この愛は世代を超えて
バルガン達は解放された。
兵士達の肩を借りてマダラフとロイド王の元へ歩いてくるバルガンは初老のような風貌に変わっていた。
捕虜達が返還されている最中にアルアは鬼族に聞こえるように話し出す。
「一応の誤解は解いておきたい。
バルガン王よりマダラフ殿が来るまでの間、牢の中で過ごしたいと申し出があった。
決して人の道を外れるような扱いはしていない事は他の鬼の兵士達に聞いてくれ。
あと、あの状況で子供達を抱えて逃げてくれた鬼族の兵士達には改めて礼を言う。」
マダラフはその言葉を受けて、アルアに向かい頭を下げる。
「此度の事件がアルア様の意思で無いことは重々承知している。
失礼の数々、詫びを申し上げる。」
それを聞くとアルアも一度頭を下げて森の奥にゆっくりと消えて行った。
アルアを見送ると、マダラフはうつむくバルガンの元へ歩いて行き何も言わず抱き寄せた。
マダラフの胸の中、バルガンはボソボソと話す。
「ぼんやりと、殺した人達を覚えています」
「そうか。」
マダラフは真っ直ぐ前を見つめて答える。
「ティアのお腹には子供がいたのです。」
「そうか。」
「名前も決めてました。」
「そうか。」
「、、、私はもう王はできません。」
「、、、そうか。」
肩の震えからバルガンが泣き始めたことが分かると、マダラフは握りしめた手でバルガンの背中を軽く叩き言った。
「王など、ただの役割だ。できる者がやれば良い。」
その後しばらく泣いている二人をロイド王が力強く抱き寄せた。
一行は犠牲者達と鬼の国に帰国をした。
その足で緑の湖にティアの遺体と損傷が激しく布を巻かれたザム達の遺体を運ぶ。
結婚式をした思い出の教会の中に彼女達の遺体を並べると、マダラフが代表をして火を放った。
ゆっくりと炎は広がっていく。
ザムと森で出会ったことやティアのいた毎日を思い返していると、あっという間に炎はほぼ燃え尽きていた。
気づけば森には訃報を聞きつけた国民の大半が集まっていた。
いかにティアが愛されていたかが分かる。
しかし皆の顔は怒りや悔しさに包まれていた。
マダラフは立ち直れていない親友の代わりに多くの人々に届く大きな通る声で話す。
「今回、我々は宝物といえる人物を失った。
大森林での出来事だ。皆が獣人を恨みたくなる気持ちも分かる。
だが、分かって欲しい。関係性は色々複雑だが獣王の軍に襲われたのではなく、野盗に襲われたのだと考えて欲しい。
そして、制裁は十分にバルガン王が下した。
これ以上の報復は、平和を愛した、この国の発展を願ったティア王妃の想いと反する。」
国民や兵士達はむせび泣いている。
マダラフが大森林に臆して言っているのではなく、本当にティアの想いを尊重して我慢をしているのが分かるから皆も悔しかった。
泣きながら真っ直ぐに自分を見つめる民を見て、マダラフも涙を一筋流しながら伝える。
「我らが次世代に残すべきはこの、怒りや悲しみではない!!
子供達にはティア王妃が鬼族に向けてくれた愛を伝えよう。亡くなった王妃を守る為に罠に飛び込んだザム達、兵士達のその勇気を伝えよう。
もしも、やりきれない怒りがある者は、いつでもこのマダラフの元へぶつけに来い!!!」
すると何人かの子供が出てきてマダラフへ文句を言った。「マダラフ様は強いのになぜ守れなかったのか」「ティア様に会えなくて悲しい」と。
マダラフは「すまぬ。」「すまぬ。」と腰を落として子供達に謝り続けた。
その周りで大人たちが口々にティアとザム達に向かい叫び出した。
「これからの国を任せてください!!」
「獣族とも上手くやるので安心してください!!」
「悔しいけど、この悔しさを胸に頑張ります!!」
「我慢します!でも、ティア様がいないのはさみしいです!」
この皆の声にバルガンもうつむいたまま、涙を流した。




