マウリスギルド
今回は平和です
ガルネリ森林より北東の街 マウリス
この街は大昔、迷宮都市として大変栄えた街で100年前の勇者が完全踏破するまではダンジョンからとれる魔物の素材や不思議に湧いてくる宝などまさに冒険者の天地だった。
迷宮はそこで生まれた魔物が外に出てきては人々を襲うため忌み嫌われるものであるが、
マウリスの迷宮から表に出てくる魔物は大変弱く、これならばと当時の人々は迷宮を管理するようになったのだ。
しかし時の勇者は腕試しと迷宮に仲間と潜り最深部のコアを破壊。コアを破壊した途端に迷宮は瞬く間に崩壊し、勇者一行もろとも生き埋めになってしまった。
迷宮が機能を失ってからは人々はこの街を去り現代では迷宮跡と寂れたギルドと牧畜の街になっている。
テツは肉体的な疲労や渇きは自身の回復魔法
や水魔法で抑えてはいたが、ヒルバニアでの精神的疲労と空腹は限界に来ていた。
テツはまだ街を歩く人にギルドの場所を聞き出し、マウリスのギルドに駆け込んだ。
テツは街の規模がヒルバニアよりも大分小さいと感じていたためその粗末なギルドに疑問は抱かなかった。
「すいません!訳あって無一文なんですがなんでもしますので、食事をさせてください!!」
「うちゃあ孤児院じゃねーんだ!無一文食わせるなんて気が触れたこと出来ねーよ!」
寂れたギルドには冒険者の姿はない。カウンターの向こうに一人背の低い色黒の男。50歳ぐらいだろうか。
恐らくギルドマスターだとテツは断定し食い下がる。
「なんでもしますって!俺はこれでも魔術師なんです!」
「ハッ!魔術師様がマウリスのギルドに来るわけないだろう、体系だけなら魔術師みたいだが………なら証拠を見せてみろよ!」
「いいでしょう。ウォーター!」
テツは水球を作り出しそれを顔の前で浮遊させる。テツはそれをギルドの出入り口まで持っていくと、地面に叩きつけた。
ビシャーン!!!
舗装のされていない地面は少し抉れ辺りに飛沫が舞う。
これに驚いたのがマウリスのギルドマスターであるジーノ。まさかロクな詠唱も無しに唐突にウォーターと唱えたと思えば、人の頭程の水球を作り出し浮遊させた。
そもそも水属性の魔法で水球をキープさせるような魔法は聞いたことがない。
せいぜいコップ一杯分の水を生み出し、カッターのように飛ばして運用するのが最もポピュラーな水魔法だ。
それをこの男は驚異的な魔力制御により水球をキープさせ、それを地面が抉れるほどの高威力で叩きつけた。
ジーノはとんでもないバケモノ級の魔術師、まさに世界に片手ほども居ないと言われるA級魔術師か魔王が来たと腰を抜かした。
「これで十分でしょう?」
テツはその男のリアクションで交渉成功を確信した。
「あぁ、十分だ。勘弁してくれ。まさか本物の魔術師がこんな街のギルドに来るとは思わなかったんだ。許してくれ」
「それはもういいから、なにか飯を食わして欲しい。その分は働くので」
「あいにくうちのギルドの食堂はとうに閉鎖さてちまっててな。今から牛のスープを作るから暫く待っててくれ」
ジーノはギルドマスターではあるが、ギルドにはジーノしかいない。ギルドに来る依頼の少なさと冒険者の少なさで一人でも十分対応できるからだ。
それゆえマウリスのギルドはジーノの家と化していた。
暫くしてジーノは牛のスープと固いパンをテツに出した。
牛のスープは大変素朴な味でテツにとってはこの世界に来て初めての料理である為か大変美味しく感じられた。
固いパンをスープに浸しながら食べればこれも美味い。
あっという間に平らげると改めて自己紹介をした。
「俺はテツといいます。訳あって無一文の魔術師です。出身地は名前もないような村から出てきました」
「俺はジーノ、このマウリスの街のギルドマスターだ。見ての通りこのギルドにはクエストも無ければ冒険者もこねぇ。
この街の人間は冒険者を引退して隠居しに来てる者が多い。元冒険者が多いから大抵の困り事は手前で解決しちまって仕事がギルドまで回って来ねぇんだ。」
「じゃあ何も手伝えることはないんですか?」
「いや、あるにはあるが……いや、テツ。あんたなら出来るかもしれない」
「なんですか?なんでもやりますよ!」
「そうか、ならガルネリ森林にグリーンドラゴンが出現したらしい。そいつはここより南のヒルバニアって街の勇者が討伐に向けて動いてるらしいが、未だに討伐したという報せはない。
その勇者よりも先にグリーンドラゴンを討伐して欲しい」
ジーノは年に一度のセンターギルド会議で毎年ロクな成果もないマウリスギルドはもう不要ではないか?とイビられ、予算を削減され職員も雇えず一人きり。日頃どうにか奴らを見返してやりたいと算段していた。
そこでガルネリ森林近辺の全ギルドに通達のあったグリーンドラゴンの調査・討伐というクエストをマウリスギルドが成就させたらば奴らの鼻を明かせ、予算の増額、引いては街の活性化に繋がる。
ここでとんでも魔術師がなんでもすると言ってきたのでこれ幸いとこのクエストを頼むことにした。
今日はもう遅いからとギルドの屋根裏の部屋を解放し寝床を設ける。明日から是非ともヒルバニアの勇者より先にグリーンドラゴンを討伐してくれと頼み、ジーノも眠ることとした。
テツは布団の中で考える。
ヒルバニアの街と聞いて日中、ヒルバニアに対し火魔法を使用して火の海にしたことを思い出す。
加えてテツと自分の名前を言ってしまったことも後悔する。もしヒルバニアの街の人間がきたら俺を放火魔だというのかもしれない。
まぁ、そのときはそのとき。今はグリーンドラゴンだ。
開き直ってポジティブに行こうと眠るのだった。
この時テツは既にグリーンドラゴンを倒していた事に気づいてなかった。




