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守るための祈り


 愛くるしさと美しさをこれでもか!とばかりに詰め込んだご尊顔を持つ攻略対象者の一人が突然目の前に現れたときの坂巻明彦の気持ちを答えなさい。(配点10)


1、本物の攻略対象者のお顔眩しい!

2、やべえ…こいつのルートでオレ、モンスターを街に放って大虐殺起こしてるじゃん…

3、…なんかこいつキャラ違くね?


 答えは…そう、全部である!


 オレは今にも思考回路がショート寸前になりそうな頭を無理矢理動かして思い出す。


 あまりにクソofクソなゲームの中のアイリーンの行動を。

 ミスティルートのアイリーンはこの麗しくも愛らしいフェイスを持つ天使のような美少年に恋をする。ああ、愛しのミスティ様、どうして私に応えてくださらないの?と、恋に焦がれて焦がれまくって焦げ付いたアイリーンはミスティの気を引くために特S級の危険モンスターをどこからともなく連れてきて王立学園のある街に放ってしまうのだ!どうして!?何のために!?と聞きたいだろう。オレもそう思った。けれど実はこれにはちゃんとした理由がある。ミスティはその美少年フェイスからは想像が付かないほどの武闘派。戦うことが三度の飯より好きなのだ。だから、アイリーンはよかれと思って特S級モンスターを街に呼び寄せた…ミスティのサンドバッグとして。危険なモンスターを撃退すればミスティの名声も上がり、戦いもこなせて、しかも私に対する愛情も燃え上がっちゃう!と一石三鳥の作戦だったのだ。やだ、もう本当にアイリーンのお馬鹿!

 もちろんこんなザルな作戦が上手くいくはずもなく、連れてきたモンスターは街を蹂躙して多数の住民を虐殺していく。そんな中、モンスター退治に駆り出されたミスティとヒロイン、そして他の攻略対象者たちが協力してどうにかモンスターを退治するが、ミスティは大怪我を負ってしまう。そこでヒロインの力が目覚めラブが芽生えるイベントが発生するわけである。アイリーン?アイリーンはそんなラブイベントの後ろで雑に殺されている。自分が連れてきたモンスターによって。本当ただの阿呆である。


 オレはそこまで一瞬で思い出してギュンっと青ざめる。え、なに、オレ、ヘタ打つとモンスターにパックリ頂かれてしまうの?美少年フェイスを見て一瞬上がったテンションなんて一気に地下三十階に埋もれた。

 思わず青ざめて固まったオレに、オディットが気遣わしげに「アイリーン様」と声を掛けてくれるがオレは答えることができない。

 しかし、ミスティはそんな風に固まるオレをみて何を思ったのか、ぽんと手を叩いた。


「うん?…ああ!うっかりうっかり。"ていくつー"じゃ!…コホン。こんにちは、ボクの名前はミスティ・ノーグ。天翼族の長をしているよ。姫様に会えて嬉しいな」


 にっこり。そう完璧な笑みを湛えてそう言い直してくれたが、これはどう反応すべきなのか。確かにゲームの中のミスティはそんな口調だったけれど…。

 冷めた目で無言を貫くゼロセブンに、困惑するオレとオディットとついでにカガリ。

 気まずい沈黙が続く。が、それを破ったのはにっこり美少年スマイルを取っ払ったミスティだった。

 

「ほれみろ!なんじゃあ、この沈黙は!国のジジイ共は碌なこと言わん!なあにが『お前さんは顔だけは美しく愛らしいのだから、その見目に合った"きゃら作り"をすべきだ』だ!ええじゃろうが、口調なんてなんでも!のう姫!姫はそんなことで男子を否定するような狭量な方ではあるまい!」


 若干赤くなった顔を隠すようにそう喚き立て、白銀の翼をバッサバッサと揺らすミスティ。その様子にオレは強張った体が緩むのを感じた。ほっと息を吐いて、知らずうちに流れていた汗を拭う。

 ゼロセブンは舞った白い羽を邪魔そうに払いのけながら呆れた声を出した。


「というか、そんな小賢しい真似をしないと女の子一人口説き落とせない奴が長だなんて、天翼族はそれでいいのかい?」

「何をいうか!わしを知ればどんな女子(おなご)も喜んで嫁に来たがるに決まっておる!だというのに、あのジジイどもは…。ん?というかゼロセブンではないか!久しいのう!まさか、わしより先に姫に会いに来てるとはおもわなんだ。お前さん、この婚儀に消極的じゃったのに」

