怒り
短いが勘弁してください
テツは気が付くと真夜中の森のなかだった。
「あ?あれ?」
今、あの大男に殴り飛ばされたような?
なんで?
服装だって元の世界で着ていた作業着じゃないか……。夢だったのか?
そういえば前にもこんなことがあったぞ……
もしかして俺はあの後殺されたのか?それとも殺される前にここに転移してきたのか……。
「ちくしょー!!!!」
テツは叫んだ。
どういう仕組みでこうなったかは知らないが、こんなことになるならさっさとあいつらを始末するべきだった。ここから王都まで今すぐいくことは出来ないし、マウリスへの道のりも分からないじゃないか。
はぁーどうして俺の人生こんなんなんだよ…。
いやまてよ、俺は自分の魔法の可能性を考えてなかった。俺は転移魔法とか使えないだろうか?
あの王都の宿を思い浮かべろ………。
「あぁー、無理だー。どうしてもこの魔力で転移するイメージが出来ないよ」
あっ!なら空を飛ぶことは?風魔法というのがあったな。それなら!
テツは魔力が風に変換されて自分を吹き上げるイメージをする。
「風よ」
なんちゃって詠唱でイメージを魔力に投影して解き放つと突風がテツの体を空高く舞い上げた。
驚いたが、風量を調整しながら自ら体を上手く押し上げてキープする。しかし、身体はうつ伏せのまま浮遊するというなんとも不恰好なものだ。
コツを掴み地上50mくらいの高さで森林を俯瞰した。
とても遠くにほんのり明かりが見える。
一先ずそこまで風を操作しながら加速し向かう。魔力の出力によって速さはどこまでも伸びるようだったが、速度を上げるととにかく寒いのだった。
明かりの正体はマウリスだった。
テツはヒルバニアかな?と思い少し緊張したが、どうやら空を飛ぶことは想像より遥かに移動が速いらしい。ものの30分ほどで着いたのだ。
歩いていけば半日以上はかかった。
ならば今の飛行は160㎞/hは出ていたのかもしれない。
マウリスから北西に馬車で一週間進んだ所が王都だったのを覚えてる。
誰もいないマウリスのギルドに入り、テツは防寒着や暖かそうなジーノのマントを拝借する。
サイズは小さいが無理矢理にでも身に付け、カウンターの引き出し等をあさり都合よく目当てのものを見付けた。
方位磁針だ。
必要なものは揃ったとテツはギルドの外に出ると方位磁針で北西にあたりをつけ空に舞い上がった。
そして力の限り直進する。
風圧は己のまわりの空気のみをゆっくりに制御することで解決した。
テツは恐らく飛行機ぐらいの速度はでているだろうと思った。
暫く飛行していると朝日が上り始め、それと同時に王城のシルエットが見えた。
「やった!戻ってこれたぞ!!あのクソ野郎どもに復讐してやる!!」
テツは怒りにうち震えていた。
しかしここは冷静に先ずは王都のジーノがいるはずの宿へと戻り、カウンターで鍵をもらい、自分の部屋で着替えてからジーノの部屋を叩く。
ジーノとテツは別々で部屋を取っていた。
「ジーノさん!いますか?」
ガチャ
「………一体どうしたんだ?こんな朝早くに。昨日は夕食のとき居なかったな。まさか今帰ってきたのか?」
「えぇ少し遊んでまして。ジーノさんが無事ならそれでいいんです。それじゃ、俺はいまから寝ますので」
テツはジーノの反応を確認して、昨日一日宿に戻らなかったことを咎められなかったので良しとする。
「無事?変なことを言う奴だな。娼舘でも行っていたのか?まぁいい。明日には王城に入城許可が下りると思うから今日は必ずここで夕食を採るように頼むよ」
「わかりましたよ」
そういうとテツは少し仮眠をとり、昼過ぎに自分が連れていかれたスラムな場所に行くとあの時の大男が丁度路地から出てくるところだった。
「ウォーターカッター」
有無を言わさず水魔法で両断した。




