アビス/フォーマルハウト
はい、館内部に変化はありませんがファイスさんが映してくれてる外部は大分大変な事になっております。
なんだろうね、知り合い全員集合!って感じ。いや知らんのも居るけど。知らん方が多いけど。
「よし、中のも全部外に出してしまえ」
[良いのか我が居場所。身を守る盾が無くなるぞ]
「気にするな、元から盾持たねぇ主義だ」
『侍に盾は不要ですからね!』
[そう言う事じゃないと我は思うのだが、まあ、良いか]
「一日限定ゲリライベントになったら美味しいじゃん?」
『それもプレイヤーがレイドボス化ですからね』
[我、そう言う事を冗談でも言うのは良くないと思う]
なんだ?急にキャラ変わったなお前。
「この中で聖剣二本で戦闘を行う。モンスターは邪魔だ、物語的に映えない」
『そんな所まで気を使う必要はないですよ?』
「上から何も伝えられていない今!このイベントのゲームマスターは俺だ!俺がルールだ!」
『と、言う訳です』
[うむ、道理だ。ではその通りに]
埋めつくしてたモンスター達が出て行った。なんか、行儀並んで扉から出て行っている所を見るのは奇妙だ。
さて、それで外はどうなってるかな?
いや、うん、大体察してたよ。
ホイールさんつっっっよ!やっぱ回避盾ってヤベーわ。
勝ち目あるかなぁ、コレ。やだよー俺。
折角人生に一度あるか無いかのメイン張るイベントなのに翻弄されるだけで終わるとか、流石に無しだぜ?
「ま、何とかなるでしょ」
『お気楽、とは違いますね。何か考えが?』
[我が居場所よ、突破されるぞ。どうする]
「ヤバくなったら盾よろしく」
伝えた直後に扉が爆発してこっちに吹っ飛んで来た。あっぶねぇな!椅子の位置が後ちょっと右寄りだったらぶつかってたわ!
「自分何やっとんのやこんの半端ロールプレイヤー!」
ベルッサさんを皮切りに俺を罵倒する声が続く。どいつもこいつも「中途半端ロールプレイヤー」だの「精神不安定」だの。知らん奴からは「ユニークマン殺すべし」とか好き勝手に言われている。
一つ一つに反応しそうになるけどグッと堪えよう。今の俺はイベントボス、
「今の拙者はノーマルハンドに非ず。我が名は」
椅子からゆっくりと立ち上がり、左腰の凡百の聖剣を右手で、背負ったシリウスを左手で抜き払う。
「アビス」
館が地面へと溶け出して行き、残った椅子の上に小さな館の模型が乗る。
館が無くなったことで外が見える。残っていたモンスター達を影から飛び出した紐に巻き付かれ地面へ飲まれていくのが見える。
それと同じくして影が大きく円を描き、地面が揺れながら下がっていく。
ちょっと待って待って聞いてない。名乗ってとは言われたけどそれ以外の事は聞いてないぞ俺は!
幸い、顔はバケツで見られてない、顔から焦りが伝わる事はない。なら雰囲気を保ち続けるんだ俺、余裕綽々な態度を取れ俺。プレイヤーが楽しんでイベントを終える為にボスを演じろ俺ェ!
あっ、なんかスイッチ入った。別にいいんだ、演じなくても。
楽しもう。
「では第一の洗礼だ。ポリューション」
ハッハッハッ!別に気負う必要なんて無かったわ!いつも通りやれば悪役じゃないか!
あっ、マジの阿鼻叫喚だ。メタルボーが両手剣をジャイアントスイングみたいに振り回して暴れてる。当たった連中がギャグマンガみたいに吹っ飛んでいくの笑う。
遠くで青白い光がいくつか光ったな。状態異常回復されたか。ならばポリューション。
おっと目の前にホイールさんが落っこちて来た。ナイスタイミングだ俺。それにしたってここまで近づかれててビビるわ。
んー?ポリューションにポリューション重ねたらどうなんだろ。と言う訳で追いポリューション。
糸に吊るされた人形の様に関節から動き出し、普段よりは遅いもののそれでも素早い動きでプレイヤー達に襲い掛かったホイールさん。彼女には一体何が見えてるんだ。
それはともかく、拙者クソボスに候!
