まだ着かない
「へー、君もローンワーズへ」
「そうそう、お仕事頼まれちゃったから仕方ないよね」
「っふっふ、まあこの僕が華麗に問題を解決するから君の出番はないがね!」
「私たちは傷付いた方々を癒しましょう。問題を解決したとしても、その後がありますので」
「わーいノーマルハンドヒール大好き」
「それでも君は男なのかい?」
「戦闘も大好き」
まあ回復にしろ戦闘にしろ聖剣使うんですけどね。
女騎士さんは先頭を歩いて真面目に警戒してくれている。
青い服着た青年は、なんか自信満々?ナルシスト?これが貴族ボーイですか?
青いドレスの少女は落ち着きがあるな。貴族ガール?それとも孤児院ガール?
一方俺根無し草!殿勤めつつ話しながら警戒している。俺、忙しいな。
「俺、内容知らないんだけど、一体ローンワーズで何があったんだ?」
「デュラハンが出たのさ」
首無し騎士さん?待ってそれスケルトンより強いんじゃない?どう考えても大物やん。何?この四人で戦うの?そういうイベント?死ぬよ?
「まっ、デュラハンくらい僕がいればすぐに片が付くさ」
「おう頑張れ、応援してる」
「私たちは私たちの出来る事を為しましょう」
「俺の必殺技でどんな奴でも治してやるよ」
「必殺?殺しちゃダメですよ?」
「マルサ様、彼の必殺技は人を回復させます」
「そう!この凡百の聖剣でな!」
「凡百の聖剣には人を癒す力もあったのですね!」
やだこの子純粋。
「で、僕達はいったいいつまで歩けばいいのかな?」
「後十八日くらいじゃ無いですかね」
「わがままは言わないで進みましょう」
「こうしてる間に誰かに手柄を取られるのは心外だよ」
「あと少し歩いた場所に町があります。そこで馬車を手配するつもりです」
女騎士さん子守大変だなぁ。
「さむらいさん、ローンワーズまでお願いしますね」
「え?馬車乗っていいんですか?」
「私と同じ御者台で宜しければ」
「時間短縮出来るのは大助かりですよ」
ちょっと大声で話していると「さむらい?」「さむらい、知らないのか?島国の蛮族だ」「その蛮族様に助けられてますけど?」「っふ、僕は他人に華を持たせる事も出来るのさ」なんて話が聞こえる。なんか良いコンビだなこの二人。
でも青年、武器持ってないお前じゃ後衛&後衛で戦闘がおざなりになるのが見える見える。大丈夫?
なんてことをやっている間に森を抜け広い草原に出た。牛とか鹿とかが生き生きしよる。普通の動物いるんだな。
あっ森から恐竜出て来た、スピノ?背中のヒレが無いスピノサウルス?あー牛さーん!牛さんが食われた!生き生きしてる世界っていいよね!
「猛る、凶食!」
「なにそれ」
「知らないのかね君は!まったく、ではこの僕が」
「猛る凶食は突然現れ目につく生き物全てを食べ尽くして移動すると言う、言ってしまうと自然災害です」
「僕が!説明しようとしていたのだ!」
あの、ギャグやってる場合じゃ無いです。貪るスピノ君、こっち向いた。こっち来た。
「よし決めた!ここは俺に任せて先に行け!」
「なっ、たった一人で相手をすると!死ぬ気ですか!」
「ローンワーズで苦しむ人達が少しでも早く救われるならここが命の捨て所よ!武士道とは死ぬ事と見つけたり!」
「さむらい!」
スピノ君に向けて走り出しながら右手で聖剣を抜いて左手で聖書を持ち出す。
エンチャントせずに自分ヒールで何とかしてやらぁ!
あかん、全然HP減らない。凡百の聖剣マジダメージ通らない。
これは良い、全然HP減らない。聖職の円柱兜のおかげで尻尾ビンタされても噛まれても爪に引っ掻かれてもダメージ食らわない。いや四割くらい持ってかれてるけど、二連攻撃で八割も消し飛ぶけど即死じゃないならヒールで全快になって戦える。
つまり膠着状態。それでも五割削れてしまった。
その時咆哮を上げて全身が真っ赤に染まるスピノ君、おこなの?食べようとした奴食べれなくておこなの?
尻尾のダメージが八割になった!ヤベーぞ発狂モードだ!油断したら死ぬ。
回転して尻尾を振り上げるスピノ君を見つめる。右か左、頭の方に避ければ尻尾の追撃は来ない。どっちだ?
