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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

TSっ娘結婚ルートRTA

作者: ゴン之助

なお、最初から堕ちているものとする。

「おはよう!」


 今日も今日とて虚しく己へ挨拶!


 イエス、グッジョブ!


 そしてツバメのようなすばやさで喉へ手を当てた。喉に違和感があったのだ!


「あ、あー」


 ガビンと僕に天からの稲妻が落ちた! 声が高くなっている!

 そして僕のこの悪しき手は無意識に股間に伸びていた!


 発情したわけでは断じてない。ボッキーン名状しがたいそれが元気にこんにちはしていることはたまにあるが、僕は朝に致すタイプではない!


 そして股間を素早く触る。うん、ない!


「来たぁ!」


 ついに来た! 小さい頃からサンタさんに手紙を出したり、初詣で祈ったりしても叶わなかった悲願!


 その名をTS!


 うおおおおおおおお!!!


 素早く胸を触ると、少しついているかどうかのフニャリと柔らかい感触。


 これはおっぱい! これがおっぱい!


 勢いのまま飛び上がり、僕はベッドから無様に転がりながら部屋を出る。

 そして姿勢を低くし走って、階段から飛び降りる!


 オーマイガー! これは想定外!


 どうやら身長も少し低くなっているらしい! そして体のブレーキもゆるゆる!


 つまりこれは体の感覚の変化に適応できなかった僕の愚かさが起こした、救いような無い人生の終わりへの第一歩!


 まずい、頭を打って記憶喪失にでもなったら僕以外の誰かが新しく生まれて人生を謳歌しちまう!


 だが、大丈夫。


 僕は頭を手で守り、体感十回転しながら地面に着地!


 くそ痛い!!


 ジンジンと骨の奥底から来るような痛みに、少し擦りむけた膝。悲鳴はグッと堪えて、生まれたての幼虫のように体を引き摺って鏡のある洗面所へ向かう。


 そう、顔の確認!


 TSに置いて最も重要なそれだろう!


 僕的には美少女に変化していてもいいが、親や友達への証明が面倒だから中性的な僕の顔のままでいて欲しい!


 そして叶った。


 僕の中性的だった顔は輪郭がさらに女性っぽくなって、ただ優しそうな顔は少しクールな雰囲気にも変わっていた。


 うんうん。悪くない。


 さて、次に親友と会う、という中々チンパンジーからしたら難易度の高い任務だが、これについては既に手を打っている。


 僕は生まれた時からの親友と同じ高校へ行き、大学へ行った。

 そしていつも家が近いから、という理由で一緒に通っている! というか近いところへ一緒に相談して行った! もうこれはラブラブと言っても過言じゃない気がするね!!


 そして今日はなんとベリー遅刻! というか寝坊!


 あと十分で親友の圭馬君が我がマイホームへ到達してしまう!


 よーし、ということで急いで朝食の支度!

 朝食を取らないという選択肢は無い! そんな非健康的な生活、僕には無理だ!


 昨日のうちにタイマーセットしてとっくのとうに炊けているご飯をオープンして、冷蔵庫から納豆を取り出す。

 その間にここは妥協点としてのレトルトスープを作るためのお湯を沸かす!


 T・ファールットリンゲンというドイツの地名のようなお湯沸かし器へ水をザバー!

 都会へ来て理解したが、水がくそ不味すぎる!


 H2O以外の何かが入っているとしか思えない!


 そしてホカホカのご飯を茶碗に盛って、納豆をかき混ぜる!


 ここでポイントなのが、タレを入れる前にしっかりとかき混ぜること! これをしないとめちゃくちゃまずいね!


 そして納豆をかき混ぜ始めたところでお湯沸かし器が口からブレスを吐いて自己主張をし始めた。

 仕方ないなあ!


 おいすい吸い物の素という少々滑舌が残念な気もするレトルトをお湯であとも残らないほど蹂躙した。

 へへ、この後は体内でドロドロに溶かしてその尊厳を無くしてやるぜ。お前は耐えられるかな?