メンタル面へのデバフばら撒くだけのボスって何だよ。相手に幻見せるタイプなの?これ想定内?
背後からモンスターの断末魔。振り向くと俯いているノルーさん。手には赤く染まったナイフ。聞こえないけど何かを呟いているようで、突然のホラー展開に思わず体が固まった。
そのままの態勢で一歩、また一歩近づいてくる。正直逃げ出したい。
シュッと突き出されたナイフを凡百の聖剣で受け流そうと、おかしいな、押されてるんですけど!
「ノーマルさんノーマルさんノーマルさん助けます助けますねたすけなきゃ」
「拙者の名は、アビス!」
名乗りと共に振ったシリウスはバックジャンプで避けられた。まだなんか言ってる、独り言がこえーよこの子!
ナマルさんッ、ナマルさん助けて!早く俺を殺して助けてくれ!逃げなきゃ、現実に逃げなきゃ!
十分くらい色々やってみたが。だーめだこりゃ。
魔法とか影が縦に伸びて防いでやがる。高軌道な連中の不意打ちも魔召の本がモンスターを生み出すことで防がれる。
肝心の俺本体はポリューションを自重し始めるものの、なんかステータスが引き上げられているのか両手で握って振られた大剣を軽く振ったシリウスさんで弾けるんですけど。
と言うかシリウスさん強い。なんだろう、筋力にボーナスでも付くのかな?ってくらいパワフル。やっぱり聖職者は脳筋な存在なのか。
もっと信仰しようぜと聖書を取り出そうとしたがなんか無くなってる。俺が回復しないような処置か。回復系ボスとかクソだからな、仕方ない。
まあ、なんだ。
プレイヤーに見えてるかどうか分からないけど、偽書にも魔召の本にもHPバー的な物が見えるし、攻撃を受ければその内ウザいだけの二つのオプションは黙るから頑張れ。
今は、両方とも残り三割くらいだからホント頑張れ。
スゲーな、正直舐めてたわ。代わる代わる放つ魔法で影の盾を抑え込み、敏捷振りが大勢で波状攻撃で魔召の本を釘付けに。戦士職大人数が突撃して来て攻撃を防ぎ、弾き飛ばす俺の隙を付いて的確にダメージを蓄積して来た。
良くもまあ二つも盾が残った状態で俺のHP削り切ったな。
さて、今は地面に両膝を突いて項垂れているわけだが、目の前に二つウィンドウが出て来た。
片方には引き絵の俺が、片方には指示が書いてある。
イベントムービーをリアルタイムで撮影放送するのって、正直どうなの?
崩れ落ちたバケツ頭の男の左右の耳元へと二つの本が近寄って行き、黒い本だけが何度か開閉する。
俯いていた頭が少し上がる。同時に右の剣が跳ね上がり黒い本へと突き刺さり、下がり続けていた地面が停止する。
黒く染まっていたバケツ頭も、手甲と足甲が元の色へと少しずつ戻って行った。
一枚、また一枚とページが零れ落ち、どこからか吹き付ける風で穴の上部へと飛んでいく。
大剣を左手から離し、最後に飛び立とうとしていたページの一枚を握りしめた。
大剣が何度かバウンドし、動きが止まると全体にヒビが走り、破片の一つ一つが青白い輝きとなって消えていく。
頭が左に浮いている本へと向き、見られた本は少し震えてから穴から大空へと飛び出していった。
ゆっくりと立ち上がり、右手の剣を空へ、高々と突き立てる。
「拙者の名はノーマルハンド」
名乗りと共に、刀身が纏っていた青白い光が変わる。
白く強い輝きが辺りを照らす。
「我が名は、フォーマルハウト」
名乗りと共に、光が収まると、掲げられた剣は、刀身全体が放つ白い光を、青い輝きが包むように瞬く。
掲げていた剣を、ページを掴んだ左手がしっかりと握りしめた。
それに答えるかの様に、青い輝きが空を貫くかのように伸びる。
ムービーウィンドウが消えると、俺は掲げていた剣を振り下ろした。
次回最終回です




