶対の秘密だが)ヒロインが狙われたせいなのだ。
転生前の記憶が確かなら多分ゲームのシナリオは後半まで進んでいて、“王子”の好感度がかなり上がっている時に発生するイベント『王子とヒロインのお忍び街中デート』が成立していた。そしてそのデート中にヒロインを狙った矢が裏路地から飛んで来るのだ。“王子”はそれを庇い、自らが傷を負う。
矢に毒が塗られていたか、破傷風かは知らないけれど“王子”は高熱を出して寝込むのだ。
そして私はその高熱でうなされる中、“私”の記憶を取り戻したのだった。
そりゃ目覚めたら大パニックだったわよ。でも支離滅裂に色んな事を言う私を、周りの人間は皆「まだ熱がある、夢と現実の境もついていない」と判断してくれた。これはかなり幸運だった。
今思えば、周りに「王子がとち狂った!?」と思われてもおかしくない言動だったもんね。
で、一昨日昨日と色々考えを整理したり、あちこちに手を回して調べたりして、今日なんとか王立学院に来ることができた。だけどまだまだ気を抜くと素の“私”が出てしまう。
そしてエレーヌの前でガッツリ素を出したのを先程「はしたない」と散々罵られ、そこに呼んでもいない(しかし確かゲーム的には中庭で出会えるフラグを持っている)ヒロインが飛び出してきてエレーヌをディスったのだ。
ここで“王子”が怪我の事を口にしたら、二人は当然の反応を見せたという訳。
「クリス様、本当にごめんなさい。クリス様がもしも居なくなったら……私、生きていけない……」
手を握り続け、うるうるの瞳で震えながら見つめるヒロイン。しかし流石に涙までは出せないようだ。
こっちは彼女の考えがばっちりハッキリと透けて見えているんだけど、そうじゃなくてもわかるわ。小中高大学の通算10年間、ずーっとカーストの最下層か下から二番目に存在し、女の嫌な面を見続けてきた喪女を舐めんなよ。
この女は地雷! 女には見えてるけど何故か男には超ステルス性能を発揮するタイプの地雷!
顔のかわいさを余すこと無く利用して男や権力を持つ者に媚び、自分以外の女は遠回しに貶める、めっちゃ嫌なやつ! クラスのカースト上位でも居たよこういうクソ女!!
まったく、なんでゲームの制作側はこんな地雷女をヒロインにしたのか……あ、男爵令嬢の身分で婚約者のいる王子に突撃なんて普通はしない。そんな残念な頭と性格じゃ地雷女も無理もないか。
「殿下! お加減は?」
従者の一人が青い顔をして息を切らし走ってきた。コイツは良い奴だなぁ。知ってたけど。
「ああ、大丈夫だ。休んだら少し落ち着いた。心配をかけたな」
私は従者に声をかける。その遥か後ろからエレーヌが珍しく走ってくるのが見えた。
……でも遅い。めっちゃ遅い。ドン臭すぎて【ツンとすました美貌の悪役令嬢】のイメージ台無し。
……うん、仕方ないね。この世界で貴族令嬢が走るなんて多分そう無い事だから慣れていないんだろう。それでなくても走る度に胸がぽい~んぽい~んと揺れて邪魔をする。あれ痛くない? クーパー靭帯伸びちゃわない? 誰か彼女にスポーツブラを用意してあげて! 見てるこっちがヒヤヒヤするんだけど!