 時計をチラ見して、まずい、時間が無い!


「いただきまーす!」


 これは食事という儀式の直前に行う詠唱を今のうちに唱えておくことにより、それを行う際にいただきます詠唱を省略するという僕しか使えない特殊技!


 手においすい吸い物を持って運びながら、ハシを忘れていたことに気づき後ろを振り向く。


 すると――


「よう」

「ひゃいっ!」


 僕の親友の圭馬君が立っているではないか! 思わず悪霊を退治する塩的感覚でお吸い物をぶっかけてしまった!


「どどど、どうしましたか!」


 身長190cm、男性ホルモンムンムンで気持ち悪い親友は僕をギロリと睨みつけてきた。

 ドキドキする。


 考えるのは脳だけど、なんで何かを感じた時に痛むのは心臓なんだろう?


 その目で見られただけで僕の心臓は完全に支配された。


 そして圭馬は一言、ゆったりと口を開く。


「――あいつに妹なんていたか?」


 その一言でもうダメになった。

 僕の人生が崩れていくような感覚を覚えた。夢で、空から落ちているのを感じている。そんな感覚だ。


 どこから来てるのか分かりようのない不安が僕を包んで、そしてこれは終わりのない永遠とも。


 ただ、これは不安、ではない。圭馬に僕だと気づかれていない不安ではない。

 嬉しいんだ。僕が変わっていることにすぐ気付いてもらえて、嬉しい。嬉しくて、なのに何故か僕の人生が雑に丸められて、無価値なものだとゴミ箱に吐き捨てられるような感覚。


 人間の感覚って不思議だなあ。


 腰が砕けそうだ。


 言葉を選べ、一言発する。


 ――言葉が駆けた。


 僕から発声したわけではない。言葉が口から無意識、脳が止める暇も無く飛び出して行ったんだ。


「僕、あのね、……女の子に、なってた。理由は分からない。気づいたら」

「……そうか」


 少し疑っている目。


 それはそうだろう。だって、そんなことあるわけないじゃないか。


 もしかして、僕はさっきまでおぼろげで空虚な夢でも見ていたんじゃないか? そっちの方が信じられる。


「深くは後で聞こう。だが、それより」


 僕をヒョイと持ち上げた。なんだろう?


「膝、痛いだろう。手当をしよう」

「〜〜っ!」


 圭馬は僕のケガをした膝を手当してくれるというのだ。

 ばーか、イケメンぶりやがって。そして顔もまあ野性味のあるイケメンだからいつ女ができるのかと僕はいつもヒヤヒヤして……


 って、いやいや。なんで、なんで。僕は確かにTSしたかった。それは事実だ。


 ただ、単純に女の子になりたかっただけで、元は男なんだし、きっと圭馬もそんな僕を気持ち悪いと思うだろう。恋愛なんてさらにさらに対象外。


 そう考えたら、ものすごく心が締め付けられた。


 あれ、それじゃあ、僕って桂馬のことを好き? 友情とかの好きじゃなくて、異性に抱く方の好き、を――


「はっ、離せぇ!」


 キモイキモイ気持ち悪い! 一気に吐き気が喉元まで津波のように押し寄せてきた。

 驚いて拘束が緩んだ桂馬の手を、退けて。


 僕は洗面所へ走った。


 あれが、いつものアレが!


