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エピローグ

 月日は流れ、ようやくサンドラはイーゴルと結婚式をあげることとなった。

(いまさらといえばいまさらよねえ)

 純白のドレスに身を包み、大神殿の控えの間でサンドラはぼんやりと思う。

 すでにイーゴルと出会って五年にもなる。結婚式の準備だけで一年近くかかり、もとより式を挙げることそのものにこだわりもないので、楽しみよりも大変だった気持ちが大きい。

 やっとこれで一仕事終わる脱力感で式を目前にしてぐったりしていた。

(夕べは楽しかったなあ)

 よかったことは数年ぶりに父と兄達が集まったことだ。姪も甥も増えてとにかく賑やかな夜だった。

「サンドラお姉様、よろしいかしら。まあ。もうお疲れですわ」

 控え室に入ってきたリリアが放心しているサンドラに苦笑する。

「あとちょっとで終わるから頑張るわ。あ、フィグもいるのね。やだ、かわいい」

 リリアの後ろからフィグネリアも来て、サンドラは目眦を下げる。

 ふたりは、揃いの淡いブルーのドレスと真珠の髪飾りを纏っていて、愛らしさにほんのり美しさも滲み眼福だった。

「はい、サンドラお姉様。おめでとうございます。やっと本当にわたくしたちのお姉様になっていただけますわね」

 リリアが白い花を模した銀細工の髪飾りをサンドラの結った髪に挿して、柔らかく笑む。

「そうねえ。まだ結婚してなかったっけってまだ思ってるわ。……フィグ、大丈夫?」

 今日はまた一段と難しい顔でいるフィグネリアにサンドラは首を傾げる。

 体調が悪いというよりは、緊張している様子だ。

「フィグお姉様、サンドラお姉様にご挨拶するんでしょう」

 珍しくリリアが年上のような振る舞いをみせて、フィグネリアをせっつく。

「……わかっている。本日はまことにおめでとうございます。……あ、あね、うえ」

 フィグネリアが最後に消え入りそうにそう言って、頬を染めながらうつむく。

 今日の今日まで、フィグネリアに『サンドラ様』としか呼ばれなかったサンドラは、考えるより先にフィグネリアを抱きしめていた。

「フィグ、ありがとう! あたしもこんなかわいい妹がふたりもできて幸せよ」

 これだけでもう疲れが吹き飛ぶというものだ。

「サンドラお姉様、ドレスが皺になってしまいますわよ。さっきお兄様にも会ったのだけれども、それそれは緊張なさってましたわよ」

 おもむろにリリアに引きはがされて、サンドラはきょとんとする。

「イーゴルが?」

「花嫁姿を見たら、せっかく覚えた段取りを忘れてしまいそうですって。」

「そんなこと言われたらあたしまで緊張しちゃうわ。大丈夫? 変じゃない?」

 サンドラはとたんに自分の仕上がりが気になってしまい、妹達に訊ねる。

 ふたりはとても綺麗だと褒めてくれて、そしてすぐに神官に礼拝堂へと呼ばれる。

 先にフィグネリアとリリアが扉の前に行きそれぞれが、両開きの扉を片方ずつ開けると、最奥の地母神ギリルア像が置かれている前にイーゴルの姿があった。

 こちらを見たイーゴルのつぶらな瞳はさらにまるくなり、そして巨体が鋼のように強張るのを見てサンドラは思わず笑みを零す。

 自分も緊張していたが、イーゴルの方がよっぽどで愛おしさがこみあげてくる。

 そうして、早く隣に行きたいと逸る気持ちをこらえてゆっくりと歩んでいく。

「……今日のサンドラは一段と美しいな」

 視線をずっとこちらに向けていたイーゴルが、普段とは打って変わった微かな声を零す。

「イーゴルもすてきでかわいい」

 サンドラもそっと返すと彼は火が点いたように赤くなってしまう。似ていないようでよく似た兄妹だとサンドラは先程のフィグネリアを思い出していた。

「…………よろしいですか」

 大神官長が控えめに言って、ふたりは粛々と地母神像へ向き直る。

「汝らこれより共に大地に根をおろしやがて同じ土へと還る日まで、黄金の果実を育み神霊方へ捧げ続けることを誓いなさい。同時に夫は妻へ妻は夫へとたゆまぬ愛と幸福を捧げると誓いなさい」

 サンドラとイーゴルは自然とお互いに視線を向け、うなずく。

「誓います」

 すでにめいっぱいの愛と幸福を抱えながら、ふたりは想いも声を重ねて永遠を誓うのだった――。


 終

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― 新着の感想 ―
なにも皇室問題が解決しないまま終わっちゃった!! うーむ。 フィグネリア皇女は臣籍降下させて、リリア皇女は国外に出すor九公爵家以外の家に嫁がせて、皇太子夫妻の子供に期待……かなぁ。
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