旅立ち
書きたい衝動が抑えられなかった
「っしゃ!終了!長かった!ドロップが、長かった!」
テレビの中では鍛冶屋のおっさんが真っ白に輝く剣をこちらへと差し出している。
これでこのゲームに登場する武器全てに神聖属性を付与し、最大強化した。
そう、俺は神聖属性フリーク。買うゲームはもっぱら神聖属性があるゲームのみ、ステータスは信仰に極振り、職業を選べるのであれば全てが信仰にボーナスがつく聖職者系、信仰ビルドのキャラが使えるタイプの魔法は一切使わない。
そんな縛りを新たに抱き、次なるゲームを求めていざ行かん。
ゲーム機の電源を落とし、テレビのスイッチも切り、パソコンに向かって座る。
検索エンジンにワードを入れ、目に入ったのは最近流行のフルダイブ型仮想現実大規模多人数オンラインゲームの二週間前に発売された代物。
Go Also Walk to Anywhere
略して、ガワ。酷いあだ名だ。
オンラインゲームがそもそも好みではないから細かい所までは知らないけど、なんでも五体のAIがデータ周りを管理しているとか。
そのAIがゲーム内の詳細なデータを書いた部分を削除して回っているそうだ。
おかげで攻略wikiは無いし、武器データの必要ステータスも分からない。大型掲示板は無く、ゲーム内掲示板使え!って事なんだろう。
存在しているのはこのガワ武器wiki。武器の名前とスクリーンショットだけがある奇妙なサイトだ。
凡百の聖剣
青い鞘、青い柄、金の柄尻、金の鍔のロングソード。
一目惚れした。
気が付いたら寝間着からシャツジーパン姿で、手には近くのゲームショップのレジ袋とレシート。
そしてパソコンにダウンロードされているガワ。一体俺は何時買ったんだ。
気を取り直して、部屋に安置してあったヘルメットを手に取る。
これがVR機器、コイツにソフトをダウンロードする事も出来るが、オンラインゲームだとパソコンに直結している方が処理が早い。
最新型だとバッテリーも内蔵されてるけどそこそこ古いタイプなのでコンセント付き。
ネット通信は電話線で直結!ヘルメットにもあるが繋いでるパソコンが既に電話線なので問題なし!
つまり接続は全部直結でよし!
今の内にトイレ行って、飲み水用意して、ヘルメット軽く磨いて、ダウンロード終了のお知らせ。
では被り、ベットに寝転がり、布団を被りゲームスタートじゃい!
え?あっ名前。良く使う名前とかないしなぁ。
凡百の聖剣。凡って平凡、普通って事だろ?じゃあノーマルだよな。
百、ハンドレッド。
の、確かofとかで良かったはず。
聖剣、ホーリーセイバー!あれ?ソード?どっちでも良いか。
つまりノーマルハンドレッドオブホーリーセイバー。
じゃあ名前はーノーマルオブハンドレッド。長いしオブ要らないな、ノーマルハンドで。
なんか似た語感の言葉があった筈。なんだっけ、分かんね。
職業はー、聖職者見習い。全職見習いスタートなんだな。チュートリアルで見習い取れるのかな。
ステータスは、あっこれ後から振り分け出来る。後でしよう、信仰極振りして筋力技量足りなくて装備出来ねぇってなったらただの馬鹿だし。
顔、顔ォ!やっべさっぱり考えてなかった。テンプレート使う?少しいじる?ランダム?
めんどくせぇリアルフェイスだ!隠せば良いし。
それじゃ行こうぜノーマルハンド!
視界全部が真っ白に光り、収まるとそこは開けられた大きな門の前。
ウィンドウを開けば二画面出てきた。
俺の全身が映る画面と、メインメニュー画面。
真っ白いローブに、腰から小ぶりのメイスを下げた俺。
ステータスが写っていて、クエスト、アイテム、フレンド、掲示板等のボタンがある。
マップが無いので街へ入って観光しよう、そうしよう。
風が吹いているのが分かる。街の人々の声が聞こえる。出店で売られている焼き鳥の香りがする。地面を踏んでいる感触が分かる。
俺がやったVRゲームなんて機械の操縦が出来るって触れ込みの無料のやつだけだったから五感があるのに驚いた。あの手のゲームってハンドル握ってる感触しかないんだよな。
俺が探しているのは教会だ。ここまで大きな街ならあるだろう、そこで俺は凡百の聖剣の場所を聞くんだ。聖剣だし地面に突き刺さってんだろ。
金取られるのかなぁ、お布施とか言って。所持金確認しとこう、メニューのアイテムからで良いのか?あっステータスにあるじゃん。千?千円って事?良くこれで田舎出て来れたなノーマルハンド。
チラッと出店の焼き鳥を見れば一本50。マジかよ二十本しか買えねぇ。
クエスト一覧を見れば依頼文に報酬も添えられている。
人助け系、最低でも50なんですけどこの世界の住民は生きていけるんですかね?
