鬼は龍を踏み越えて
東の海岸。気持ちのいい朝、真っ暗だった空が少し明るんできた頃。
そこには人族と鬼族の連合軍が展開をしていた。
ロイド王がドラゴンを撃ち落とす為に魔法兵に展開場所を指示。
マダラフは撃ち落としたドラゴンを取り囲む手順を鬼の両国の精鋭達を集めて説明をする。
その頃バルガンは鬼の国より東の島に船で向かっていた。
その島には戦闘を好まず、漁業を生業とする鬼族が住んでいる。
その島もドラゴンが通過するため、バルガンは先に船を出してその者達の回収に向かっていた。
大人数を最速で説得してすぐに大勢を船に乗せる為、帰りの事も考えて船の準備だけさせてバルガン一人で向かってくれた。
いよいよ日が昇ってきた頃、東の海岸に雷の国の船が着く。
そこから島の鬼達が早足で逃げるように雷の国の王城に向かっていく。
最後の島の鬼が下船してから少しの時間が経った時、マダラフは雷の国の船を見ながら焦りの表情を見せる。
「バルガン殿はどうしたっ!?どこに行ったのだ!?」
その大声に最後尾にいた島の者はマダラフの方を向き、恐る恐る口を開く。
「王子は作戦で島に残ると言って我々を送り出してくださいましたが、、、」
それを聞くとマダラフは先ほどよりも大声で叫ぶ。
「ザム!!船だ!船を用意しろ!!」
ザムはマダラフが言い終わる前に既に動き出していた。
マダラフはザムと、更に選んだ精鋭達を連れて少数で船に乗り込む。
そこに事情を知ったロイド王が慌てて駆け寄ってくる。
「ドラゴンが島を通過してしまう事も考えて我はここに残る。ティアを連れてゆけ!」
そう言うとティアが颯爽と船に飛び乗ってきた。
大事な王女を連れて行っていいものかとも思うが、今は議論する余裕もなく、船を出港させた。
船を進めていくと島の方の天気だけが荒れている事に気付く、その肌を刺すような只ならぬ雰囲気に誰もがバルガンを心配していた。
「大丈夫だ。バルガン殿は鬼族始まって以来の天才だ。
先日、鬼化のその先が見えていると言っておった。
ドラゴン相手でも死ぬまい。」
皆を落ち着けるように、そして自分を納得させるようにマダラフは船に乗り込んだ者達にそう語った。
ドラゴン、、、
この世界最悪の国と言われる竜族の国より、龍王のその手によって数年に一度召喚される厄災である。
龍王はドラゴンが奪った命を生命力に変えて、遥か遠い古代より生きているとされる。
ドラゴンの討伐は想像を絶する難易度で国を挙げる必要がある。
はるか昔は現在とは別の種族も存在をしていたが、ドラゴンを討伐できる軍事力のない国は滅ぼされ、現存の国だけとなったとされている。
島に近づくにつれて波が高くなり、なかなか船を着けるまで近づけなかった。
何とかできないものかと、全員が走り回っている。
もう待てないとマダラフが海に飛び込もうとしたその時、
分厚い黒い雲が一気に裂けて、晴れ間が降り注いだ。
海も先ほどまでが嘘かのように穏やかさを取り戻し、船は簡単に島に着いたのだった。
誰も何も口にせず、島の中心に向かって森の中を走っていくと、ある場所からいきなり草木が無くなり、地面が剥き出しになった平地と化していた。
そしてその中心を見ると、
全身から血を流して立ち尽くすバルガンと、
首から先がちぎられて横たわるドラゴンの亡骸が転がっているのが見えた。
近づくにつれてバルガンの傷の深さと、そして髪が白髪に変わっている事が確認できて、その戦闘の凄まじさが肌身で感じられた。
バルガンが薄目を開けて、近づいてくるマダラフを確認すると力を振り絞って叫ぶ。
「私にっ、、、私に王を任せてくださいっ!!!」
マダラフは急ぎ足を徐々に緩めていき、最後立ち止まると、
バルガンの目の前で跪いたのだった。