「あ、あった」


 医者から出されてる落ち着ける薬。薬に頼るしかない。でも、薬を飲むのは好きじゃない。


 薬を飲んだ時や、効果がある時はいいんだ。効果が切れた後の、自分は薬ごときに頼っているんだ、と自覚させられるのが大っ嫌い。


 それに、効果は感情が押さえつけられて、一時的に身を潜める。薬の効果はそれだけだ。


「伊織、なんだな? ほれ、いつもの水だ」

「……」


 無理矢理奪い取って、薬と飲み込む。

 しくったな、吐いてから飲めばよかった。薬がもったいないから吐き気を我慢しなきゃいけない。


「……ふぅ。取り乱してごめん。それで?」

「大学へ一緒に向かおうという話だが……今日はいいだろう」

「だ、ダメでしょ! 僕は落ち着いたら行くから、圭馬は今すぐ行った方がいいって!」


 本音としてはもうちょっと落ち着くまで一緒にいて欲しい。でも、僕のわがままには付き合わせられない。

 圭馬は圭馬の人生で、僕も僕の人生。きっといつかは別々の道を歩んでいく。


「ッ……」

「大丈夫だ。俺はいる。少し、目を閉じろ」


 ズキズキと頭でこれ以上考えるな、と警鐘が鳴る。

 頭痛は嫌いだけど、そっちに意識が向くから自然と不都合なことも忘れられる。


 目を閉じて、ドカッと洗面所の床に座った圭馬の体を預ける。


「あー、その。女になった、というのは本当か」

「……うん。僕に妹はいないし。知ってるでしょ?」

「もちろん。こんなことを言うのも野暮だが、一応証明できるものは?」


 うーん、そうだなあ。

 やっぱり、僕と圭馬の隠された幼少期だよね、話すなら。


「小学校の頃、男のブツを丸出しにして二段ベッドから一緒に飛び降りたりしてた」


 圭馬が咳き込む。ふふ、いいね。


「ああ、幼稚園の時は同じぐらいの背だったね。よく背比べしてた」

「そうだな」

「後、公園で野球をした時に明らかに僕の球がストライクなのに頑なにボールって言い張ってた」

「いや、それは明らかにボールだからボールと言ったんだけだ」


 頑なだなあ。そういえば、その時圭馬はバットも振っていたような?

 ……いや、それは記憶の捏造かな?


 その後大喧嘩したんだよね。懐かしいなあ。


「よし。わかった。お前は確かに伊織なんだな」

「うん」

「目を開いてくれ」


 ちょっと薬が効いてきて重たくなったまぶたを開くと、そこには紙があった。


 いや、ただの紙ではない。それもいわゆる――婚姻届と呼ばれているやつだ。


 圭馬がこんなのを持っているのはおかしい。


 つまり僕がひっそりと圭馬の印を貰うだけで出せるようにしていたあの婚姻届!?

 眠気が吹っ飛んで、血流の速さが僕の焦りを象徴している!


 おかしい。バレないように僕の学習机の鍵付きロッカーにひっそりと月に届くぐらいたたんでしまっていたはずじゃ!?

 それに馬鹿野郎、まず勝手に友人の机を漁るやつがあるか!


「こっ、これは?」


 声が上擦った。そういえばニワトリはコーコケコじゃなくてコーケッコーコが適切だよなとか、よく分からない考えが脳ミソをよぎっていく。


「婚姻届だ」

「な、なんでそれを」

「お前と結婚するためだ」


 そこまで聞いて若干の違和感を覚えた。

 圭馬は僕と結婚したい? まるで僕がラクガキしていた婚姻届とは別物というか、知らないもののような言い方じゃないか。


「ちょ、ちょっと見せて!」


 無理やり奪い取って、でも破かないように、少しでも傷つかないように気をつける。


 そして、頭蓋の後頭部を鈍器で殴られた。気がした。


「なんだこれ……後、僕が印を押すだけじゃないか!」

「すまん。書きたかったか?」

「そんなのどうでもいいよ!」


 あれ、じゃあ、これは僕のじゃない? 圭馬が自分で持ってきたやつ?

 僕と結婚する? 女になったから?

 でも、僕が女の子になったのは今日だから――


 そこで、恐ろしい事実に気づいてしまった。


「圭馬、ホモだったの!?」

「どうしてそうなる」

「じゃ、じゃあ、女の子になっちゃった僕はもう興味が無い!? 捨てられる!?」


 なんてこった! 致命的なすれ違いが発生していた!

 僕は圭馬と結婚したくて女の子になりたかったのに、圭馬は男が好きなホモだったのだ!!


