依頼
教師と一緒に教室を出た海斗は廊下を歩きながら考えていた。
自分が呼ばれた理由は何となくであるがわかっているが、それだけのためにまだ授業中に呼び出して教室を出ることなどしないだろう。
海斗が一人で考えていると教師は海斗に呼び掛け、面談室と書かれた教室に入った。
「すまないな。急に呼び出して。」
「大丈夫ですよ。それより呼び出した件は今回の進級試験の件で宜しかったでしょうか?」
海斗の問いに教師は少し顔をしかめながら話始めた。
「話が早くて助かる。今回全教師陣から不正者が出ないように監視役をつけることに職員会議で決まってな。それで藤宮お前の名前が上げられた。引き受けてくれるか?」
「いいですよ。呼ばれたときになんとなく予想はしていましたから。」
海斗はあまり気にしていないように引き受けた。ただ海斗自信もまだ気になっていることがあった。
「ただ、質問よろしいでしょうか。」
「構わんぞ。」
「ありがとうございます。自分が選ばれることは今回呼ばれたのでなんとなくですがわかってはいたんですが、他にも人材はいたのでないですか。」
海斗は呼ばれた時点では試験のことだと思っていたがそれでも自分より他の生徒が良いのではないかと疑問に思うのだった。
「確かに人望がある生徒がやることが一番いいことだと思うだろう。だが今回の件に関してはそう言うわけにはいかないんでな。」
教師は真剣な顔をして海斗を見た。
海斗には教師のその眼は強い期待とそれ以上の確信が見えた。
「人望だけで判断して実力のないものを派遣するよりも、どんなときにも冷静な判断をしその上で実力があるものに頼んだ方が一番だ。だからお前が一分の適任だ。」
教師の強い意思を聞き海斗は少しため息をついた。
自分に強い信頼をしてくれる教師には少しばかり感謝があったがそれ以上にプレッシャーをかけられた気分だったからだ。
「なに、お前以外にも各クラスから実力があるものに声をかけている。お前は自分のクラスだけを気にしていればいいだけだ。」
「…はぁー、わかりました。先生の期待とそれ以上の結果が出せるようには努力しますよ。」
そう話した後海斗は立ち上がり扉の前まで移動した。
「もう戻っても大丈夫でしょうか。」
「ああ。では頼んだぞ。」
教師の一言を聞き海斗は面談室から出て行った。
その姿を見た後教師は背もたれに深くかけため息をつく。
「ふん、やはり彼奴に頼んで正解だな。こちらの意図を正確に感づいてその上で協力するやつは彼奴ぐらいなものだろう。」
教師は海斗の最後にはなった言葉を思いだしながら一人微笑むのだった。
ただその微笑みを見た半数以上のものは不気味で怖いと思うだろうが、そんな事を気にせず教師はただ微笑みを続ける。
自分のかけた期待を海斗なら正確にやり遂げるだろうと思い浮かべながら。