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鬼の王子の異世界留学物語  作者: 田ノ島夜
番外編 二人の王
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二つの国 一つの王位

マダラフは前王の葬儀の後に正式に風の国の王となる。


その式典では堂々たる姿で王位を継承。

家臣たちはマダラフの元で気持ちを新たに雷の国に立ち向かおうと心に誓っている。


式典の最後、王となったマダラフは大勢の家臣の前で丁寧に、だが通る声で語り始めた。


「我は家臣に支えられ、王となれた。皆に礼を言わせてもらう。」


多くの家臣は泣き、マダラフはそれを満足そうに見つめた。

そして少し間を置いた後に決意をあらわに、一歩前に出て強い声で再び話し始める。


「我は風の国、最後の王となるつもりだ。」


家臣たちにどよめきが生まれるが、構わずに話し続ける。


「これから我々が目指す道は3つだ。

内戦の終了、鬼の国の平和的統一、他国との交流」


これを聞いて式場の半分からは安堵の声が漏れた。

マダラフ王は鬼の国の統一王を目指す。そういった話だと思ったからだ。


「我を担いでくれた皆には悪いが、これはそういう皆の思い描くような話では無い。」


王の真剣なそのトーンと少しできた間に会場は一瞬音を無くす。

そしてマダラフは強く宣言をする。


「王位はバルガン殿に譲るつもりだ。」



ここからは荒れた。

会場は怒号や泣き声に包まれる。

しかしマダラフは根気強く説明をする。


バルガンには諸外国に通用する気品と知性があること、

自身の巨体が他国に誤解を生むこと、

王位を譲ると風の国よりも雷の国の方に国内の分断を生むこと。


マダラフは納得できない家臣たちに納得できるまで付き合った。

会場では喧嘩も勃発し、ザムはこれを鎮める為に奔走した。


時間が経つにつれ納得をした者から一人、また一人と納得をして会場を後にする。

そして最後の一人が納得する頃には次の日の朝だった。



誰もいなくなった会場にマダラフは仰向けで倒れ込んだ。


「お疲れ様でした。我が王よ。」


ザムはボロボロのなりでコップに入った水を渡す。


マダラフは上半身だけ起き上がり一気に飲み干すと再び倒れ込む。


「正装だか何だかしらないが、この衣装を着ながらは重労働だった。ザムよ、この衣装を用意した者を処刑しろ。」


ザムは珍しく冗談を言うマダラフの姿を見て、笑みがこぼれた。


「この衣装はバルガン様の贈り物ですよ。」


「じゃあ、あやつに王位はやれんなぁ」



2人はその場で当分笑っていた。




一方の雷の国。

こちらも荒れに荒れていた。

風の国の王の逝去に伴う緊急会合でバルガンがこれからの指針を語ったのだ。

バルガンに従うものは多いが王はまだ存命。

王派閥と中立を足すと王子派閥は多少分が悪いのだ。

これには王も怒りをあらわにしている。


「バルガンよ。世迷言を言うな!

風の国の阿呆どもと共存などできるものか、いいように利用されて、それこそ国が滅ぶぞ。」


「風の国も同じ鬼族。我らが勝手に国を分けているだけで元は一つなのです。阿呆と切り捨てて大事な未来を見ないのはおやめください!!」


この調子で話はずっと平行線である。


しかし王は呆れながらながらも話を中断はしない。

それはこの話し合いの重要性を理解している証拠でもあった。

王は少し悩んだ後、話の切り口を変える。


「して、その統一国家が生まれた時に王には誰がなるのだ。」


バルガンはこの言葉に少しだけ勢いを削がれる。

実は何となくマダラフとはこの話題には触れてこなかったのだ。

だがバルガンの心はずっと決まっていた。


「それは実力をもってマダラフ殿から奪います。」


そう、この為にバルガンは来る日も来る日も鍛えてきたのだ。

心の底では王を譲りたくない。

マダラフを十分に尊敬しているが、抑えられない野心もあるのだ。

例え負けることになっても自分の諦めない姿を見せる。

きっとマダラフも同じ事を考えているだろう。

決闘は避けられないと。



その直後だった。

王の家臣の一人が跪いて報告をする。


「失礼します。

風の国より書状。そして同時に物見より連絡。

マダラフ王は平和的統一を宣言。そしてバルガン様に王位を譲ることも同時に宣言しました!!」


この報告に会場は沸きに沸いた。


「根性無しの風の国どもめっ」

「新王は弱腰だ!今こそ徹底的に叩くのもいいのではないか」

「雷の国、バンザーイッ!!」


皆それぞれに騒ぎ始めた。




ドォーンッ!!!



王たちの方で爆発音がした。

煙が晴れた時、地面を殴りつけた姿から前をキッと睨み、まさに鬼の形相でバルガンが叫ぶ。


「このような王位は望んではいないっ!!!

この件は一度預かる。

風の国に対し何か動きを見せた者は誰であろうと殺すっ!!」


そう叫ぶとバルガンは鬼神の森に走り出した。


「どういうつもりだマダラフ殿。」

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