「でっ……殿下……大丈夫です……かっ?……今、医師を……手配……致しました」
ゼェハァしながらそう言ったエレーヌは、ヒロインががっちりと私の手を握っているのを見て即座に後悔と怒りが湧き上り、そしてやっぱり怒りの感情を選択したらしい。
「なっ……何を……なさっているの! 殿下の婚約者である私を差し置いて、殿下の傍に侍って手を握るだなんて! ……なんて図々しいのでしょう!!」
「エレーヌ様がクリス様を放っておいて勝手にあっちへ行ったんじゃないですかぁ! 私はその間、クリス様が心配で心配で、おそばにいただけですものっ」
私はこの瞬間、これがイベントだと気づいた。そうだ。“王子”が病床から復帰した後に王立学院の中庭でヒロインと出会うと、イベントのフラグが立つんだった。そのイベントとは……
「私が殿下を放っておくわけないでしょう!! 先程から私を貶めるような事ばかり言って……許せない!」
「きゃああっ、嫌ぁ~」
「エレーヌ、だめっ!」
激昂してヒロインに手を上げようとするエレーヌ。私は慌てて二人の間に割り込む。うっかり素の言葉が出ちゃったけど、わりとドン臭いエレーヌが相手だったのと一応王子としてひと通り鍛えてきた身体だから、彼女の振り上げた手を咄嗟に掴むことができた。
「!!」
真っ青になるエレーヌ。
そう。これがイベント『悪役令嬢に叩かれそうになるヒロインを王子が救う』シーンだ。
“クリストフ王子”はメイン攻略対象だけあって、このシーンのスチルはめちゃくちゃ気合いが入った神作画だった。初見の時は「クリス王子カッコいいー!」と大興奮したもの。
……ゲームをやりこむ内に、このスチルを見る心境は全く別の物に変わったんだけどね。
「クリス様ぁ~♪」
さっきまで嘘泣きをしていたヒロインが、自分が守られた事に感極まって目をキラキラさせて見つめてくる。これは完全に王子ルートに来そうな感じ。
だがしかし、そんなのはノーサンキューなのだ。
私は彼女に向かって完璧な王子スマイルをキメながら言い放った。
「君はもう下がってくれないかな。君が居るとエレーヌが勘違いをして困るから」
「「「……えっ!?」」」
ヒロインも、エレーヌも、従者ですら声を揃えて驚きを口にした。
この忠臣の見本みたいな従者にも驚かれるくらい、“王子”はつい先日までヒロインにメロメロだったんだねぇ。まぁ私の中にあるクリストフ王子の記憶も、実際メロメロどころかデロッデロだったから無理もない。
でも私の記憶と意志がある以上、ここは私の好きにさせて貰おうと思う。こんな地雷女より“推し”の方が良いに決まってる!
その地雷女は顔をピクピクとひきつらせ、一瞬考えた後に今の話は無かったことにしようとした。
「クリス様? 今なにか言いましたか?……」
「聞こえなかった? 私はエレーヌと二人で居たいから、君は邪魔者だと言ったんだけど」
「「「 !!! 」」」
ふふふ。わかってたけど私って性格悪いなぁ。今の状況がめっちゃ面白い。今度は全員口を開けっ放しだよ。
エレーヌと従者は目の前で何が起きているのかわからないといった体でポカンとしてるし、地雷女は金魚みたいにパクパクしてる。あ、金魚が喋った。今度は本当に泣いてる。
「……ウソぉ! クリス様と私はデートもした仲じゃないですかぁ!!」
「デート? 何の事? 私がこの数日寝込んでいる間に君は勝手に夢でも見たのかな?」
キラキラの王子スマイルで圧を込めてそう言うと、従者もハッとしてヒロインを睨む。彼女はそれでお忍びデートの事は……しかも、男爵令嬢が王子に怪我をさせて生死の境を彷徨わせたのは、絶対の秘密だと言い含められていたのを初めて思い出したらしい。
当たり前だろーが! 幾ら王子も迂闊だったとはいえ、結果を見れば一発で男爵家もろとも処罰が下る出来事でしょうよ。
「……そ、そうですね。私きっと、クリス様をお慕いする気持ちが募りすぎて、毎晩夢を見ていたのですわ……」
ぷるぷると震えながらも、上目遣いで小動物的かわいさアピールは忘れないヒロイン。いやー、あざとい。誠にあざとい。
男ってなんでこんな分かりやすいあざとさに弱いの!? 老若男女全方位にあざとくしているならまだしも、エレーヌの事はしっかりディスってる落差があるし!
喪女の立場からその落差を見たらクソ女を思い出してゲロ吐きそうなんだけど!
「そうか。まあ夢で見るのは勝手だが、今後実際に私には近づかないでくれ」
「えっ!? どうして……」
「もう充分エレーヌを嫉妬させたからだよ。今まで素直じゃなかった彼女がこうしてやっと『殿下を放っておくわけがない』って言ってくれた事だし」
「!!」
きっと『ぎゃふん』ってこういうのだよね。ヒロインの顔!
