王と王と王子と王女
酒盛りは港のその場で始まった。
一人で酒を飲み始めた英雄王ロイドを最初こそ疑いの目で見ていたが、マダラフとバルガンも酒が進むにつれ気を許していった。
「聞いてくだされ、決闘もせずに王位を譲ると言うのですぞ!
そんな座らせられたような王座、誰が望みましょうか!!」
話題はほとんどバルガンの悩み相談となる。
英雄王は事の顛末全てを聞き終えると、髭を撫でながら話し出す。
「それはマダラフ殿が悪いな。」
バルガンは、ほら見ろと言わんばかりにマダラフを見る。
酒が回っている英雄王も饒舌だ。
「まぁ、王位を譲るつもりと先に伝えるべきだな。
人として当たり前のコミュニケーションだ。
しかし、他の部分も間違えている。
マダラフ殿、お前さんの見た目など気にするな!」
「鬼の国はこれから国交をするのだ。
荒くれ者国家のイメージを払拭するにはバルガンのような洗練された見た目の方がよい。」
マダラフも静かに酔っ払っているのだろう。
普段はこんなにストレートに人の事など褒めないのがその証拠だ。
ロイド王は分かる分かると言わんばかりに、大きく何度も頷く。
「それは間違えなかろう。
しかし、我を含めて王など化け物揃いよ。
どこもそれでも上手くいってるのだから気にすることなどない。」
先ほどの強さを見せつけられれば、納得せずにはいられない。
またもやバルガンは、だから言ってるだろという顔でマダラフを睨む。
マダラフはいつになく困った顔をしている。
その二人を見てロイドは小さく笑った後で立ち上がりながら真剣なトーンに変えて話す。
「だがそれでも、我もバルガン殿が王で賛成だ。
そなたも十分化け物。そして品もある。
そして何よりマダラフ殿は話すことが得意ではなかろう。
偉い偉くないではない。王などただの役割だ。
やれる事をやればいいのだ。」
この言葉に二人は大きく感銘を受けた。
自分の中に答えが見つけられそうな気がして、みるみる表情が晴れていった。
まだまだ議論が白熱しそうなその様子に一人の人族の女性が声をかける。
「王よ。大事なお話があったのでしょ。
酔いつぶれる前にお伝え下さいな。」
その女性は冒険者のような動きやすい格好であったが身につけているものは高価で、気品漂う美しい姿だった。
英雄王は彼女の肩に手を回すと。
「娘のティアだ。どうだ?美しいだろ。
そうだ!王になった方にくれてやる。
兄弟姉妹で一人だけ我に似て王城にとどまるような器じゃあなくてのぉ、強すぎるのもあって嫁に行きたがらないのだ。
そなたら二人なら良かろう。」
それを聞くとティアと呼ばれた女性は少しだけ微笑むと、サッと小さな杖を掲げて、さっきより少し低いトーンで英雄王に語りかける。
「お父様、お話を。」
するとあたり全体に上級のヒールが施され、3人の酔いが冷める。
ロイド王はやれやれと言わんばかりにマダラフとバルガンに向き直る
「龍の国より我が国に明日ドラゴンを放つと知らせが来た。
きっと我への嫌がらせだ。
真っ直ぐにタイガルドを目指しているようだが、あの厄災が鬼の国も通過する。
共に討伐を願いたい。」
マダラフ達は少し離れて一言二言話をすると、すぐにロイドの元へ行き硬い握手を交わした。




