06
俺はただ淡々と言うだけだ。
それは挑発でもあった。
「言いたいことはそれだけか。俺はもう帰る」
俺は怒りを抑えきれない紀子を後目にファミレスを出た。
「ちょっと待ちなさい!」
クルマに乗ったとき、紀子がファミレスから出てきた。
何か叫んでいるようだが、無視をした。
いちいち聞いていたら面倒なことになる、と自分に言い聞かせていた。
本心は…解らない。
ただ紀子が憎いだけなのか、それともあの剣幕で来られて逃げたかったのか。
ともかく、俺は奴を母親だと思わない。
絶対に…
「思いたくねぇ」
こんな呟きもクルマの排気音によってかき消され、わずかに自分の耳に届いただけだった。
家に帰り、クルマを車庫に入れた。
その時、ふとケータイを見るとメールが一通届いていた。
工藤…いや、玲香からだ。
メルアドを交換する際、下の名前で呼んでと言われていたのだ。
内容は、
「届いてる?」
であった。
教えられたメルアドが合っているかどうか確認したかっただけらしい。
俺は
「ちゃんと届いた」と返信した。
そして、冷蔵庫を覗いて今日の夕食を考える。
確か、明日は親父が帰ってくる日だったな。
なら買い出しに行かないといけない。
流石に卵と野菜が数種類では少なすぎる。
…今行こう。
これだと夕食もままならない。
それにもうすぐタイムセールの時間だ。
1時間後、タイムセールのおばちゃんパワーに押されてクタクタになりながら帰ってきた俺は、今晩の夕食を作るのだった。