勝手に昔のクソ女への恨みも重ねちゃったのは悪いけど、でも地雷を切り捨ててやったのはめちゃくちゃ気持ちいい。超~~~~気・持・ち・い・い~~~~ッ!!!
「クリス様! ヒドいぃ……どうしてぇ」
「あ、今から玉の輿を狙うなら婚約者の居ない相手を探すんだね。堅物の騎士あたりが狙い目かな? 君は用もないのにわざと訓練場に行った事があるだろう。あの時仲良くなった騎士にもう一度近づけば良いんだよ」
「!! ……クリス様!! 待って、あの人は違うの……!!」
真っ青になって何かわめいてるヒロインを従者が半ば引きずるように連れていく。
一方、私に手を掴まれたままのエレーヌは顔を真っ赤にして、私を不思議そうに見上げている。
うわぁぁぁ可愛い。すっごい美人可愛い。
そんで下の方、お胸の辺りに気持ちが透けて見えている。
乙女ゲームを進めると選択肢を選ぶウインドウが出てくる事があるでしょ。あれが裏側から半透明で透けて見えているのだ。
私が高熱から目覚めて転生者だと気づいた途端、周りの人間全員にそれが浮かんでるもんだからビックリしたのなんの。
でも他の人には当然見えていない。多分これは私が授かったスキルなんだろう。
今彼女のウインドウには3つの選択肢が浮かんでいる。裏側から見てるから鏡文字なんだけど、ここ数日で慣れたからするする読める。
・「どうしよー!『嬉しいです。私もずっと殿下をお慕いしていました』って言う? 言っちゃう?」
・「落ち着いて!ここはいつも通り『手を離して! 何を考えてますの?』って言うべき!」
・「ちょっと、殿下ったらどこを見てるの! いやらしい!(ホントは嫌じゃないけど) もう一度『はしたない』って怒らないと王子として周りに示しがつかないわ!」
エレーヌはどれを選ぶのか迷ってる。さっきからカーソルがピコピコ上下してるよ。
はーい! 来ました!来ました! 推しのエレーヌちゃんの中で、ツンとデレがせめぎあってますよ!
全国一億人のエレーヌ様ファンの同志! 見てる~~~~!?!?
そう。転生前の私の“推し”、それは目の前のエレーヌなのだ!
このゲームを最初にプレイした時は、他の乙女ゲームと何ら変わらないイケメンまみれの恋愛シミュレーションゲームだと思ってた。
初見はメインの攻略対象であるクリストフ王子のルートを攻めて、見事成功しエンディングを迎えた。
エンディングで、以前お忍びデート中のヒロインを矢で狙ったのはエレーヌに雇われた傭兵の仕業と判明してエレーヌは断罪、婚約破棄。更に彼女の家はお取り潰しになった。
ヒロインは王子と結ばれてハッピーエンド。それを見て「エレーヌは分かりやすい悪役令嬢だな」なんて思ってた。
違和感を覚えたのは三周目のプレイ中だった。
王子以外の攻略対象の好感度をあげていたら、なんとそのキャラとお忍び街中デートをする事になったのだ。そして結局ヒロインは矢で狙われ、庇った攻略対象が怪我をして寝込む。
勿論、エレーヌはまったくの無関係なので出てこない。エンディングも矢の事はオールスルーで犯人は判らずじまいなのだ。
その時の私はシナリオの使いまわしにゲンナリするよりも「全部で7人居る攻略対象の内、何人が矢で苦しむんだろう?」という疑問で頭がいっぱいになってしまった。
結局全ルートプレイして、7人中6人が街中デートに誘い、内2人の脳筋騎士キャラと暗殺者キャラが矢を叩き落として無傷。残り4人が矢を受けて生死の境を彷徨う……というなかなかに血生臭い結果に終わった。
で、その頃SNSにこんな投稿があったのだ。
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やっぱりエレーヌ様はツンデレだった!