次の瞬間、茶色の塊が巨体を吹き飛ばした。
あまりの光景に思考が止まる。え?何?何が起きたの?
「さむらい!乗れ!」
「は?え?女騎士さん?」
二体の馬が引っ張る馬車。その御者台に座る女騎士さんがこちらへ手を伸ばしている。
振り返れば頭を振りながら起き上るスピノ君。
「いつかお前をソロで倒す!それまで待っているがいい!」
手を取り地面を蹴って彼女の隣に座ると「ハイヤー!」と手綱を振ると馬が全力疾走して逃走を開始。
ちょっと後ろを見ればスピノ君が恐ろしい形相で追ってくる。お前こっちは二馬力だぞ!お前何馬力だよ!
草原から森へ入るとこっちのスピードは変わらないのに対しあちらは遅くなっていく。ああ、デカいからか。馬車も小さくは無いんだけどな。
撒いたら直ぐに森の中にある土の道に出て一息つける。あっそうだ感謝しないと。
「何はともあれ、助太刀感謝いたす」
「なに、私としては無駄足にならずに済んで良かった」
そうだよな、態々町?に行ってから戻って来たんだもんな。AIが凄い人間みたいな行動してる。待ってこれ一人一人AI搭載されてんの?それとも噂の五体の内数体が管理してんの?
どっちでもいいか!考えても分からない事は考えない事にした!
「半分は減らしてやったんだけど、俺の防御が心もとない」
「防具は装備しないと意味がないぞ」
「そもそも買ってねぇから心配無用」
いずれ防具も聖職の何某でそろえて見たい気持ちもあるが、別に独占するつもりないし、そもそもゲーム内固定数なのかもわからない。率先して狙うのは最強の聖剣が収められるべき石の台座ただ一つ。
改めて目標の確認をしているとガラと木の擦れる音が後ろから聞こえた。
「良く持ちこたえたね、褒めてあげよう」
「ご無事な様子で良かったです」
「え?君達乗ってたの?」
「ここまで来たら一蓮托生さ!」
「一緒に旅をしている仲ですもの」
なんだ、なんだ?楽しいなお前等!こうやってガワ沼に引きずり込むのか!なんて恐ろしい手法だ。
感心と言うか感動と言うか、そんなことを思っているとウィンドウが突然開いた。
[サイトー]:こんばんわ。今大丈夫ですか?
今何時?いつの間にか七時過ぎてら。丁度に連絡入れられてたらスピノ君との大戦闘中だったしむしろ良かった。
[ノーマル]:大丈夫です。ちゃんと寝れました?
[サイトー]:ええしっかり寝ました。今はどちらに?
[ノーマル]:ローンワーズ向かってます。ジョブイベントですね
[サイトー]:ジョブチェンジイベントは他の人が参加できませんね
[ノーマル]:まあそうでしょうね。ネタバレしないでくださいね?
[サイトー]:むしろ聞かれたらどうしようかと
[サイトー]:ジョブチェンしたら連絡ください。このまま昨日の時間までやると、大体二日後くらいですかね
[ノーマル]:そんなにかかるのか、楽しくなってきた
[サイトー]:何か面白いことありました?
[ノーマル]:猛る凶食ってのとあいました
[サイトー]:えっ、ユニークじゃないですか
[ノーマル]:五割削ったら攻撃力上がりましたね
[サイトー]:信仰極振りで良く耐えれましたね
[ノーマル]:防御100あるんで単発四割、発狂後は八割にになりましたね
[サイトー]:え?信仰極振りですよね?
[ノーマル]:信仰極振りですよ?最初に凡百の聖剣使えるまで筋力と技量に振りましたけどそれ以外は信仰ですよ?
[サイトー]:謎の防御力に不安になりますよ
[ノーマル]:防具は装備しないと意味無いですよって叱られました
[サイトー]:ああ、底筋力底持久でも装備できますもんね
アンジャッシュが起こってる?そりゃステータス=防御力の装備があるって発想は知ってなきゃ無いわな。
[サイトー]:クエスト、頑張ってください
[ノーマル]:デュラハンとかこわいよ俺は
あっ返事来なくなった。今は馬車旅を楽しむ事にしよう。現実で馬車なんて、なんかニュースで見たような気はするけどそこまで好奇心無いしな。VRでなんでも楽しめる時代だからな、AIも凄いし俺が成人したら世界はどうなるのか末恐ろしいわ。