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旧約、神様のたまご。  作者: かんざし亜紀
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願い事。

寿命。有限に少しずつ削られていく。

日々。ただ立ち尽くしていても通り過ぎて行く。

人は無限には生きられない。

ただ、生きる残り時間が在る分には、神様と呼ばれるモノはよりは輝けるだろう。


かつて、私は清らかな川の神だった。

社は取り壊されて人には忘れ去られていった。

歩いて来た道は少しずつ目減りした、存在の証明をする洪水や地震を起こしても、人達は、子供達は神を、私を疑いもせず化学、雑音を信じる。

神の行いに善悪は無く、全てが、善だとしても考えてしまう。

法律が無ければ、犯罪者は生まれない。

裁く法律が無ければ、犯罪と言うものは生まれないに等しい疑問を、矛盾を考える。

私は忘れないで欲しい。この土地を守り慈しみ共に輝いた神様をーー。



雨。斜めの水音。

朝。透明な色を染めていく。

川の水嵩は少しずつ繰り返しなぞり増していく。


「優一、浸水するよ!祠が大変だよ」

黒髪の少女が少し慌てた様に、ダンボールを指差す。

「大丈夫大丈夫、また、ダンボール探して作れば良いだろ」

呼ばれた青年は少し眠たげに答えた。

「この水はダメな気がするの、飲まれたら終わりなんだよ」

「何がだよ」

少女は、じっと小さな本を捲り呼び掛ける。

「聖戦なんだよ」

「意味が分からない」

心底不思議に優一は答えた。

寝起きのぼやけた頭で、優花の話をまとめると。

神様と神様は時に戦う。破れたモノは消えるか、悪魔になるか、使役される。他にも何か言っていた。

有名なのは、アザトース。クゥトゥルフ神話の旧神で闘いに敗れ知性と理性を失い地下に幽閉された。

有名なのは、ベルゼブブ。悲しき気高き主バアルゼブブと呼ばれたペリシテ人の神様は、ヤハウェと言うヘブライ人の神様に、否、人に負け。名を失い蝿の王とされた。

有名なのは…優花は本を読んで聞かせてくれた。

「つまり、この雨を止ませれば良いのか?」

「えっと、うん…」

「歯切れが悪いな、聖戦なら勝てば良いんだろ」

「勝ち負けは無いよ」

「無いの?」

「この祠を沈められなければ負けは無いから」

「負けたらどうなるんだ」

「分からないよ、時と事情によるだね」

「ダンボールが沈んだら終わり、か…」

「祠だから!」

小さな領土。ささやかな居場所を守るよ。

優花は右手を掲げて呟いた。


足。浸かる川水。

石。濁り見えない感触。

二人で手を繋ぎ不自由に自由な道を進んだ。


「優花、どうやって雨を止めるんだ?」

問の答えは、雨音と水音に囁き落ちる。

少しずつ拾い、まとめるて考えた。

人の作った神様なら信者の数が神格に繋がるから、単純に声の大きさ、多数決に負ける。

自然の作った神様なら池や川の大きさ、物量に押し切られる。

徒手空拳で挑むだけ負ける。

ただ、今回は、それが私を呼ぶだけだから。

真正面から挑むだけだよ。

そして、寂しいと泣く神様の話を聴いて慰めるだけかな。



悲しい。苦しい。寂しい。口惜しい。痛い。

喉が渇く。水が欲しい。

不意に、頭に映像が覚める。感情が揺れる。目的地は穢れを脅迫する。

朝焼けに近い紅い空は、灰色に燻る。

黒い人型の影が蠢き飲まれる。

「辛かったんだね、神様は万能では無いから守れなかったのが、悔しかったんだね」

優花は優しく病みに語りかけた。

「忘れられた訳じゃないんだよ、最期まで信じてくれていたんだよ」

返事の無い空を見上げる。

「信じてくれた人達はもう此処へは帰れないんだよ。ただ、君のそんな主張を映すのは辞めて欲しいかな」

水面を手で撫でる。

「私が貴方を見付けてあげたから。もう、許してあげるから、ただ、守りたくて守れなかったんだね」

健やかに 眠り賜う日と 夕の花 夕日の橋の河原へと流れ出久は 諸々の禍事罪穢れ有らばむは祓え給へ清め給へと…

頁を捲りながら手作りの祝詞を読み。

聖戦は終わった。


記憶。川原を子供が詰まりながら歌う。

祭り。笛と青年の滑らかな声が新月を照らす。

月日は満ち欠けて、また、小さな子供が歌う。

不思議と寂しいと思わない別れが流れる。

面影の在る子供の子供が生まれ育って逝く。

知らない花々が咲く季節にも、人は寄り添う。

断片的な笑顔は溶けて、溶けて、溶けて居った。

神様としての誇りを譲れない気持ちを見失い。逃げ出す事も出来ない、渇いた毎日の残り。

神様で無くなりつつも、手を伸ばした主張は傍に居て欲しい誰かを探しすり減らした答え。

雨は上がり月明かりが鍵をかけた。

「帰ろっか」

優花は石を一つ救い何かを呟いて戻した。

「何をしてんだ?」

「石に意思を込めたんだよ」

「駄洒落かよ」

「あーもー、この川の元主は生まれ変わるって言ってたから貰ったんだよ!土地を!」

「何処かの転売屋かよ」

「不動産屋さんじゃないやい!領土を広げたんだよ!一河川も!!」

「はいはい、って、神様って生まれ変われるの?てか、死ぬの?」

「死ぬよ、自殺だったり人に忘れられたり…後は…」

小さな本を睨みながら難しそうに続ける。

「今回は、神様の残留思念みたいなものだったから、どんどん穢れて苦しんで助けを揉められたから、願い通りに何かに生まれ変わらせてあげたんだよ」

「そっか、次は人間に成れたら良いな…」

「うん、って、あーダンボー…床がふやけてる!壁も!」

「また、ダンボール貰いに行かなきゃだな…」

「えー、あのスーパーは…ちょっと…」


神様のたまごは、土地神と川の神様見習いへ小さく大きな一歩を進めた。


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