鬼の国、晴れ時々暴力
暗い森の中、ザムは生乾きのスボンを履きながら自国の王子と歩くことになった。
とても恐れ多い状況ではあるが、無言で長時間歩くのも気が引ける。
ついには話しかけてしまった。
「ところで、バルガン王子とは、、、その、、、」
話し始めたと同時に聞いてはいけない内容かもしれないという恐怖でモゴモゴしてしまった。
仕方ないだろう、なにせ彼はさっき一度死にかけたのだから。
「バルガン殿か。あれは俺が子供の時に鬼神の森で遊んでいたんだが、その時にたまたま会ってな、それ以来の友人よ。」
意外にもマダラフはバルガンとの関係を事細かに教えてくれた。
お互い王子と分かった時に殺し合いの喧嘩をしたこと、二人とも他国との交流を夢見ていること、そのために国をまとめようとしていること、まるで恋人の話をしているかのように明るく笑顔で話してくれた。
そしてマダラフは遠い空を見つめながら少し考えると静かに話し出す。
「あれは統一国家となった時に王になるべき男だ。」
ザムは驚いた。そして悲しくもあった。
昨日まで殺し合いをしていた雷の国に王位を渡すなど魂が拒絶反応を起こす。
しかしそれ以上にそれを許容して譲ることができる自国の王子の器の大きさに感動した。
「お供させて頂きます。忙しくなりますね。」
ザムがマダラフと同じ空を見あげながらそう呟いた頃、森は開けていった。
それからの日々は本当に忙しかった。
マダラフ、バルガン、ザムの3人は来る日も来る日も、戦闘、治療、会議。
そしてまた戦闘、治療、会議。
ザムは戦いの火種づくりにも奔走した。
排除するべき者を戦闘に巻き込むのはとても難しかった。
時には失敗もしたし、敵を多く呼んでしまう結果もあった。
しかし四苦八苦しながら何とか3人で乗り切っていった。
余談だが両王子が連絡手段に使っていた伝達方法、ユニーク魔獣の『伝書バード』。
鬼神の森で密かに育てているこいつの世話もザムの仕事となった。
いつからだったか、鬼神の森での会議の後でバルガンがザムに戦闘訓練をするようになった。
圧倒的な巨躯と才能で戦うマダラフと違い、決して大きくないその体を効率よく、そして激しく使いながら戦うバルガンの教えはどれも理にかなっていた。
ザムはそんな毎日を過ごすことにより、みるみる力をつけていった。
そしてついには一人前の証とされる鬼化を体得するまでとなった。
が、その自信を打ち砕くかのように戦闘の際にバルガンはザムを見つけると一目散にザムに狙いを定め、瞬く間に地面に沈めるのだった。
ザムは毎度このパターンの為、ほとんど戦闘に参加できない。
これは自分の力を過信しすぎないようにする為の戒めである。
だが、本当はザムを無駄死にさせないため、無駄殺しもさせないための親心であることは、バルガン以外は知る由もないのだった。
そして傷の少し癒えた頃、鬼神の森で伝書バードに集められた3人はまた集まるのだった。
「バルガン様、少しは加減をして下さい。これではまた私は強くなったか分からないではないですか。」
「ハッ!ハッ!ハッ!ザムよ。すぐにのされてしまうのですから強くないのですよ。
さぁ、今日も訓練ですよ。」
バルガンは今日も楽しそうにザムを鍛え上げる。
それをマダラフは楽しそうに眺め、
時折、擬音ばかりの感覚的な分かりにくいアドバイスをしていた。
そんな日々が数年続き、ほぼ両国の王子の地盤が固まった時、ついにその時は訪れた。
風の国の王が逝去したのだ。