 混乱してアワアワしていると、圭馬に強く抱きしめられた。

 そして、ものすごい低音の声で言う。


「俺は、男だとか女だとかはどうでもいい。お前の、お前が好きなんだ」

「は、はぁ!?」


 じゃあ、両想いじゃねーか! しかも男もいけるんだったら何のために初詣の時に一万円投げて女の子になれますように、なんて祈ってたんだ!

 バカだー!!


「で、でも、女の子になったのは今日知ったんでしょ」

「おう」

「男のままだったら、どうしてたの」

「同じだ」

「ど、同性婚ってこと? でも憲法的にアウトなんじゃ」


 圭馬はふむ、と頷いて僕を呆れた目で睨みつけてきた。

 な、なんだよ。


「いつの時代の話だ。今は2030年だ。シビル・パートナーシップ……CP法で同性婚が認められたニュースを見なかったのか?」

「あ、見た、かな」

「憲法は解釈の違い。同性婚しか認められていないようにも読み取れるが、それはあまり表立っていない時代に作られたものだ。そもそも同性婚を認めないのは憲法の理念の一つである平等に反する。ゆえに同性婚も一種の『新しい人権』として――」


 ベラベラ語る圭馬の言葉は、全く入ってこなかった。

 まず同性婚とかあんま興味もなかったし、僕の頭は四六時中TS一色だったからね。


 ……いやいや。でも、結婚?


 冷静に考えて僕は大学生だし、あまりにも早すぎる。


「大学生だよ? 結婚なんて……」

「いつも思っていた。お前は、何かこの世に繋ぎ止めるものが無いとすぐ消えてしまいそうな儚さがあると」

「じゃ、じゃあ、せめて付き合うとか、間をおいてさ!」

「俺が我慢できない」

「僕以外の魅力的な人が見つかるかもしれないじゃん!」

「少なくとも、今まで生きてきてそんなことはなかったな」

「じゃ、いつから好きだったのさ! 言ってみてよ!!」


 これで生まれた時から、とか、ずっと、とかいう陳腐な言葉を吐くようだったら僕は逃げる。

 走って逃げる。互いの頭が冷静になるまで、一ヶ月でも一年でも逃げる。


「高校の初めの年だ。お前が事故で入院をした時に、自覚した」

「なっ……!」


 絶句、というか、唖然とした。僕と、全く一緒じゃないか。

 幸い後遺症が全く残らなかったそれだけど、毎日学校終わりに来てくれるのが嬉しくて、キュンとした記憶がある。鮮明に。


 でも、僕が圭馬のことを好きに思っていることで悩んだり、最終的には薬に頼るようになったのに平然としている圭馬に嫉妬も覚える。


 でも、それが少し圭馬っぽいなあ。


 ちょっとづつ顔に血が上って行くのを感じて、僕は自分の頭をひっぱたいた。ちょっと嫉妬したと思ったらすぐ色ボケしてしまう僕の頭が憎い。


「それで、返事は」


 少し詰まる。本音を言えば、今すぐにでもハイと答えたいけど、僕は先見の明があるタイプの人間なんだ。

 こんなところで欲望に負けてられない。


 大丈夫、チャンスはいつでもある。今は焦らなくていい。


 だから、苦しいけど、断る。そうだ、断るんだ。


 口を開く。


「――はい」


 オーマイガー!!


 なんてことを言っちまったんだ僕は!!


 フラれて子犬のような顔をする圭馬を想像したらイエスって答えちゃったよ!!


 圭馬は息を大きく吸い、吐いた。


「――良かった。じゃあ、まず俺は独占欲が強いからな。せっかく女の子になったんだ。物理的な証拠を残しておきたい」


 そして僕を押し倒してくる。


「え、ちょ、そ、それって――」


 僕はもしかしたら選択を誤ったのかもしれない。


 ……でもまあ、いっか。


 だってほら、今、多分人生で一番の満足感を得てるし。


 えへへ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自らTSしたくてやっと念願のTSができて幸せになる主人公は本当にいい人生ですね。 望ましくない原因でTSしてしぶしぶメス堕ちしていくTS娘の方が圧倒的に多いから。
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