#エレーヌ推し #エレーヌきゃわわ
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この文面と共にアップされていた画像が、エレーヌがほんの少しはにかみながら「べっ、別に貴女の心配なんてしていないけど、ちょっと聞いてみただけですわ!」と言っている姿。
いつも怒っているか、冷たい目で見てくるエレーヌしか知らなかった私は……いや、同じゲームをやり込んでいた私以外のユーザーも、見たことのないエレーヌの画面に食いついた。「コラだろ」「絵のうまい人の二次創作?」というリプがついてプチバズった。
そしてこの投稿者の情報を信じて試してみたら本当だった。コラじゃなかった。
エレーヌの従兄弟を攻略(彼も矢で苦しむ)しつつ、エレーヌと王子の仲を応援したり自分の恋の相談なんかをしたりして、隠しパラメーターであるエレーヌの好感度をあげまくる事のみに集中するとマジで彼女がちょっとだけデレてくれるのだ。なんだその隠し要素。条件キッツい。
もともとこのゲームの作画が超美麗だった事もあり、エレーヌはとんでもない美人である。
そこに【攻略対象よりも、ある意味難易度の高いキャラ】という隠し要素を知ってしまったせいで、プレイヤー達の中でエレーヌの人気はうなぎ登りになった。私もエレーヌに推し変したうちのひとりである。
「よくよく見たらエレーヌ様は言い方はキツイけど正しいことしか言ってない」
「王子に厳しくあたるのも、婚約者の役目と思って苦言を呈してるだけだよね。あれでツンデレなんだから愛が不器用すぎる」
「マジメな彼女がゴロつきの傭兵を雇うイメージが湧かない。エレーヌちゃんハメられてない? だとしたら犯人許さん!」
「エレーヌ様おせっかいだし巨乳だしで母性が強そう。ママみある」
「( ゜∀゜)o彡゜おっ●い!おっ●い! ママンヌ!ママンヌ!」
「ママンヌ様! わたくしめも叱ってください!」
……等々の意見がネットに溢れ、エレーヌの二次創作も沢山作られた。特にツンデレのエレーヌが王子にキツくあたった後、物陰で「またやっちゃった……私の馬鹿ぁ……」って落ち込んでる奴は萌えた。超萌えた。
私にとって王子✕エレ様ジャンルは神。エレーヌルートこそ真の道になったのだ。
だから! 私がクリストフ王子に転生したならば! 当然真の道をゆかねばならぬのよ! オタとして! エレーヌ様推しとしてッ!!!
……まぁ、ほぼ“私”の意志で動いているといっても、17年間生きてきた“王子”の……男の記憶もしっかりあるわけで。
なんというか、その。男としては……うん。真っ赤になって本当に泣きそうなエレーヌ(ヒロインの嘘泣きとは全然違う)を間近で見てるとこう……萌えじゃなくゾクゾクっとするモノを感じるんだね。
つまり、オタだから、推しだからって言うのだけが理由じゃないんだけども。
私は王子スマイルを崩さないように必死に表情筋を固め、ニヤニヤ笑いを堪えた。今崩したら絶っっっ対にエレーヌはデレてくれないから。
カーソルはまだピコピコしてるけど、一番上の選択肢に止まる時間が長くなってきた。
……そして、彼女の薔薇のような唇から綺麗なアルトの声で言葉が紡がれる。
ああ、可愛い。丸ごと食べてしまいたい。
そう思ってエレーヌを抱き寄せたのは“私”の意志か、はたまた“王子”の意志なのか。
まあどっちでも良いや。どっちだって間違いなくハッピーエンドだから。
この後、キスをしようしとした王子を「こんなところではしたない!」とエレーヌが怖い顔で叱り付け、王子が思わず正座して反省する姿を学院の生徒や職員に目撃されます。
数年後、ここは次代の国王が王妃に罵られた「はしたない中庭」という不名誉な名前の恋愛スポットとなるのでした。
~★~★~★~
お読み頂き、ありがとうございました!
※2023/1/24追記。
みこと。様(https://mypage.syosetu.com/1778570/)より、エレーヌのファンアートを頂きました!
可愛い!まさにゲームの中で「べっ、別に貴女の心配なんてしていないけど、ちょっと聞いてみただけですわ!」って言ってる画面ぽい!
私も以前、表紙絵風イラストを描いてます。↓のランキングタグ設定(広告の更に下)に入れていますので、もしよろしければ見てくださいね。