こういう始まりも悪くない
金曜日の夜、居酒屋が並ぶ繁華街は仕事終わりの社会人やサークルの集まりらしき大学生で溢れかえってた
明るい大通りとは逆に薄暗い路地裏に向かって1人の女性が歩いていた
「Moonlight…ここね」
彼女、菜摘が立ち止まったのは月光という看板のある小さなバー
菜摘は店の前で深呼吸をし何かを決意したような顔をしてバーのドアを開いた
カランコロン
「いらっしゃいま、、、あれ?なっちゃん?」
出迎えてくれたのは長い黒髪の顔の整った青年
彼の装いからするとこの店のバーテンダーのようだ
「なっちゃんが来てくれるなんて嬉しい!どうやってここまで?」
菜摘が先程から怒りを隠してプルプル震えてる事にも気付かず青年は落ち着いた声で話し掛けた。
「どうやって?どうやってですって!?隼人が何も言わずに私の前から消えてから数カ月!おばさんに居場所を聞いても知らないって言われるし!どんだけ探したと思ってるの!?」
「え、なっちゃん?僕のこと探してくれてたの?」
突然叫びだした女性をすぐ近くの席に座らせてから、青年も隣の席に着いた。
「探すに決まってるでしょ!私に告白しといて返事も待たずに逃げるなんて馬鹿でしょ!貴方何がしたかったのよ!?」
「いや、だって久しぶりに会ったなっちゃんすごく綺麗で…酔った勢いでホテルまで誘っちゃって…でも次の日酔いがさめた君に軽蔑されたくなくて…」
「だから馬鹿だって言ってるのよ!私は同窓会で酔っ払うほど馬鹿じゃないのよ!さらに言うと酔った勢いでホテルなんて行かない!」
「え?なっちゃん酔ってなかったの?どういうこと…」
「まだわからないの!?貴方だから酔ったフリをしたの!隼人だから抱かれたのよ!」
「な、なっちゃんそれって…!」
「ずっと好きだったのは私も同じって事よ!わ、私隼人が行くって知ったからいつもよりお洒落したのよ…やっと抱いてくれたと思ったら朝には消えてるし…ショックだったのよ」
「ご、ごめんなっちゃん!僕そんなつもりなくて!」
「もうわかったわよ…貴方が女性慣れしてそうな顔のくせにヘタレだって事を忘れてた私も駄目ね」
「僕、ヘタレ?」
彼の情けない顔を見た菜摘は怒りが収まったようで静かに溜め息をついた
「ねえ隼人、私結婚しようと思ってるの」
「結婚?何言ってるのなっちゃん!?さっきの会話で僕たち両思いだって発覚したはずでしょ!?なんで結婚!?誰と!」
「馬鹿。あんたとに決まってるじゃない。」
「へ?」
「隼人にまた逃げられないように結婚したいなーって」
「もう逃げないよ!!!」
「ん?結婚は嫌?」
「違う!そういう事じゃなくて!そりゃあ僕もウェディングドレス着たなっちゃんが見たいし、その時は僕が横で歩けたらって思うけどまだ両思いなの実感湧かなくて…」
「隼人にはもっとしっかりして貰わないとね。私はね、お腹が大きくなる前に結婚したいの」
「え?お腹が…大きくって」
「今安定期に入ったとこよ」
「なっちゃん!?僕パパ!?パパになるの!?」
あまりの驚きに席を立った隼人を見て菜摘は笑みが溢れた
「1度寝たくらいで、とか思わないの?」
「なっちゃんは嘘なんかつかない!何年君を見てきたと思ってるの!?」
「あら、何年なの?」
「…高校生の時から」
「ふふっ…似たもの同士ね。私もよ?」
青年からはいつもの妖艶な雰囲気は消え、今は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にし少年のようだった
「僕がパパ…ってそうだ!それなら僕なっちゃんの両親に挨拶を!その前に謝らないと!あっ、1発殴られる覚悟しないと…」
青年は顔を赤くしたり青くしたりと忙しそうだ
そして何かを思い出したような顔をしたと思ったら店の入口まで走っていった
「なっちゃん、もう今日はお店閉めたから!一緒に帰ろう!これからの僕達について話さないと!」
菜摘は彼の言葉で自分たちにはこれからがあると知って頬を染めた。
「ありがとう、隼人」
「なっちゃ…えっと…菜摘…愛してるよ。僕を探してくれてありがとう。もう絶対逃げないから幸せになろうね」
強い女の子がイ腹黒イケメンに食べられちゃうお話を書くつもりがヘタレわんこに…