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プロローグ 真紅の騎士
一人の青年が私に牙を剥く。
短刀を振りかざし、迷いなく、私の胸元へ。
造作もない。
所詮は付け焼き刃の剣技でしかないその所作は避けるに容易く、受けるに値しない。
半身身を引きその勢いのまま叩きつける。
これで肩が付くだろう。
だが彼は、そうなる事を予感していたのだろう。
空を切った斬撃の勢いそのまま、私が反撃に移る前に身を翻し、私の顔面めがけて手のひらで殴打して見せた。
手の内には小さな麻袋が見えた。
それを押し付けられた私の鼻腔は微かな埃と麻の甘い香り、それと火薬の匂いに包まれた。
決死の抵抗か……。
諦めにも似た感情が湧き立つ。
私は人を殺し過ぎた……。
彼は火薬を握ってからマナを放ち炎上させた。
発せられる炎は瞬く間に朝を溶かし火薬にパチリと火花を散らす。
精々業を背負った分、苦痛に悶えて死のう。
私はそう思い、体の力を抜いた。
ペロペロペロ
火薬が爆ぜた轟音が耳をつんざく。
だが、私の身に襲うはずの痛みはそこにには無かった。