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ハリネズミ


「助けてくれぇ!」


「早く逃げろっ!!」


グリーンドラゴンが潜っていた地面から一度に数名の冒険者を飲み込むと、地上で見つけた数多いる冒険者達に向かい猛烈な速度で突進し、行動不能にしていく。

不意を突かれ疲れが溜まった冒険者達の反応は鈍く初動が遅れ十数名は既にグリーンドラゴンに殺されている。


バンクスは信じる英雄の惨い死体を目の当たりにした衝撃と仲間達の突如とした悲痛の叫び、グリーンドラゴンの間の悪い登場で流石に動揺していた。


「真っ直ぐヒルバニアに走れ!!」


簡潔な号令を出し動ける者は皆散り散りにヒルバニアを目指し走り出した。




少し遡り、自分のチート級の魔法の実力を認識したテツは小躍りする心地で闇に包まれた森林を闊歩する。


「油断はするなよ、せっかくチートを手に入れたのにこの森で魔物に襲われて死ぬのは勿体なさすぎるからな」


自分に言い聞かせながら取り合えず朝が来るまで身を守らねばならない。


先ずはこの火の魔法以外何が使えるのか把握しなければならないと同じ要領で指先に魔力を集中させ、もっと小さい規模でウォーターと呟く。


するとテツの頭ほどある水の塊が指先から球状を型どり浮遊する。

上手くいった!と喜び水球に顔を浸けて水分を補給し、指を前に振ったらウォーターカッターとまではいかぬものの鋭く一筋の矢の様に飛んでいった。


魔力の限界は分からない為無駄遣いは出来ない。早速土魔法に挑戦しコツを掴んだテツは地面の中に隠れることとした。


魔法により地面を深さ3mほどの擂り鉢状に抉り、その中に入って土で屋根を創る。この際にその屋根を強化することも可能だと気付きしっかり強化し、幾らか空気と朝の訪れに気付くように光を取り入れられる程度の穴を設けて朝を待つことにした。


いつからか眠ってしまったのだろう、テツは悲鳴が聞こえて目が覚める。


「真っ直ぐヒルバニアに走れ!!」


大声量の号令は地面の下のテツにもよく聞こえた。


「間違いない人間だ!多分ヒルバニアの!しかし魔物に襲われているのか?」


直ぐには飛び出さず少し様子を伺う。


「ぎゃー!!」


「助けてくれー!!」


あれ?複数いるぞ。しかも皆ピンチというより完全に敗走してるみたいだ。


途端に恐くなってきた。

しかし幾人かの気配が頭上を過ぎていくと、これを逃せば街には辿り着けないだろうし、なによりチート的な魔法が俺を守るんだ!


土の屋根の強化を解除する。すると脆く屋根が砂のように崩れてきた。少し寝ぼけてたのか想像力が足りず砂を一身に浴びてしまうテツ。


急いで地上に這い上がり辺りを確認すると先程頭上を走り抜けていった冒険者達の背中が遠くに見える。

テツは肥満体で運動は嫌いじゃないが走るのは苦手だ。一流の冒険者の全力疾走に追い付くはずもない。

しかし真っ直ぐヒルバニアに走れ!という声を聞いていたので恐らく彼らの向かった方角に真っ直ぐ進めばヒルバニアに着くのだろう。


その反対を振り向くと数十メートル向こうに巨大な生き物が何かを貪る気配を感じた。


間違いない。今の冒険者達はあの魔物に襲われたんだ。めちゃくちゃ恐いけどこの距離から全力で火炎放射をぶちこんでやればあれぐらい倒せると妙な自信があった。


渾身のイメージと魔力を注ぎこみどんどん魔力を凝縮させる。


「ファイヤー!!!」



それは炎と言うよりはレーザーのようで真っ青な光がその魔物までの木々を貫通し魔物も貫通した。

手応えというのはよく分からなかったが、あの魔物の体を貫通したのはなんとなく感じたが、現物を確認するのは怖いのでテツは踵を返してヒルバニアに向けて歩きだした。



暫くして



ヒルバニアには生き残った50名余りの冒険者達が命辛々帰ってきた。門番の兵士はその冒険者達の悲惨で恐慌した様子と、デンシュウが殺されてしまったと呆然と呟くギルドマスターに肝を冷し、ヒルバニアの危機引いては王国の危機であると判断し、早速王国のヒルバニア警護隊に連絡。

投石兵器と弓矢兵を配置し住民の避難の誘導する。


そしてヒルバニアの街が完全に迎撃体勢に入った。その数分後である。

テツが手を振りながら森の中を抜けて真っ直ぐ門へやってくる。

やっと街がみえたぞ!あの街から俺のサクセススートリーが始まる!




「間違いない魔王だ!放て!!!」


矢と投石がテツに向かって降ってくる。

テツはハリネズミのように矢を受け、地に伏した。

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