なんて思ってたら素朴な教会を発見!のりこめー。
まるで結婚式を妨害するかのような勢いで扉を開けて中へと入る。
左右に並べられた長椅子と、その間を通り真っ直ぐ伸びる真っ赤なカーペット。
カラフルで綺麗なステンドグラスを通った光に照らされ真っ白い、しかし凝った装飾の修道服に身を包んだ人が祈りを捧げている。
ゆっくりとした動きで立ち上がり、こちらへと振り向く。
綺麗な輪郭、薄っすらと浮かべる笑み、閉じられたままの瞳、ベールに隠された髪、翻る修道服。まるで絵画のようで、しかしこちらへと歩み寄って来ている。
そして透き通った、鈴の音のような声が誰もいない教会に良く響いた。
「ようこそ。辿り着いのですね、見習いさん」
「あっはいどうも、凡百の聖剣が欲しいんですけど」
「ふふっ、変わっていますね。ですがご安心を、聖剣は聖職に連なる者全員に与えられます」
両手をゆっくりと胸の前に翳し、そして手の上に鞘に収められた剣が現れた。
恐る恐る近付いて、片膝をつき両手を掲げる。
手に伝わる確かな重さを感じ顔を上げる。
青い鞘と柄。金の柄尻と鍔。念願の凡百の聖剣が、俺の手にある。
刀身を引き抜き、立ち上がりながら、少し重い、薄く発光する聖剣を空へと向ける。
スクリーンショット撮ろう。あっアングル選べるんだ。じゃあ真後ろから見上げるように、おっ、カッコいいやん掲示板に上げたろ。
「聖剣は成長させることができます」
勇者誕生の瞬間の様なスクリーンショットを掲示板に無言投稿してホクホクしていたら修道女さんが話し始めた。
「凡百では数打ち急造の量産品ですが、鍛える事でより良い聖剣へと成長するのです」
「外見変わります?」
「え?ええ、変わります。飾りは変わりませんが、鞘と柄巻きの色で判断する事が出来ます」
「じゃあいいです」
「へっ?」
目を見開いた。ほほー、綺麗な緑色だ、作り込まれてるなー。
「俺、これが好きなんです。だから俺はコイツで行きます」
「あの、とても弱いですよ?」
「関係無いですよ。一目惚れしたんで」
聖剣を鞘へ納め、ウィンドウを出してアイテム画面から装備画面へと移動させ装備する。
その時笑い声が響く。これまでの声音とは随分と違う、感情むき出しの笑い声。
「本当に、変わっていますね。貴方がどこまで歩いていけるのか、見守らせて頂きますね」
「好きにしたらいいんじゃ無いですかね。じゃあ、俺行きますんで」
「少しお待ちを、すっかり忘れていましたが聖書をこちらに」
聖書?アイテム欄を開いて見るがそれらしいのは無い。もしかして装備?と思ってみれば胸元に装備されているらしい。
ローブの懐に手を突っ込むと何かに触れるので引っ張って見る。茶色いカバーの本、中身は、白紙?
本を閉じて修道女さんに渡すと表紙に手を添えて何やら呪文を唱え始めた。
彼女が次第に光り出し、ドームのように広まり、本へと収束していく。
「更なる信仰をお積みなさい。さすれば貴方は聖職のより高みへと至れるでしょう」
そう行って本を返してくる。パラパラと捲って見ると何か書かれてる。きっと聖職が使える魔法なんだろう。
ステータス画面を開き、数字を確認!
PN:ノーマルハンド
LV:1
JOB:聖職者見習い
HP(体力):6
MP(魔力):7
END(持久):6
STR(筋力):8
AGI (敏捷):5
TEC(技量):7
EDU(知識):8
FAI(信仰):12
LUC(幸運):10
Free(自由割り振り):10
ふむふむ。つまり10ポイント割り振れる。
おっと凡百の聖剣のステータスの確認するのを忘れていた。
凡百の聖剣
STR:10
TEC:10
FAI :15
斬撃攻撃力:50
神聖攻撃力:50
つまり信仰を3ポイント割り振ってから修道女さんに話しかけて見る。
「更なる信仰をお積みなさい」以下略と返される。
いっそ信仰を20まで振って見ると、「聖書をこちらへ」と会話が変わったので素直に本を渡す。
表紙に手を触れ、なにやら呪文を唱え光だし、収まると本の外見は青い革へと変化していた。
「終わりました。これにて貴方は聖職者。旅を経て研鑽を積み、より高みへ」
差し出された本を受け取ろうとして気がついた。
これまで白かった袖が青くなっている。聖職者はランクで初期装備の色が変わるのか。
男なら青に染まれ!
次回未定です