疑問
面談室から出た後、海斗は一人廊下を歩きながら先程教師と話していたことを思い返していた。
教師は海斗に不正を行う生徒の取り締まりを頼んだ。
海斗以外にも各クラスから実力があるものに頼んであるとは言っていたが、海斗のクラスからは海斗一人が選ばれている。
この事に海斗は少し疑問を持っていた。
「先生の話からして実力のあるものならば誰でも良いわけではないことはわかったけど、僕一人だけに頼むと言うことが謎だね。」
冷静な判断能力実力があり尚且つ教師の依頼を叶えることが出来るものは他にもいるのではないか、そう疑問に思うのだった。
だが、疑問に思うだけでそれを実行することに海斗自身抵抗は全くなかった。
自分の実力があることは海斗自身がよく分かっている、今はただそれだけで良いのだと思っている。
「さてと、色々と準備をしないといけないな。先生に言われたことと求められていることを同時に解決しないといけないんだから。」
目の前から少し早歩きで海斗に近づく人影を見た。
一瞬眼を凝らす動作をした海斗は直ぐに誰が近づいてくるのか分かりその足を止め、自分の近くに来る人物を待つのだった。
「海斗さん!大丈夫でしたか!?」
「やあ朱音。別に何も異常は無いよ。」
海斗に近づいてきたのは朱音だった。
海斗が面談室に向かった後心配になったのか追いかけて来たのだろう。
海斗の前まで来た朱音は少し荒れた息を整え話しかけた。
「海斗さん、先生に何か言われたんですか?まさか……学校をやめらせられるとか……。」
「大丈夫だよ朱音。少し世間話と試験頑張れよって労いの言葉を貰っただけだから。」
「そう……ですか。」
朱音は海斗が言った言葉に少し疑問を持った。
海斗が放った言葉には嘘が紛れているとそう聞こえたからである。
だが彼女は海斗の嘘を追求することをしなかった。
それは彼女がまだ確信を得ていないからであるが一番の理由は、海斗を信じているからなのだろう。
「海斗さん。何かありましたら必ず言ってくださいね。私はいつでも海斗さんの味方ですから。」
「……フフ、まるでこの後に何かが起こるような言い方だね。」
朱音の言葉に海斗は少し笑いながら朱音の頭を優しく撫でた。
朱音は撫でられたことに驚いたが直ぐに眼を細め、その手を受け入れた。
「心配しなくても大丈夫たがら。もしも何かあって僕一人で解決できないことがあったらその時は朱音に手伝って貰うようにするね。」
「……………約束ですよ。」
「うん、約束するよ。」
そう言いお互いに笑い合い海斗は撫でていた手を下ろし、廊下を歩き始めた。
朱音も海斗についていくように歩き始める。
二人の間には少しの隙間があり、手を伸ばせば届く距離ではあるがそれでも朱音は海斗の隣を歩くことはしなかった。
海斗も朱音が追い付けるように歩幅を狭めることをせず、ただただ前を見て歩くのだった。
それはまるでお互いの顔を見るようなことをしないようにするかのように。