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旧約、神様のたまご。  作者: かんざし亜紀
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悪魔の子供

戦場。兵法とは欺道成。

決まり。人が決めた約束事。

卓上の外で勝負は決している。


神の行いが全て善とするなら、悪魔の行いは全て悪なのか?

報われる。報われない。等は関係無く、誓約に従い約束を違えない悪魔の行いが全て悪なのか?

私は悪魔の子供。

生まれ持った才能と言う宝箱等ない。今まで生きられたのは努力の賜物。

思考を止めたら全てが終わる世界で、約束通りに【人】の願い事を叶えて、叶えて、叶えてきた。

病気の息子を救って欲しい。

貧乏な母は神様に祈っていた。

神様は救いの手など差し伸べない。

人が死のうと、生きようと、神様には無関係だから。

母は私を選んでくれた。

息子は見る見る回復して行った、母は痩せ細り目が見えなくなった。次第に変わる容姿を見詰めて、息子は傍らに立つ私を罵った。

尤も、奇跡等でも息子の寿命は三十二歳なのだから、母が魂を差し出す必要は無かったのも知らずに罵倒を浴びせる。

嘘を吐かない。約束を守る。才能が無い人間に分不相応な作品を作らせる事も出来る。

価値観は神と人とも違えど、人に近いと私は考えている。

悪魔と神、どっちが合理的で世のため人のためになっている事か。


嗚呼、今日も人の為に地獄を創ろう。


受験戦争。子供は同世代と競う。

高度成長期。夢も希望も競う。

良き大学を出て、家庭を持つ。

自分らしく生きるより、正しい教育を。

正しい教育より、自分らしく生きる事を。

何の為に勉強をするのか?

自分の為、家族の為、富名声権力の為。

無価値な人間の戯言を歌いながら私は探す、私を望み選ぶ人間をーー。


一人の少年を見付けた。

彼は受験に失敗した。

志望校に落ち、第二志望に受かった。

素晴らし教授と優しい同級生と勉学に励んだ。

第一志望校に落ちた事を正解とさえ考えている。

「逆に良かった」と彼は微笑む。

合理化。有名な話をすると、キツネは山葡萄を見付けた。

高い位置にある葡萄を食べようと、必死に跳ねた。

しかし、届かずに。

あの葡萄は酸っぱい。と、吐き捨てて行った。

自分の能力の無さを、どうせ食べられても酸っぱいと自分を慰める。

この少年も同じ。

第一志望校に受かっていれば、より良い未来を与えられただろうに。

弱者の考え、愚者の発想。

さぁ、キツネ狩りの時間。

弱った人間は心臓を掴み搾り取り、亡くなったら潰すだけ。


花弁。少年は青年へ。

バス。揺れる窓は大学へ。

三度目の春は成人式からの冬休みを開ける。

と、言っても、大学は春休みの方が長かった。

青年は次の就職活動を考えながら、モラトリアムを楽しんでいた。

「すいません、一号館の行き方を教えては頂けませんか?」

青年に私は声を掛けた。

「新入生かい?」

驚いた風に青年は私を見る。

「道が分からなくて…」

なんにも知らない顔で続ける。

「なら、まずは上の学園図を教えてあげるよ」

青年は人の良さそうな声で案内をしてくれた。

優しい二重と少し明るい髪が揺れる。

彼は私の知っている事を嬉嬉として語る。

可愛くて、笑みを浮かべて仕舞いそうに成る。


一度別れて、二度目は学食で出逢った。

「朝はありがとうございました」

級友に囲まれる輪の中の青年に礼を述べた。

「誰?この可愛い子」

「いつの間に仲良くなったんだ」

周りの声に笑いながら、

「わざわざありがとう」と、青年は照れ笑う。

「今日は午前中迄なので私は帰りますね」と、私は一礼をして立ち去る。


今回のキツネはどうやって狩ろうかしら。

私は愉しく考える。

前の人間は借金を苦に自殺した。

お金を失うのは血を流すのと同等の痛みを精神に与える。

勝手に欲にまみれた、勝手に死んだ。

今回は違う、受験に失敗した過去を就職に活かしたいと未来を想像する青年。

見た目も良く性格も良い。澄んだ心の持ち主は楽園よりも地獄へ。

植物人間の様な死んでいるのか生きているのかも分からない無価値なモノは、勝手におもちゃ箱へ。


何度も青年と会い願い事を聞いた。

青年は顔を赤らめて「付き合って下さい」と、告げた。

これは困った。

願い事が簡単過ぎて詰まらない。

一日、一時間、一分も付き合って、トラックに轢かれてぺちゃんこでは味気無い。

「先輩は来年から就職活動ですよね?一番、入りたい会社ってあ有りますか?」

「まだ、決まってないんだよ…進路」

真剣に悩む顔が可愛い。就職の為に恋愛に現を抜かさないで、と、私は言っては居ないが、「ありがとう」と、俯く耳を見詰める。

願い事を就職にして望んだ会社に入れたのに、こんなはずじゃ無かった…と、過労死させたい位に苦しんで嘆かせたい。

私も彼が好きだから。

「だったら、先輩の親御さんを楽させたいとか」

「多分、笑って暮らしてるよ」

唐突過ぎた。この願いなら楽にする。殺してしまって、失意の後追い自殺。

「あの、付き合ってくれないの」

痺れを切らして彼は答えを急かす。

「はい、喜んで」

私は残念に想いつつ笑顔で答えた。


車。優しく触れる。

声。綺麗な四肢は曲がる。

青年の顔だけは綺麗に歪み、苦悶を歌う。

こんな、些細で詰まらない願いで死なれても困るのに。

私は次のキツネを探しに街を後にした。

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