新王
バルガンが目覚めたのは鬼の国の本土、東の海岸のテントの中だった。
目覚めるとそこには美しい女性が少しだけ眠そうに座っていた。
「やはり私はドラゴンに殺されて天女の元に召されたのですね。」
ティアは驚きから一瞬転びそうになり、バルガンに駆け寄る。
「バルガン様、心配致しました。お体は大丈夫ですか?」
「ははっ。きっとあなたのおかげでしょう。戦う前より好調ですよ。」
声を聞きつけてマダラフとザム、ロイド王がテントに入る。
ロイド王は友の偉業を称えて少し嬉しそうに、しかし立場があるにも関わらず無茶をした事に多少怒りを持ちつつ髭を撫でながら話す。
「馬鹿者が。上級治癒師のティアがいなければ貴様は大量出血で死ぬか、奇跡的に助かっても指がなくなって文書一つまともに書けない王になるところだったのだぞ。」
ティアはロイド王の肩に手をかけて少し落ち着かせつつ美しく微笑む。
「皆が焦ってバルガン様に駆け寄る中で、冷静にバラバラになっていた指を拾い集めてくれたザム殿が一番の貢献者ですね。」
それを聞いて照れているザムに向かってバルガンはゆっくりと体を起こした。
「ありがとうな。ザム。」
今まで何か他人と距離をとるように平民のザムにすら敬語を使っていたバルガンの心から出た言葉に、ザムは感激して跪いた。
ロイド王は少し気が晴れたのかいつも通りの大きな声で笑った。
「少しバルガン殿と二人にしてくれるか。」
皆が談笑をする中、マダラフがそう言うと、ロイド王が大きく頷いてザムとティアの肩に手をまわして歩き出し、テントを後にした。
テントの外からティアが「体に何かあればすぐにお声がけください。」と言葉を残していった。
皆がいなくなるとマダラフは真剣なトーンで語る。
「バルガン殿。鬼化のその先、使ったのか。」
「えぇ、私にできる一番深いところで鬼化を使いました。
あれは、、、まるで神になったような物凄い万能感でしたが、なぜでしょうか、、、、使わない方がいい。」
そう言って下を向くバルガンの姿を見つめながらマダラフはより深刻に語る。
「ティア殿も力を尽くしてくれたが、その白髪は治らなかった。
恐らく体力を使う普段の鬼化と違い、生命力そのものを使う禁術に手が届いてしまったのだろう。
もう二度と、使うな。」
バルガンは少し張りのなくなった自分の腕を見つめていた。
「『鬼神化』とでも名付けましょうか、、、鬼神に近づいて後悔をした2人目の青年は私でしたか。」
その少しさみしげな姿を見てマダラフは気を取り直し、バルガンの背中を軽く。
「だが、バルガン殿。
ドラゴンの討伐、お見事であった。
この偉業、皆が王と認めよう!」
そして二人でテントの外に出ると、主役がいないにも関わらず、ロイド王中心にどんちゃん騒ぎが始まっていた。
マダラフとバルガンは顔を見合わせて困った顔で笑うとその輪の中に混ざっていった。




