食糧生産プラント
広い、白一色の大きな部屋。天井、壁、部屋のあちらこちらから発せられる強い光。
その中にあるドーム状のガラス、土が敷き詰められ、青々とした植物が所狭しと生え。どこか植物園を思わせる部屋。
赤いレンガで舗装された道の上。巨大な緑色の蔓が編み込まれた様なモンスターの前で、男が二人叫ぶ。と言うか、俺達だ。
「呼べ!人呼べ!でも女は呼ぶな!」
「セクハラ扱いされんの俺だっていやだ!」
「もう既に、此処に」
「流石ホイールさん。貴方ならば多分避け続けられる」
「いや、いいのか?」
「子細無し。時間を稼ぐ」
「攻撃貰ったりしたら話しかけてください、回復しますんで」
「うむ、安心して行ってくる」
いつの間にか来ていたホイールさんはいいとして、ナカヤーマン!ナカヤーマン早く!盾を!盾をッ!
いや、人数増えてもあの悍ましい者が増えるだけだからいいかな。良くない。
「下手な盾は呼ばなくていいぞ、サイトーとか、サイトーとか!」
「安心しろ!呼んでねぇ!機動力メインだ!」
「愚連隊か!」
「安心しろ。まともなお前のお友達も一緒だ」
あんまり見たくないな。ナマルさんやノルーさんが触手に絡まれる所。
「そういや、ベルッサさん見かけなかったけど?」
「あいつは今日来てねぇ」
「マジかよ、メイン回復拙者かー、困ったなー」
「普通に回復しろよ!いいな!」
「今宵の聖剣は血に飢えておる」
「やめろ」
とりあえず、巻き疲れてる連中は、少しずつだがHPが減って行ってるな。まだ余裕はありそうだがヒールをしてやろう。これでしばらくは持つだろう。
連中からは「やめろー」とか「リスポーンさせろー」とか「コロシテコロシテ」なんて喜びの声が上がっている。良い事するって気持ちいい!
「まだ来ないのか?」
「なんか、来ないな」
「ホイールさんと俺とナカヤーマンで?コレを?」
編み込み蔓モンスターは三階建ての家の様な高さはある。今まで遭遇した中では聖印竜レベルって事を考えると相当だ。
「せめて魔法使いは来て?燃やし甲斐あるよ、て」
「燃やしごたえしかねぇな」
囚われている彼等からは「俺達も燃えるー」「燃えなくても一酸化炭素中毒でおしまいですね」「シテ、コロシテ」なんて賛成の声が沸き上がる。良いオーディエンスだ諸君。回復してやろう。はっはっは!また歓声が上がっているぞ!心地良いな!
いや何キャラだコレ。これじゃ人の気持ち察せないヤバい奴じゃん。
俊足移動のホイールさんがタゲを取り、俺が捕まっている連中を回復し、ナカヤーマンがチャットをしている。最高に安定している状況が続き、愚連隊の魔法使いがやって来て、勝った。弱かったわ。
そして俺は助けられた彼等にボコボコにされている。
「回復すんなって言っただろ!」「燃えかけたわふざけやがって!」「ロス、コロス」と、皆さん大変楽しんで倒れた俺を足蹴にしております。クソが。
「で、畑みたいのがあるな」
「収穫するべし」
足の隙間からナカヤーマンとホイールさんが見える。
彼女がしゃがみ、手を動かした。そして短い悲鳴を上げながらしりもちをついた。ナカヤーマンは後ろへ飛び退いた事で何が起こっているかが分かった。
なんか手足の生えたニンジンがテクテク歩いて草を掴み、そして動くニンジンが増えた。
「カレーの素材だ!捕まえろ!」
思わず声を上げた。俺は今、カレーを食べたくて仕方が無くなっているんだ。
「いやだよ気味悪い」
「流石に、これは」
「ええい使えねぇ奴等だ!お前等止めろ!止めッ、強くすんな!」
立ち上がろうとしても邪魔をしてくる。立ち上げれねぇだろクソァ!
