新天地
「ファイヤー!!!」
テツは街には向かい魔法を放つ。炎の柱は壁門を貫通し壁内の警備隊本部にぶち当たり建物を包み込むように天高く火柱が上がった。
すこし遡る
なんとか回復魔法より命を繋ぎ止め、ガルネリの森に命辛々飛び込んだテツは、街から追撃が来ないのを確認すると思考を整理した。
「俺は街から降り注いだ矢で死にかけた。
あの矢は俺を狙っていたもので動かなくなっても射かけられた。つまりヒルバニアは俺を殺しに来ていた」
なぜ?
と本来は冷静に考えることが出来たかもしれないが、今のテツは初めて人から向けられた明確な殺意、本当に死ぬところであったという恐怖。不安定なテツの感情は怒りに振れた。
「あいつら、一体俺が何をしたと言うんだ!せっかくチートをもって異世界にやってきた俺の人生を台無しにしかけやがって!!」
自分のチート魔法があれば人間相手に負けるわけがない。
怒りに震えながら街へ再び向かう。
森を抜け街門が見えると街門の上にいる見張りの兵士が慌ただしく動きだし弓を構え出す。
テツはこれを見て先程の矢の雨を思いだし慌ててファイヤーを放ってしまった。
自分の放った魔法が壁を貫通し街中で火柱を上げているのを見て我にかえった。
「やっちまった…」
今の魔法で人が死んだか知れない。
矢の雨は土魔法で防げただろう、相手を殺してしまうようなことがあればヒルバニア側との対話の道はありえない。
そしてテツはやり過ぎたことへの罪悪感にしばし呆然とした。
俺はベストを尽くせたはずだろ?
どこで間違えた?なぜこうなった?
自問を繰り返すうちに街は火が燃え移りだし、延焼が広くなり警備隊兵士達の必死の消火活動むなしく火の勢いは止まらない。
テツはもう手遅れと逃げ出す。
森に沿って北側へと走り出したテツを止める、もといそれに気付く余裕のある者などおらず消火活動をする者、魔王の力を目の当たりにし逃げ出す者に分かれる。
冒険者を指揮するギルドマスターと警備隊を指揮する隊長は警備隊本部にて業火に焼かれ既にこの世にいない。
もはや統制などないヒルバニア陣営は大混乱の末全ての機能を失う。
一方北へ逃げ出したテツはいつ次の街へ辿り着けるのか?そこの街では襲われないだろうか?ヒルバニアの件は伝わってなかろうか?
あらゆる不安はあるが歩くペースは速い。
歩き疲れたら自分に回復魔法をかけると疲れが吹き飛ぶ便利な性質を利用してズイズイ真っ直ぐ北へ邁進する。
夕暮れが始まりだす前にテツは広い道に出た。森のすぐ脇にも関わらず馬車の轍が残るこの道を進めば街に出られると、その道をひたすら突き進むと馬車が向こうからやって来た。
警戒をしながら近付いたところでテツは馬車の行者に声をかけて止めさせる。
「申し訳ない!次の街まであとどのくらいか?」
「なんだい、旅のお方かい?」
「あぁ、そうなんだが次の街まで行きたくてね」
「ここからなら馬車で30分ぐらい、歩けば2時間かかるよ」
「ありがとう!助かったよ」
「あいよぉ」
そういうと行者は馬車を走らせ去っていった
テツは襲われなかった安心感と次の街まで2時間弱ということを知りもう一踏ん張り頑張れる。
完全に日が沈みかけたころようやく次の街が見えてきた。ヒルバニアのような壁らしい壁はなく門番もいないが、家々は明かりが灯りだし、おいしそうな匂いもする。テツは極めて空腹だ。
慌ててテツは街へと飛び込むのだった。




