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ギルド

俺とデンシュウというオッサンは暫くこの森を黙々と歩いた。歩いているうちに思考を整理させていく。

周りは夕暮れ時の深い森のようで歩けど歩けど土の道はあるが森なのである。この場所は自分の記憶にはない。

もしやこれは本当に異世界に来てしまったのかもしれんと段々確信めいてきた。


まぁ元々が詰まらない冴えない人生だったので若干ではあるが自棄になっていたのもあるが、本当に異世界転移?であれば妙に胸が騒ぐものである。


「デンシュウさん。俺は本当に記憶を失っているようです。もはや何もかもに等しいですが、今からいく街についたとしてもそこは恐らく自分の家どころか知った人すらいないのは間違いありません。どうか身一つで生計を立てられる所を教えて頂きたいです」


「ん?記憶を失っているのに街に知り合いはいないとなぜ断言できるんだ?まぁいい。なにか話せない事情でもあるんだろう。詮索はしないさ。しかし身一つでたった今から生活していくなら孤児院に行くか、もしくはギルドでクエストをこなすしかないが今日のところはとりあえずギルドに送ってやろう」


「ありがとうございます」


この辺りでもう現実を受け入れた自分は死ぬことを免れ新しい異世界人生(とはいってもどうやら体は死ぬ前と変わっていないが)を送れる幸運に感謝すると共に、今日からの生活に対する不安で心中はパニックになっていた。


ややあって森を抜けると石造りの大きな壁が見えてきた。


「ここがガルネリ森林東部の街、ヒルバニアだ。」


元々肥満体で体力のない俺は大汗をかき随分と辛いのだが、そういう素振りをする暇などなくデンシュウの後をついていく。


大きな壁の門の前までくると屈強そうな槍を持った兵士が二人立っていた。


「おう、デンシュウか。もうグリーンドラゴンの調査は終わりか?」


「いや、森の中でこの男を拾ったんだが魔物に襲われたかなにか記憶を失っているみたいでな。自分の家もなにも分からない奴を森に放っておけなくて、とりあえずギルドまで連れていってやろうと思ってな」


「相変わらず随分と人がいいな。この森で倒れている奴なんて盗賊か村を追われた悪人だろう。まぁ、デンシュウが連れてきたなら大丈夫なんだろうがな。そいつの名前は?」


「おっ!名前聞くの忘れてたな。お前、名前は覚えているのか?」


「テツです」


反射でテツと答えてしまった。新しい人生だから新しい名前を名乗っても良かったんだがまぁ良いだろう。


「テツか。名前は覚えていたようで良かったよ。さぁ、通ってもいいだろう?」


「あぁ、B級の連れなら通行料はなしだ」


「ありがとよ」


すっかり日が暮れ、石造りの街並みが明かりを灯し始める。これは中世の街並みってやつか?街の規模はあまり大きくはないようだが四方を高い壁で囲まれ、2階建てのある種整然とした家が街道に沿って綺麗に区画されている。

以前は建設業関係をかじっていた身としては十分な技術力だと思う。


しかし鼻をつく下水の臭いや、大八車のようなもので往来を行き交う人をみるとこれは間違いなく自分のいた時代とは違うと言うことを認識した。


程なくして比較的大きな建物の前でデンシュウが立ち止まった。


「ここがギルドだ」


ギルドの木製の扉を通ると壁にはクエストが並び、色んな武装をした男達が20人ほどが酒を煽ったりなにやら受付とクエストについて揉めていたり賑やかだった。ただ受付もむさい男である。


「あれ?デンシュウもう帰ってきたのか。その横の太っちょはだれだ?」


受付カウンターの髭面が聞く。


「こいつはテツっていうんだが、森の中で倒れているところを拾ったんだ。どうやら記憶をなくしていてな。保護してやろうとおもってな!」


「そいつぁ大変だったな。デンシュウが拾ってくるんだから悪い奴ではねぇんだろ?」


「あぁ、鑑定したが悪事や経歴も綺麗さっぱりわからなかった。隠蔽しているわけでもなさそうだし、この見た目だ。どんな事情で倒れていたかは分からんが、助けを求められてな。ためしに水晶で魔力を見てくれ」


??待ってくれ!ひょっとしてとは思ったがこの世界には魔法があるのか!?鑑定とか魔力とかいうワードがここまで歩いた疲れを忘れさせる。


「魔力ってなんですか?」


「なんだお前、魔力も知らねぇのか?あっ記憶がねぇんだったな。どこまで記憶がないのか知らねぇが魔法を使うための燃料みたいなもんだ。まずはこの水晶でお前の魔力と属性を調べるんだが………」


話を纏めると魔法の属性は

光、闇、火、水、風、土の6つの属性があり、誰でもひとつ属性はあるそうだ。そして魔力の量が多ければ魔法を使用することが出きるらしい。魔法を使える者を魔術師と言うのだが、これがまた世界でも大変希少な人材だそうな。実質魔術師と言われるのはこの世界には10000人といないと言われている。


ほとんどは自分の属性の魔法をひとつ行使することが出来れば魔術師と言われるそうだ。


そしてもう1つ。魔術師はみな大なり小なり肥満体であるそうだ。もちろん、肥満であれば必ずそうかといわれればそうではないのだが。この髭面の受付もデンシュウも俺ほどの肥満はあまり見ないそうだ。恥ずかしいが自分は身長175cmに対して体重は120kgを超える肥満なんだ。


さぁポテンシャルは十分だ。やっぱり異世界に転移したんだからきっとすごい魔力を自分は持ってる筈だ!


「じゃあまずは属性をみるぞ。この水晶に手を翳せ」


髭面に施されて水晶に手を翳した。



水晶は目映く真っ白に光り出した。

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