思わずポリューションを唱えたが、どうやら判断は大正解の様で喚き始める彼等。
そして畑と呼んでいた場所へと駆け寄ると、何故か取っ組み合いを始めたニンジン達の姿があった。
「なにこれ」
「ポリューション、こっわ」
「ふむ、これならばまだ可愛らしいな」
「収穫しよう。カレーを作ろう」
「どんだけカレーが食べたいんだよ」
「南蛮、いや天竺の料理か。ふむ、拙者も食べたい」
「噂では茶色で、粘性のある液状の物らしい」
「白米の上にかけ、匙で掬うのだろう?大丈夫なのだろうか」
「なんでこいつら突然カレーを知らないロール始めたの?」
「恐らくは、粥の様な物であろう」
「ねこまんま、だな」
「卵かけご飯の様でもあるだろう」
「色こそ違えど、雰囲気としてはとても近そうだ」
「他の野菜も探そうぞ」
「先の術を掛けてくだされ。虫の如く動く物は苦手だ」
「では共に行こう」
「うむ」
「「いざ天竺へ」」
「こいつら疲れる」
出た芽で這いまわるジャガイモ。一番外側の薄皮が回転して空を飛び始める玉ねぎ。なんだ、遺伝子操作したら動き回るようになったのか?
「香辛料の類は見当たらないな」
「みりんがあるだろう」
「醤油もある。煮れば食えるであろう」
「しまった、ノーマル。鍋がない」
「持ち帰り、作ろう」
「いやみりんも醤油もねぇからな?肉じゃが作ろうとしてんじゃねぇよ」
「動物が居ない。不健全だ」
「肉が食えなきゃ生きてけねぇ」
「なんでそんな絶望してる風に言えるんだよお前は」
「肉、肉。ナカヤーマン」
「うむ、ナカヤーマン」
「いや待て何言ってんの?その流れじゃ俺を食う流れじゃん?」
「モツ?」
「ハツ?」
「分かった、お前ら一回ログアウトしろ」
カレーを食べよう。レトルトのがあったはずだ。
大体十五分から二十分の間後。俺とホイールさんは同時にログインした。
「レトルトはあったけど、飯が炊かれてなかった」
「食堂のかれぇは、微妙だった」
「お、おう。なんか、残念だな」
「レンチンご飯も美味しいは美味しいけど、なんか違うんだよな」
「結局カレーは食べたのか」
「おのれノーマルハンド!裏切ったのか!」
「うるせぇホイールさんもカレー食っただろ!」
「拙者のより美味しかったであろう!」
「飯の味なんて主観で違うでしょうが!」
「もう暇だし、好き勝手やってくれ」
俺は彼女と取っ組み合いながら、顔を見合わせ、同時に去っていくナカヤーマンの背を見る。そして、再び顔を見合わせ、頷き合った。
「「ナカヤーマン」」
「うわっ!急に俺!」
同時にナカヤーマンへと飛び掛かり、俺はあいつの足を、彼女は頭を抱え込んだ。抱え込まれたナカヤーマンは倒れた。
「こいつにもカレーを食わせろ!」
「かれぇ、無いぞ」
「材料食わせよう。ニンジンと玉ねぎとジャガイモ」
「待て!ジャガイモはせめて芽を取れ!」
「大丈夫大丈夫」
「食える食える」
我関せずみたいな素振りをしたナカヤーマンは口に数々の野菜を突っ込まれて眠った。天誅に御座る。
「では次の通路の作業に取り掛かろう」
「うむ、大物相手に時間を取られすぎたな」
拙者、帰ったらニンジンポーション作るんだ。
翌日。昨日は通路開拓よりも食糧生産を探索していた。
目新しいものは何もなかった。
「カレー、作れそうにないやん」
「アレが足りない。調味料」
「確かに。料理屋とかはあるけど、売っとらへんな」
「市場に流さないと言う事は、奴等は俺達の胃袋を掴むつもりだ」
「ゲーム内飯あんま食わへんからな」
ベルッサさんと話しながら通路開拓。
「ナカヤーマンは?」
「今日は来んらしいで」
「今頃カレー食ってんのかな」
「いやアイツの好きなもんはハヤシや」
「異端者殺すべし」
「慈悲はない」
「誰や今の」
ホント、誰だ今の。視界を過ぎる黒い影、ホイールさんか。
「自分の方は?」
「他のクエスト探すってさ。敏捷振りの人も持ってかれた」
「嫁はんか」
「間違ってはないけど間違ってる」
「しっかし、次はなんやろな」
「調べた。生存と娯楽」
「保存からの方が近いかもしれへんな」
「まあ、通路は開いといて損は無いから」
地下から再び触手があふれ出すかもしれないけどその時はその時だ。気にしない気にしない。




