名付けられなかった名前
妻を失ったバルガンが完全に立ち直るには数年の時間を要した。
バルガンが立ち直るまではマダラフが国の代表を仮で務めていたが、バルガンの復活をもって正式な話し合いが行なわれ、マダラフを王とした。
やはり自分の中に制御できない力と憎しみを抱えたまま王は続けられないとのことだ。
バルガンは貴族の地位も捨てて将軍の座にも残らなかった。
が、マダラフの強い要望で王の側近と軍の特別指南役を務める『鬼士団長』というバルガンだけの役割が作られて、引き続き国の為に力を振るう事になる。
王を交代して関係性に慣れていった頃、二人はほぼ同時期に同じことを考えた。
もしザムが生きていたら、「出会った時からバルガン様が敬語を使い、マダラフ様が敬語を使わないので、あまり違和感がないですね。」と言っただろうなと。
だが改めて話すことではないなと胸の内に大事にしまっておいた。
今までの付き合いまで解消はしないが、他国との交流は少し控えた。
鬼族は長寿。世代交代には時間がかかる。すぐに心の傷が癒える事はなく、次世代が育つまでは焦らないで国を発展させていこうと二人で話し合ったのだ。
ロイド王との個人的な交流はもちろん続いたが、国同士の交流は徐々に減り、ロイド王亡きあとの次世代とはほぼ交流が無かった。
時は流れて悪魔戦争。
煮えきらないあの戦争を生き残ったマダラフとバルガンはアルアが残した約束の子供を一人、鬼の国に連れて帰った。
「バルガンよ。
アルア様も関係し、色々な思いもあるが、我は虐殺をした償いにこの子を育ててみようかと思う。」
「もちろん反対は致しません。
全力でお手伝い致しますよ。」
すやすやと幸せそうに眠る人間の子供を二人で眺めながら、自分たちが子供を育てる意味を考えていた。
マダラフは子供の方を見ながらバルガンに問いかける。
「子供の名前だが、、、
良ければティア様の子供の名前を貰いたいのだがどうだ?」
それを聞いてバルガンは驚いた顔でマダラフを見るが、少しして優しく笑いながら答えた。
「サキュガルです、、、
しかしティアの話では鬼と人のハーフは双子の可能性がかなり高いとの事で、もう一つ名前は考えていたのです。」
マダラフは相変わらず子供の顔を見つめながら話す。
「困ったな。何だか名付けなかった方の名前があるのは虚しくも感じるな。」
「そうですねぇ、、、」
少しの時間会話が止まり、二人で子供を眺めていると、バルガンが「あっ!」と何かに気づく。
「先日の悪魔族と消えた子供達の中に病院にいて難を逃れた赤子がいたのです。
マダラフ様が子育てを罪滅ぼしと位置づけるなら、私も是非その子を育てたいです。」
マダラフはバルガンの方を向き直り、あの焦燥していた時と比べて再び力を宿したその強い眼差しを見て肩のあたりを拳で軽く叩く。
久しぶりにとったコミュニケーションだが、何を言いたいのかはすぐに理解できた。
マダラフはグズり出した赤子を抱きかかえて、バルガンに問う。
「じゃあその病院にいる子がサキュガル。この子はもう一人の名を頂こう。」
「では、『リックス様』と閣下のぼっちゃんをお呼びしましょうか。」
バルガンは亡き妻を想い涙を浮かべながら、幼いリックスの笑顔につられて笑った。
久しぶりにログインができたので、番外編として今回の章を書きました。
これからも趣味として書いていきます。