「…オレにも事情があったんだよ」


 呵々と笑うミスティに、ゼロセブンは冷たくそう言う。

 ゼロセブンが言った事情は、この前教えてくれた"次のゼロセブン"のことだろう。もしオレと合いそうになかったら、いち早くスクラップから逃げるために…ゼロセブンはきっと覚悟を決めてこの城にきたに違いない。否、もしかしたら応接間に来るまでに水洗トイレを見ていたのも実は覚悟を決めるための時間を稼いでいたのか。機人族の長も務め、大人っぽくしっかりとしているがゼロセブンはオレの体と同じ十四歳なのだ。そんな子どもに生きるか死ぬかを突きつけるなんて…ああ、この世界はあまりに惨い。

 思わず考え込むオレとは逆に、ミスティの朗々とした声は響き続ける。


「ま、かくいうわしもこの婚儀に積極的だったわけじゃないがの。城で大事に育てられた姫なんて言うからどんな箱入り娘かと思っとったが、これがなかなか面白そうな娘ではないか。人族の王家の魔法をそのように使うもの初めてみたぞ」

「えっ、これがどうなっているのかわかるのか!?」

「うむ、わかるとも」


 面白そうにいうミスティにオレは思わずそう飛びついてしまう。…そういえば自己紹介すらしてなかったな。オレは少しの気まずさを感じつつ居住まいを正した。


「挨拶が遅くなった。オレはアイリーン・シュトラ・ヴェールだ。…ミスティはこの魔法について何か知っているのか?」


 オレは期待を込めてそう聞く。ミスティは鷹揚に頷き、それからオレのまだ仄かに光る指をそっと手にとった。細いのにしっかり男の手とわかる。パッと見ても傷が多いのが気になるが、きっと修練の結果なのだろう。


「わしは王家の魔法について詳しくは知らん。じゃがの、この細い指に溢れるほどの力が集っているのはわかるぞ。…王家の魔法は祈りの力、ならばおぬしの祈りがここにあるのじゃろう」


 そっと慈しむようにオレの指を撫でるミスティ。その瞳にも慈愛の色が宿っており、オレは少しむず痒くなる。そうするうちに、ふとオレの指先から光が消える。ミスティはそれを惜しむように最後に一撫ですると、オレの指を離してくれた。


「…アイリーン様は何を祈られたのですか?」


 ミスティの話を考え込みながら聞いていたオディットがそう尋ねてくる。…これを答えるのは少し恥ずかしいな。オレは興味津々といった風にこっちを見ているゼロセブンの視線をどうにか無視しながら、小さく口を開いた。


「…ゼロセブンの傷が治りますように、って祈ってたのは本当だぞ。だけど、それ以外に…お前と、ゼロセブンを守れますように、って…そう祈った」

「姫様…」

「アイリーン様…」


 オレは少し照れながらそう言うと、ゼロセブンとオディットが思わずといった風にオレの名を呼んだ。オディットなんかは感極まったように、言葉を噛みしめている。そしてカガリはそんなオディットを汚物をみるかのような目でみていた。…カガリは一体なんでそんなにオディットを嫌っているのかね。イケメンで有能で性格だってどこにも問題がないように思えるのに。女心は難しい。

 ミスティはオレの言葉に然もありなん、と頷いた。


「天晴れじゃの。好いたものを守りたいと思う心は、どんなに美しいものか。きっと王家の魔法もその心に応えたのじゃろう。その魔法を使えばきっとおぬしは守る力を手に入れることができる。だがの、その力は何かを傷つける力にもなるぞ。おぬしにその力を御す覚悟はあるか?」


 柔らかな金緑の瞳の奥に、剣呑な光が灯る。

 オレはその光をしっかりと受け止め、頷いた。

 …オレはオディットとゼロセブンを守るために誰かを傷つける覚悟をする。本当は誰も傷つかないが一番だ。だけど、綺麗事じゃ片付かないとき、オレはオレの力を躊躇うことなく使おう。

 守るために、…失わないために。


「良い目じゃ。城から出たことのない箱入り王女の目とは思えんな。…そうじゃ。そういうことならば、わしと一度戦ってみるか?使い方がわからない力なぞ無駄の極みじゃ。胸を貸してやろう」


 ミスティは目を細め、面白そうにそう言った。その言葉にオレはもちろん頷く。


 この世界で一番の武勇を誇る天翼族の長の胸を借りられるなんてツいている。それにミスティは何も知らない小娘の相手をしてやる気だろうが、オレだって伊達に向こうの世界で喧嘩ばっかりしてたわけじゃない。

 流派もなにもない喧嘩で鍛えたステゴロ殺法だがこの世界でどれだけ通用するのか、ああ、楽しみだ。

 


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